『テーバスランド』ゲネプロレポート|親殺しをテーマとした演劇制作の末に 希望の光が差し込む

2022.06.18

6月17日に幕を開ける舞台『テーバスランド』。初日に向けて公開舞台稽古が行われ、一足先にその衝撃の姿を現した。

物語は、劇作家S(甲本雅裕)が、自身が企画・製作した演劇「テーバスランド」について語るところから始まる。彼は親殺しをテーマとした作品を創ろうと、実際に父親殺しの罪で終身刑に処されていたマルティン(浜中文一)を舞台に上げようとしたのだと話す。そしてここで、マルティンとの最初の出会いを再現してみようと言うのである。そう、これから始まるのは、言ってみればSが体験した物語。Sを演じる甲本が温かく観客を導いてくれることで、私たちも冒頭からスッとその世界に入ることができる。あとは、追体験するかのように彼の回想に身を任せればいいというわけだ。

Sの演劇製作は、しかし、スムーズにはいかない。まず、犯罪者を舞台に上げることはできないとの通達があり、マルティンから聞く話をもとにして、オーディションで選んだ俳優フェデリコ(浜中文一)と作品を創り上げていくことに。舞台上は、マルティンと面会する場面のすぐあとに、フェデリコとの稽古の場面になったりもする。ここで驚くべきは、マルティンとフェデリコの二役を演じる浜中だ。うつむいていたときはどこか陰を持つマルティンだったのに、顔を上げると瞬時に、自信あふれるフェデリコになっている。演じ分けという言葉が当てはまらないほどの自然な変貌ぶり。当然ながら、その違いによってSの甲本の反応も変わってくる。マルティンには壊れないようにそっと触れ、フェデリコとはある種同志のような関係が育まれていく。それぞれとのやりとりに思わず笑ってしまう瞬間もあった。甲本のリアクションのセンスが光る。

やがて、交流が深まるにつれ、マルティンも事件のことを話すようになる。Sは考える。オイディプスが父と知らず父を殺し、母と知らず母を妻にしたのと同様に、マルティンにも父親殺しを避けがたいものがあったのではないか。フェデリコのマルティンへの理解も進んでいく。稽古をしている姿はフェデリコなのかマルティンなのか。また、目の前に立っている檻は、マルティンがいる刑務所のものなのか、Sが創る舞台のセットなのか。境目があやふやになってくる。その混乱が心地良く、いつしか、自分ではない誰かと出会い、知っていくことによって、やさしい世界が生まれるのではないかと思い至る。

作者はウルグアイ出身のセルヒオ・ブランコ。スペイン語圏演劇界で注目を集める劇作家のひとりで、今作は世界17カ国で翻訳されている。日本では今回の翻訳も手がけている仮屋浩子が初めて紹介。この日本初演につながった。戯曲の行間を膨らませた演出・大澤遊の手腕も見逃せない。たった二人だけで演じる舞台の中に、広い世界が見えてくる。

ライター:大内弓子
撮影:岡千里

 

【オフィシャルコメント】

■劇作家S役 …… 甲本雅裕

山越え谷越え沼越え闇超え、やっとここまで辿り着きました!
しかし残念ながら、まだ完成には至っておりません。
後は6月17日〜7月3日までの最終通し稽古に皆さんに来て頂いて初めて完成となります。
楽しい舞台を創り上げる為、奮ってご参加頂けますよう宜しくお願い致します!
KAAT大スタジオでお待ちしております。

 

■マルティン/フェデリコ役 …… 浜中文一

テーバスランドという作品は何なのか。
すごく小さな引っ掛かりが連鎖していき、物語が進んでいきます。
大きなドラマはないけれど
気づいた時には、最初と最後の印象が変わっていると思います。
皆様も僕達と一緒にテーバスランドという作品を作りあげ、成長させましょう。