マイケル・ガンボンやダニエル・クレイグ、サム・シェパードといった名優たちが演じたことでも話題の戯曲「A・NUMBER」が、戸次重幸、益岡徹による二人芝居としてこの秋、全国5箇所で上演される。クローン技術が進んだ世の中で、父親とクローンであることを知った息子はどのような対話をし、何に向き合うことになるのか? 初の二人芝居に挑戦する戸次重幸に話を聞いた。
――「A・NUMBER」はイギリスの劇作家キャリル・チャーチルによる戯曲です。クローン技術が可能となっている近未来が舞台です。
SF要素が入っているのは嬉しいですね。なにしろ僕の身体の半分はSFでできていますから。(身体の)一部分を切ったらライトセーバーとかいっぱい出てきますよ(笑)。それくらいのSF好きです。とはいえ、今作は父と自分がクローンであることを知った息子の話なので、テーマは父と子の確執です。過去にどんな悲しいことがあったかということが展開されていきます。
――出演されるのは戸次さんと益岡徹さんのおふたりです。
益岡徹さんとご一緒できるということに史上の喜びを感じております。というのも私が人生で観劇した作品のなかでベスト5に入るのが『巌流島』(三谷幸喜・作/1996)です。そこでの益岡さんはまさに“神・演技”といいましょうか、素晴らしい佐々木小次郎役を演じられていました。あんなに心の底から笑ったことはありません。
――益岡さんとこれまで共演は?
同じ作品に出たことはあるのですが、同じシーンでお芝居をしたということはないですね。なので、自分が多感な時期に観た作品に出られていた方と、二人芝居という舞台の上で濃密な芝居のやり取りができるということに本当に喜びを感じております。
――実際にお会いされていかがですか?
まだ稽古がはじまっていないのでしっかりお話はできていなくて。メインビジュアルの撮影のときに初めてお会いして、「セリフの量、凄いですよね?」「そうですよね」みたいな話しかしていないんです。でも、稽古がはじまったら私と益岡さんと(演出家の)上村さんの3人で作る作業になるので、そこはおふたりに遠慮せずに挑みたいと思っています。遠慮していたら絶対に作品が面白くなくなると思うので。
――憧れの大先輩とがっぷり四つに組まれるわけですね。作品の見どころは?
ネタバレにならないように話すと、益岡さん演じる父親がちょっと褒められた人ではないキャラクターなんです。その父親と向き合う3人の息子がどういう態度や対応をしていくのかが見どころのひとつだと思っています。
――二人芝居ですが、登場するのはふたりではないわけですね。
私は見た目がまったく同じ3人の息子を演じます。つまり自分のことを“俺”と言ったり、“僕”と言ったりするような人間を演じさせていただくので、二人芝居とはいえその場、その場が新鮮に観ていただけると思います。
――クローン人間を演じるにあたり、どういう手がかりで演じれられようと思われていますか?
僕はまったく違う人間を演じるつもりでいます。クローンだからということを考えずに。逆にクローンであることを知った悲しみで構成されているので、違う人間を演じることが作品の本質にも沿っているのではと考えています。
――同じ姿、同じ声のクローンがどういうキャラクターで登場するか楽しみです。
お客様にはそういったキャラクターの違いを楽しんでいただければと思います。あと益岡さんが演じる父親役に関しては、ある秘密を握りながら、息子のクローンに対してどう接していくかが見どころです。
――セリフが膨大だと言われましたがそんなに多いのですか?
凄いセリフ量ですよ。全体の長さは70分くらいなのですが、膨大なセリフ量ですね。私と益岡さんのセリフのやり取り、打ち合いを間近で楽しんでいただければと思います。
――セリフが多いお芝居は準備されることなども変わるのでしょうか?
6~7月に片岡愛之助さんと「奇人たちの晩餐会」という舞台をやらせて頂いたんですけど、その役もまたとてつもないセリフ量だったんです。なので、あれを演じきれたというのが僕のなかで自信になっていますね。
――セリフ量が多い作品が続いてるわけですね。
ただ、「奇人たちの晩餐会」は愛之助さんと二人のシーンが多かったにせよ、同じシーンに3~4人いたので、二人きりの芝居とは間合いが違うんですね。二人芝居は本当に二人で作っていきますが、3人以上で作っていく芝居とはまた違うので、そこは今回、本当にチャレンジだなと思っています。
――なるほど。
一人芝居はやったことがあって、本当に大変だったんですが、二人芝居はまだやったことがないので、別物だと思うのでそこは楽しみにしています。
――セリフを覚えるのも大変そうです。
セリフ量は多いですが、僕はセリフ覚えが非常にいいのでそこはあまり心配していないんです。年をとるごとに本当にセリフが早く入るようになってきてるので。そのぶん、大事な約束とか人の名前を覚えられなくなっていますが……。役者としてはいいんですけどね。子供ができてからは泣き芝居も昔よりスムーズにできるようになりましたし(笑)。
――同じ舞台で3人の役を演じるというのは、ひとりを演じるよりかなり難しいのでは?
僕は演じる役がクローンというだけで、違う人間を演じるので、毎回、新鮮な気持ちでできると思うんですよね。飽きずにできるだろうなという気がしています。そういう意味では益岡さんのほうが辛いと思います。真実を胸に秘めつつ、息子たちにどこまでそれを打ち明けるかと、神経をすり減らすお芝居を最初から最後までやらなければいけないので。大変だと思います。
――10月の本番に向けてどのような準備をされますか?
この作品は、僕と益岡さんの理解がそのシーン、そのシーン、もっと細かく言うと、セリフひとつずつのやり取りに理解がないとお客様がポカーンとしちゃうと思うんです。その理解を深めていく作業がマストになっていくと思います。なので、稽古のときまでにある程度、セリフは入れて臨みますが、「このやり取りの意味は?」など、そういうのは演出家の上村さんに聞いてみないとわからないところがあるので、音としてセリフは入れていくつもりではありますけど、稽古がはじまるまでは気持ちは入れないと思います。本当に稽古で作っていく作品なんじゃないかと思います。
――最後に本番に向けて戸次さんの今の心境を教えて下さい。
ドキドキもしますし、ワクワクもしていますし、緊張もしています。期待がすごく大きいです。稽古のときは僕がアリーナ席で益岡さんのお芝居を堪能できるわけですからね。本当に楽しみにしています。
インタビュー/ローチケ編集部 構成・文/高畠正人
スタイリスト/小林洋治郎(Yolken)
ヘアメイク/横山雷志郎(Yolken)
衣装協力/Sian PR
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