5月13日より東京・明治座にて『五木ひろし劇場』が上演される。2019年以来となる今回の公演では、昭和を彩った五大作曲家の名曲を受け継ぐ歌謡ショーを中心に、ゲストの歌や五木ひろしのビッグショーが予定されている。公演を前に五木ひろし・市川由紀乃による合同取材会が開かれ、公演への想いや、明治座公演ならではの雰囲気を記者たちに語ってくれた。
ーー2019年10月以来の明治座公演となります。開催に向けてお気持ちをお聞かせください
五木「明治座さんとは旧明治座の頃から長い長いお付き合いであります。今回でコンサートも含めて28回目になります。毎年、趣向を凝らしてお芝居だったり、音楽を中心とした『歌・舞・奏スペシャル』など様々なことをやってまいりました。昨年は、NHKで放送されていた『五木先生の歌う!SHOW学校』の舞台版を予定していたんですけれど、コロナ禍で無念にも開催できなかったという経緯がありました」
ーーコロナ禍でいろいろなエンターテイメントが止まってしまいました…
五木「私自身、五木ひろしとしてデビューして51年経ちましたけど、こんな事態は初めての経験です。最初の頃はこれはもう天が与えてくれたものだと受け止めて少し休養しました。ただ、休んでいても頭の中は次のことばかり浮かんできて、結局、丸々何もしなかったのは1ヶ月くらいでした。そこから徐々にレコーディングをはじめたり、You Tube配信をしたりして、昨年秋くらいからコンサートも行い、今年1月の『新春ビッグステージ2022』では、おかげさまでたくさんの人に来て頂き、感動的なコンサートになりました。そこで感じたのは、やはりみなさんライブで聴きたいんだなということ。お客様の目の前で歌ったり、握手をしたりという今まで普通にやってきたことができない状況になったことで、改めて直接届けることの大切さや有り難さを感じた2年だったと思います」
ーー待ちに待った明治座公演です。今回の『五木ひろし劇場』のテーマは?
五木「昨年予定していた『五木先生の歌う!SHOW学校』が中止になりましたので、それを引き継ぐという考えもありましたが、ここはもう思い切ってまた新しいことをやろうということで閃いたのが昭和の五大作曲家を歌うというテーマでした。10日間という日程ではありますが、遠藤実先生をはじめ、吉田正先生、船村徹先生、服部良一先生、古賀政男先生をリスペクトした公演にしたいと思い、一生懸命内容を考え、つい先日、脚本を完成させたところです」
ーー今回の公演では市川由紀乃さん、朝花美穂さん、辰巳ゆうとさん、新浜レオンさん、ベイビーブーさんら若手も参加されます
五木「私自身は、お弟子さんという形では取らないんですけど、若手にチャンスを与えることは先輩としてやっていこうと思っていますので、今回も同じステージに立つことで、成長していって貰えたらと思っております」
ーー市川由紀乃さんは『五木先生の歌う!SHOW学校』をはじめ、これまでも五木さんのステージに出演されています。今回のステージに対するお気持ちは?
市川「自分が歌い手への夢を抱いているときからずっとテレビで拝見している憧れの大先輩なので、声をかけて頂いて本当に光栄に思います。はじめて劇場でお仕事をさせて頂いたのも五木先輩の舞台です。毎回緊張しますけど、それ以上にたくさんのことを勉強させていただいています」
五木「歌謡界、私はもちろん頑張るんですけど、やっぱり全体で盛り上げていかなければいけません。それこそベテランから若手まで活躍することで広がっていきますからチャンスは与えていきたいと思っています。一時期、私の舞台に出ると縁起がいいという噂になったこともあります。ある意味で登竜門だと思っていただければと思います。なので、今回の舞台では朝花美穂ちゃんにしろ、辰巳ゆうとくんにしろ、新浜レオンくんにしろ、ベイビーブーにしろ、新しい世代ですから、ここから伸びていってくれるだろうなと期待しています」
ーー第一部の『不滅のメロディ 昭和の五大作曲家を歌う』はどんな内容になりますか?
