パルコ・プロデュース『三十郎大活劇』青柳翔インタビュー

パルコ・プロデュース『三十郎大活劇』が4月2日から東京・新国立劇場 中劇場で開幕する。本作は、脚本の鈴木聡と演出のラサール石井がタッグを組み、1994年に初演された『三十郎大活劇』を新たに立ち上げるもの。第二次世界大戦が始まる前の時代に、一夜にして銀幕スターに駆け上がった若者・紅三十郎と彼を取り巻く仲間たちの切なくも熱いドラマ、そして“LOVE&PEACE”というメッセージをストレートに描く。主人公の紅三十郎を演じる青柳翔に、本作の魅力や公演への意気込みを聞いた。


――青柳さんが演じるのは、戦前の活劇スターという役柄です。本作へのご出演が決まった時の率直な思いを聞かせてください。

戦前という時代に生きる人の役を演じたことがなかったので、チャレンジだと思いました。演出のラサールさんとはこれまでご一緒したことがなかったので、それもすごく楽しみです。


――青柳さんが演じる紅三十郎はどんな人物だと考えていますか?

役にのめり込んで私生活にも影響が出てしまう危なっかしさを持った人物だと思います。ただ、まだ何とも言えないというのが正直なところです。稽古もこれからなので、今は脚本を読んで、自分でも探っている段階です。きっと稽古が始まったら見えてくるものがあると思います。1994年に上演された作品をリスペクトしつつも、自分が演じる意味や「三十郎が青柳くんでよかった」と言われるような結果を出せるよう頑張りたいと思います。


――青柳さんは同じ役者として、三十郎のような役にのめり込んでしまう「役者としての生き方」をどのように感じていますか?

素晴らしいと思います。自分自身は、いまだにプライベートにまで影響を及ぼす役を演じたことがないです。それはまだ勉強不足ということなのかもしれないですし、経験不足なのかもしれない、自分がそういう性格なのかもしれないですが。


――青柳さん自身は、どのように役にアプローチしているのでしょうか?

自分を下げて役を作っていきます。「自分はできる!」と鼓舞する人もいるかと思いますが、僕は自分自身に難癖をつけて「ここができてない、ここもできていない」とダメなところを探していきます。じゃあ、そのダメなところをどうすれば良いのか。次はこうしてみようと、何度も試していきます。


――今回、三十郎を演じるにあたっては、どんな点が苦労しそうですか?

きっとたくさんあると思います。例えば、セリフの言い回し。三十郎は“べらんべえ”口調なので、それも大変です。僕が普段話している言葉は、「~ってか」や「~だし」など、現代人そのものじゃないですか(笑)。なので、戦前という時代背景に合うように、セリフにも気をつけていかなければいけないなと思います。意識してないと、ふとした瞬間に、現代の言葉が出てしまうと思うので、どんな時も、サッと当時の言葉が出るように稽古しなくてはいけないと思っています。


――では、最初に脚本を読まれた時は、この作品のどこに魅力を感じましたか?

難しい言葉を羅列しているわけではないですが、その裏にはしっかりとしたメッセージ性があると思うので、それを演じていく過程で明確にし、伝えていかないといけないなと思いました。


――この作品のメッセージ性というのは、具体的にはどんなことだと思いますか?

まだこれだとはっきり掴めているわけではありませんが、例えば、啖呵を切るシーンでは、その言葉の表面的な意味だけでなく、その裏側にさまざまな想いが隠されていると感じました。それがメッセージにつながると思うので、幾重にも重なっているお芝居をしたいと思っています。ただ、この作品は喜劇なので。あまり気にせず頑張ります(笑)。


――演出のラサール石井さんとご一緒するのも楽しみということですが、すでにお会いしましたか?

1回だけお会いしました。その時は、役を作る上で、どんな資料を見たらいいか、どんな人を参考にしたらいいかを尋ねました。ラサールさんも今は明確に方向性を決めていらっしゃるわけではないようで、きっと稽古をして、みんなのお芝居を見ながら作ってくださるんだろうと思います。これまでの自分にはなかったものを引き出していただけたら嬉しいです。


――ラサールさんの印象は?

