劇団おぼんろ「OBONRO JUNE PARTY」~パダラマ・ジュグラマ上映会&瓶詰めリュズタン出港式~レポート

2022.06.24

劇団おぼんろ「パダラマ・ジュグラマ」Blu-ray完成記念上映会と、8月18日(木)から上演される次回公演「瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった」出港式が、6月17日(金)に行われた。

この日のイベントは、2021年に上演された「瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった」(以下、「瓶詰めリュズタン」)の公演を映像で振り返るとともに、次回公演を盛り上げるキックオフイベント。劇団を主宰する末原拓馬、劇団員のさひがしジュンペイ、わかばやしめぐみ、高橋倫平に加え、ゲストとして橋本真一、塩崎こうせいが登壇し、トークを繰り広げた。

 

「瓶詰めリュズタン」出港式は、さひがしがMCを務める形でスタート。まずは、「パダラマ・ジュグラマ」のダイジェスト映像が上映され、それを見ながら当時の思い出や作品への思い、感想が語られた。続いて、2021年の「瓶詰めリュズタン」もダイジェスト版で上映。末原は、「色をたくさん使おうというテーマが去年の夏はあった」ことを明かし、それが同作の明るくポップな色使いへと繋がっていることが分かる。

さらに末原は、「去年、執筆をし始めようというとき、(劇団の音楽も担当していた)父が亡くなったのですが、音楽だけ遺してくれていたんです。(末原の父が)最後に明るい話を作りたいと言っていたので、是が非でも明るい話を作ろうという挑戦でした。だから終始ノーテンキなんです。でも、大事な作品にしたいと思って、(同作の2021年の上演時の)カーテンコールでも『生涯、この作品を大事にします』と伝えて、すぐに再演を決めました」と同作の製作時を振り返った。

今回の再演では、主人公のトノキヨ役をさひがしとわかばやしの男女のWキャストで上演。これまで末原が演じていたクラゲ役も橋本とのWキャストになり、末原は演出により力を入れる。さらには、昨年は断念した合唱シーンを本編に組み込むことを決意、父の遺した楽曲を、世界中で歌われる歌にしたいと語る。脚本も大幅に書き直し、演出も大きく変わるという。

クラゲという大役を引き受ける橋本は、「クラゲ役をやることの責任感とかプレッシャーをすごく感じましたし、自分がやってどうなるかというワクワクもドキドキもありました。僕がこの作品を観たときには、まさか自分が関わるとは思っていなかったけど、(出演が叶うなら)クラゲ役をやりたいと思っていました。役者として、やりたい役をやれることは幸せだと思います」とコメントを寄せた。

また、イベントでは、講談社より書籍化される同作の一部が、登壇者の朗読によって披露された。情景豊かに綴られた言葉によって、芝居として上演されるのとはまた一味違う物語が広がり、同作の新たな魅力が感じられる朗読になった。さらに、8月の上演に向けてトノキヨのセリフをわかばやしが読むパターンの朗読も行われた。さひがしとの違いが明確に感じられ、Wキャストへの期待が高まった。

イベントの最後には、キャストと観客全員でクラッカーを鳴らし、同作の“出港”を祝った。そして、わかばやしは「昨年の『瓶詰めリュズタン』を観た方も、これから新しく出会ってくれる方もきっと楽しめる物語になりそうな予感をヒシヒシとしています。どうぞ楽しみにしてください」、塩崎は「今回、新作になるだろうなという感じなので、ワクワクして夏を迎える準備万端でいますので、皆さんもぜひ夏を一緒に迎えましょう」、橋本は「おぼんろさんの劇団員さんの素敵さや魅力が今日、舞台上にいた僕にも伝わりました。夏、このメンバーで一つの作品を作れることがすごく楽しみなので、皆さんもぜひ楽しみにしていていください」、さひがしは「今年の夏は暑くなりそうだぞ! 今日からスタートを切ったと思っています。稽古は7月から始まりますが、皆さんと一緒にこの作品を盛り上げていこうと思っています」、末原は「世界中が知っている物語になればと思って、誠心誠意やります。絶対にワクワクさせますから。最高の夏休みにしましょう」とそれぞれ観客に呼びかけて出港式を締めくくった。

 

 

イベント終了後の個別取材で、末原は改めて昨年の初演時を「父が亡くなって残された作品を完成させ、どんな形でも絶対にやろう」と強い決意のもと、上演したことを明かした。そして、「1年経って今、思うのは、やっぱり無理をしてでも生んだものは育っていくし、そこからこんなにも色々な世界が広がって、仲間もどんどん増えた。改めて、物語はすごい力を持っていると思っています」と話す。

“新たな試み”も多い、今年の「瓶詰めリュズタン」だが、末原は「ずっとやろうと思っていたこと」だと気負いはない。「年齢も性別も人種も関係ないってずっと思っているので、それを今、ようやく形にできるようになったと思っています。歌(今回メインテーマ曲「瓶詰めの海をきみにあげる」に歌詞をつけて歌う)に関してもそうで、『歌をみんなの集合場所にするんだ。みんなのお守りだ』という意思があってのことです」と説明した。

 

 

さらに、今回、おぼんろとしては、初めて“出港式”という形でのイベントを行ったが、それはおぼんろの活動の方向性が明確になった=舵を切ったことの現れでもあるという。

末原は、「僕は、そもそも路上で活動していて、日本一の劇団を作りたいという話に賛同してくれる方がいて、日に日に物語の輪が広がっていったのがスタートだった。実は、一時期はその小さなコミュニティーで満足しちゃえるようになったんです。家族でいるのはやっぱり楽しいから。でも、そうすると、ある程度以上は膨らまない。内輪受けになるのは良くないから、作品だけを提供するのが良いんじゃないかと、自分たちはプロとして、参加者との繋がりに頼るべきではないと考えるようにもなりました」とこれまでを思い返し、「けれどそこから数年を経て改めて考えると、僕がおぼんろをやるのは、おぼんろのためではないし、自分のためでもないし、もちろんお金のためでもない。じゃあ、今いるファンのためにやっているのかというと、それも厳密には違う。僕は、世界を変えるために、世界をよくするためにやっている。そうしたとき、やっぱり世界中に届け、さらに、全ての参加者と、しっかり繋がっていかないといけないと思ったんです。『ああ、面白かった』で終わる演劇ではなく、『あそこに居場所があるんだ。自分は孤独ではないんだ。おぼんろに帰ってくれば仲間がいるんだ』という場所を世界規模で作ることが、次の自分のフェーズで、自分にしかできないことだと思った。そういう意味で、舵を切ったからこそ、出港式という形を取りました」と熱く語る。そして、「僕らが見ているのは“海”。世界のチームを作りたい。世界で一番有名な、日本のオリジナル演劇にならないかなって思うと、ワクワクする」と瞳を輝かせた。

おぼんろが、末原が目指す先にある未来に期待するとともに、まずは新しく生まれ変わる「瓶詰めリュズタン」を楽しみにしたい。

 

取材・文:嶋田真己