五木「10日間の公演ですが、それぞれの作曲家を2日間づつ取り上げて、私がそれぞれの先生役をします。もちろん私も歌います。構成としては私が先生役で生徒にレッスンを行うという形で進めていきます。例えば、私が遠藤実先生をやるとき市川由紀乃ちゃんは山本リンダさんになって『こまっちゃうナ』を歌うわけです。私が船村徹先生に扮すると、由紀乃ちゃんは島倉千代子さんになる。私が千昌夫さんをやったりすることもあります」
ーー五木さんは一人二役?
五木「そうです。先生をやりながら、生徒としても歌います。古賀政男先生を演じるときは私が藤山一郎さんになります。なので、私はとても忙しいですね。今回、ベイビーブーが5名いますから彼らに活躍して貰おうかなと。リスペクトをしていい歌を取り上げることと同時に楽しんで貰おうと思っています。笑いも入れつつ、しっかりそれぞれのメロディを現在に伝えていきたいと思っております」
ーー上演期間を通してだと5人の先生役プラスαを演じられるわけですね?
五木「企画から構成、演出、音楽まで全部私がやっています。また、私は登場する先生のことを熟知していますから、この先生はピアノで作曲をされる、ギターで作曲をされるというのを知っています。古賀先生であれば古賀メロディ=ギターですから、ギターを弾きながら、それをどう生徒に教えるか? 船村先生はピアノもギターも両方されます。ご自身のコンサートではギターを弾きながら歌われますからね。その場合はギターとピアノを両方ステージに置いて、それぞれの特徴を生かした歌をギターとピアノで私が教えていきます」
ーーそれぞれの先生方のことを知っているというのは五木さんならではですね
五木「私が最初にレコード大賞を頂いたのは古賀政男先生からです。以降、51年間、それぞれの先生方と親しくさせていただいていましたので、先生方の背景も全部知っています。なので、この先生のこの“歌”は絶対に取り上げないといけないとかがあるんです」
ーー市川さんは若手のまとめ役のような立場になるのでしょうか?
市川「若手にとっては生まれる前の楽曲も歌わせていただく機会になると思います。私自身、『五木先生の歌う!SHOW学校』に参加させていただいて初めて知った楽曲もたくさんありました。今回は、来ていただけるお客様にその時代を振り返っていただける懐かしさを感じていただける時間になるのかなと思います。後輩の方たちにとっては新しい発見になり、私も新しい発見があると思うのですごく楽しみにしています」
五木「由紀乃ちゃんは『~SHOW学校』だったら学級委員的な立場ですけど、今回は作曲家の代表曲を歌うにあたって島倉千代子さんだったり、時には美空ひばりさんになって貰いますから、そういう意味ではメインとして務めて貰う場面も出てきます。まあ、よく歌って貰っていますので覚える歌はないと思いますが……」
市川「ええ? そうですか? まだどの曲を歌うのか聞いていませんので不安です(笑)」
ーー先程、山本リンダさんの『こまっちゃうナ』は市川さんに、と言われていましたが?