とても知識が豊富な方だと感じました。資料になる作品もすぐに何作もあげくださいましたし、やはり知識量がすごい。ラサールさんに教えていただきながら、僕も勉強して役を作っていきたいと思います。


――どんな作品を上げてくださったのですか?

市川雷蔵さんが出演されていた作品や無声映画です。鑑賞しましたが、あの時代の方々は皆さん、アクションがうまいなと改めて思いました。ただ今回は、当時のことは勉強しながらも、「今」に置き換えることが大事だと思います。どうしても当時の映画はグロいシーンが多かったり、トーンが暗過ぎたり、画質がテレビ向きじゃなかったりと、現在とは違うところも多いので、当時の映画はお芝居の材料として使わせていただき、「今」を意識して取り組みたいと思います。


――戦前と現在のコロナ禍は、“不安定”という意味で共通点があると思いますが、このような不安定な状況について何か思うことはありますか?

確かに大変な時期ですし、最善の注意を払いながら稽古や公演をしていかなければならない状況ですが、舞台や映画、ドラマといったエンタメは、元気や勇気を与えられる最高のものだと思っているので、皆さんに楽しんでいただけるよう最後まで完走したいという思いでいっぱいです。そのためにも、ルールをしっかりと守って、できる限りの感染対策をしながら取り組んでいきたいと思います。


――青柳さんが「エンタメから力をもらった」と感じるのは、どういう瞬間ですか?

舞台を観劇したり、映画を観たりするときです。勉強しながらではありますが、作品を観て感動したり笑ったりすることが活力になっているのだと思います。


――映画やドラマといった映像作品と舞台作品、どちらにもご出演されている青柳さんですが、お芝居に違いはありますか?

映像は短距離のイメージです。なので、スピード重視で、その瞬間に発するエネルギーがすさまじい印象があります。舞台は長距離のイメージ。長丁場でゆっくりと稽古をして、共演者やスタッフの方々と一緒に作っているという感覚があります。ただ、僕自身の演技は映像だから、舞台だからと変えたことはありません。もちろん、舞台の場合には後方の客席まで声が届かないといけないので、通るように発声しなければいけないなどの物理的なことはあります。それに、もしかしたら自分が意識しないところで使い分けているのかもしれませんが、僕自身は気にしたことはありません。


――では、舞台に立ってお芝居をする楽しさはどんな時に感じますか?

稽古中も幕が開いてからも、毎日(自分の中の)問題点が出てきて「次はここを修正しよう」と考えながらやっているので、「楽しい」と感じる余裕が僕にはないんですよね。なので、千穐楽が終わった次の日の朝に、改めて振り返ってみて充実感を感じることが多いですね。「楽しい」とはまた違うのかもしれませんが、「苦しかったけどまたやりたいな。もう1回チャレンジしたいな」と感じるので、それが舞台の魅力に繋がっているのだと思います。決して楽しいだけではないですが、なくなってしまうと寂しな、またやりたいなと思うんです。


――改めて、この「三十郎大活劇」という作品が持つ魅力を、現時点でどのようにとらえているか教えてください。

まだ台本の上っ面しか読んでいないかもしれませんが、この台本の中で起きていることは、現代の状況でも置き換えられるということにやりがいを感じています。例えば、今はさまざまなことに規制が入り、そうすることでだんだんと面白さが失われていってしまう気がします。戦前も同じように規制があったり、自由にできない状況があったと思うので、今でも同じように感じられ、共感ができるところも多いのではないかと思います。


――見どころは?

三十郎を取り巻く人間たちがポイントです。三十郎自身は面白いことをやっているわけではなく、彼が周りの人間に絡むことで物語が面白くなっていくと思うので、その関係性をうまく見せることが出来ればいいなと思っています。


――最後に読者へメッセージを。

最後まで完走できることを楽しみに、真摯に取り組んでいきますので、ぜひ皆さん、観に来ていただきたいと思っています。

 

取材・文/嶋田真己