市川「はい。今、聞きました。まさに今、「こまっちゃうナ」の心境です。そういう自分でも知らない引き出しを五木先輩は常に引き出してくれます。お客様に楽しんでいただくというのを大事に考えてくださっているので、その想いに応えたいと思います」
五木「ハハハ。『こまっちゃうナ』のエピソードを話すと、遠藤実先生は当時、実際に困ってらしたんですよ。そこへ山本リンダさんがレッスンにいらっしゃって、リンダさんが発した言葉がまさに「こまっちゃうナ」だったんです。その言葉が遠藤先生のなかでピンときたんでしょう。それであの名曲が生まれたんです。そういう先生と歌手のやり取りのなかから生まれた曲がたくさんあるんです。それぞれの歌には背景やそれに込めた想いがあります。そこをアドリブで進めていきたいと思います」
ーーお客さんは、五木さんがどの作曲家に扮する日かを選んで見に行くことができるわけですね
五木「そうです。それぞれお客さんもどの先生の歌が聴きたいというのはあると思います。大阪出身の方であれば地元の服部先生の曲を聴きたいとか、古賀メロディを聴きたいとか。それはお客様がチョイスしてくれればいいなと思っています」
ーー昭和の名曲を覚える若手も大変ですね
五木「ハハハ。若手は大変かも。歌う曲は早めに渡してあげようと思います。まあ、先生がどんなレッスンをするのかを生徒役の若手は知らないと思いますので、それにどう応えられるか? 楽しみです」
ーー昭和歌謡の歴史を楽しみながら学べるSHOWになりそうです
五木「あとね、私がいちばん心配しているのはヒゲなんです。遠藤先生と古賀先生はヒゲを生やしていて、あとのお三方はヒゲがないんです。ヒゲって笑ったりすると取れちゃうんですよ。私、千昌夫さんをやらないといけないですから、ヒゲを取って歌うわけですけれど、歌い終わってまたヒゲをつけたとき、上手くつくかが心配なんです。ハハハ」
ーー第二部のゲストオンステージについてもお聞かせください
五木「第二部は私は司会に徹します。ゲストのデビュー曲、新しい曲を歌って貰います。もちろん私が司会をするんですから曲目紹介だけとは違います。話も聞きますし、イントロに乗せてナレーション的なものを被せようと思っています。昔は必ず司会者がいたので、そのような雰囲気になればいいなと思っています」
ーー第三部は五木ひろしビッグショーとなっています
五木「第三部は私のワンマンステージです。5月25日に出る新曲『北前船』もここで披露したいと思っています。北前船というのは、江戸時代に生まれた動く総合商社と言われた船のことですが、港、港に寄って文化を繋げていった歴史ある船です。とても男らしい、勇ましい歌です。バックコーラスを今回ゲストで出演するベイビーブーがやっていますので、それを歌って締めたいと思います」
ーー明治座にはじめて行かれる方もいらっしゃると思います。五木さんにとって明治座というのは?
五木「劇場という空間は入ってみればわかると思うのですが、独特な世界です。一歩足を踏み入れただけで、お芝居を見るなり、歌を聴くなりの雰囲気になれるんですよね。花道があったり、桟敷があったり、その雰囲気は“劇場”でしか体験できない楽しみだと思います」
ーー市川さんはいかがですか?
市川「五木先輩の公演に出演させていただくと規則正しい生活になります。舞台裏もワンチームの感じになって五木先輩と一緒に舞台を作る空気になります。コロナ禍で新曲を出してもなかなかお客さまにお届けできない時代なので、明治座さんという舞台で五木先輩とご一緒できるのは本当に幸せです。あと、劇場公演は楽屋に暖簾をかけられるのが喜びのひとつです」
五木「明治座は座長公演だろうがなんだろうが、「30分前です。いかがですか?」という声かけもなく自動的にベルが鳴りますので、こちらはもうロボット的にベルが鳴ったら着替えて袖に行くという規則正しいものになります。あと、私は劇場入りが早いので、演者やスタッフのみなさんは早起きをしなければいけないですね。私の決まりごととして、2時間前に入って、声を出したり、ギターの調子を確認したりするんです。なので由紀乃ちゃんもうかうか寝ていられないでしょう?」
市川「はい(笑)。舞台裏でも緊張感を忘れずに務めたいと思います」
ーー読者へのメッセージをお願いします!
五木「明治座にはじめて来ようかと思っている方もいると思います。どんどんいらっしゃってください。“劇場公演ってどんなことをやるんだろう?”と興味を持って観に来てくれた人が、“こんなに楽しかったんだ”と思って帰って貰えればいいなと思っています。今はこういうご時世ですから暗いとか悲しいのはダメ。明るく笑えて、楽しめる公演にしたいと思っています。是非、ご来場ください。
ーー本日はありがとうございました
取材/高畠正人