本田礼生×赤澤燈 三人芝居「オブセッション」インタビュー

【左】本田礼生 【右】赤澤燈

本田礼生と赤澤燈、大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)による三人芝居「オブセッション」が9月14日から上演される。本作は、おかざきさとこが脚本、粟島瑞丸が演出を務める、とある一室で起こる、ちょっと奇妙なドタバタ憑依コメディ。
事故で恋人を亡くした三原雄吾(赤澤)は、その加害者である曽根崎勇(本田)を恨み、廃墟の一室に監禁する。曽根崎を手にかけようとすると、彼には死んだ三原の恋人・愛が憑依していた。そこへ、三原の恩師で、同じく曽根崎の命を狙う柳(大内)が現れ、事態は急展開を迎える。
別作品で長く共演し、息もピッタリの本田と赤澤に、稽古の様子や本作の見どころを聞いた。

 

――三人芝居で濃厚な会話劇を繰り広げる今作ですが、ご出演が決まってどんな心境でしたか?

本田 こうした少人数の芝居は、それが一人なのか、二人なのか、三人なのかということで大きく変わると思いますが、三人での芝居となると心情が錯綜していく様が描かれるんだろうという楽しみとワクワクがありました。赤澤さんとは、別の作品で長く一緒にやってきたので、彼と役者として逃げ場がない場所で一緒にやりたいと思っていたので、それも嬉しかったです。

赤澤 僕は礼生から、こうした企画があって、そこで僕の名前をあげてくれたということを聞いて、一緒にやれたらいいなと思っていたので、実際にそれが形になり、こうしてできることがすごく嬉しいです。礼生とこれまで以上に濃密なお芝居の時間を共有できると楽しみにしていたんですが、いざ台本を開いてみたら、セリフ量がすごいんですよ(笑)。しかも、キャラクターもそれぞれ濃いですし、(台本に詰まっている)情報量も多いので、これは頑張らないといけないなと改めて気が引き締まりました。今(取材当時)、ちょうど稽古期間中で、大変な思いをしている真っ最中ですが、これを超えたらきっと楽しいことが待っていると信じて稽古しているところです。

 

――本田さんからのラブコールがあって実現した共演なんですね。

本田 赤澤さんと共演している作品では、自分たちで考えて日替わりネタのシーンを作ることもあって、(赤澤のことを)役者としてとてもリスペクトできるし、感覚も近いし、すごく面白いと思っていたんです。なので、もっと一緒に芝居をしてみたいと思って、共演したい人を聞かれた時に一番に名前を挙げました。

赤澤 その作品では4年くらい共演していますし、プライベートでも息が合うなと感じることが多いので僕も共演できることがすごく嬉しいです。今回、大内さんや初めてご一緒する演出家の粟島さんと作品を作ることで、また新しい関係性が見つかったらいいなと思いました。

 

――すでにお稽古もスタートしているということですが、やはりお互いで良かったと感じることは多いですか?

本田 僕は終始感じています(笑)。本当に(赤澤で)良かった。行き帰りの道中も、稽古中も、そうでないところでも感じています。

赤澤 僕もそう思います。本当に今、稽古が山場なんですよ。オリジナル作品なので、0から1にする作業を行なっているんですが、そう簡単にはいかなくて…。そんな時も、礼生ならば安心して頼れる。初共演の方が相手だったら、きっと頼り切ることもできなかったと思いますし、(頭が)パンパンになっていたかもしれません(笑)。

――お稽古で苦労しているのは、具体的にどんなところが?

本田 この作品に限らずですが、台本を舞台として形にしていくのが一番大変なんです。今作は、オリジナル脚本ということもあり、この座組みならではの形を探さなくてはいけないということもあって、今は、そこが課題です。

赤澤 僕はもう全部難しいと思っています(笑)。今回、演出の粟島さんとも初めてなので、僕たちが粟島さんの演出の意図をなかなか汲み取れなかったり、粟島さんも僕たちにどう伝えればいいのか手探りだったり、お互いに納得できるまでに時間がかかっているということもあります。これからさらに稽古を積んで、お互いにセッションを重ねて、より良い形に(作品が)まとまればいいなと思います。

 

――では、最初に脚本を読んだ時の感想を教えてください。

本田 単純に面白かったです。ただ、どうしても役者目線で見てしまうので、こうした題材を扱って、いわゆるコメディというジャンルで、僕らが目指していくであろう方向を合致させるのは、すごく難しいなと感じましたし、その難しさが面白さにつながると思いました。

赤澤 僕個人としては、「そんなことあるかな?」というのが最初の感想でした。もし、(この物語のようなことが)目の前で起きたら、僕は信じられないと思うし、三原と同じ気持ちにはなれないと思います。ただ、その状況を一生懸命どうにかしようとしている人たちを、舞台でしっかりと役を生きることで面白いと思える作品なのかなと感じました。

――本田さんが演じる曽根崎は、三原の亡くなった恋人・愛に憑依されるという設定のため、見た目は変わらないのに、次々と人物が入れ替わります。そうした役柄を演じる難しさは感じていますか?

本田 意外とそうでもないです。二人がリアクションを取ってくれるので、それ次第で見え方も変わりますし、男性と女性なのでそういう意味でもそれほど難しさは感じていません。

 

――なるほど。では、赤澤さんは、三原をどう演じようと考えていますか?

赤澤 自分ならあり得ないと思っているからこそ、その状況にただ飛び込んでみようと思っています。あまり、こういう人物を作ろうとは考えていなくて、その場その場に適応していくだけかなと、今は思っています。そして、まずは、礼生が自分の彼女だということを頑張って受け入れなきゃなと(笑)。

 

――本田さんから見た曽根崎はどんな人物ですか?

本田 登場する人物の中で一番まともだと思います。最初は、曽根崎は“悪”に見えると思うんですが、物語が進んでいくうちに、お客さんから見た曽根崎の印象が自然と変わっていきます。そこがこの作品の面白さだと思います。曽根崎には愛ちゃんが憑依しますが、愛ちゃんについてはどんな子なのかは控えます。ネタバレになってしまいますので(笑)。ただ、この作品のキーになるところだと思います。

――そうした三原と曽根崎の間に、大内さんが演じる柳が加わることで物語が動いていきます。お稽古場でも、お互いをよく知る本田さんと赤澤さんの中に、大内さんが入ることでお芝居に化学反応が起こっているのではないですか?

本田 たくさん起こっています。(俳優としての)色も全然違う方なので、三人で立っている“絵”も変わってきます。もちろん、大先輩ですので、学ぶべきことも多いですし、僕たちがやりやすいように動いてくださっていると感じます。

赤澤 初めて共演させていただくので、最初はどんな方なんだろうと緊張がありましたが、自分たちのことを広い心で受け入れてくださっていて、すごくありがたいです。

 

――では、今作のどんなところを楽しみに観に来て欲しいですか?

本田 必死な赤澤さんが面白いと思いので、ぜひそこは見てもらいたいですね。一番、右往左往していますから(笑)。

赤澤 昨日の稽古で、半分ほど通したのですが、帰り道は屍のようになっていました(笑)。

――本田さんもですが、出ずっぱりですもんね。

赤澤 そうか、こうなるか…って悩みましたよ(笑)。でも、こうした作品を経験することで、後々、あれができたんだからって思えると思いますし、やっぱり僕自身もすごく心に残る作品になると思います。

本田 こうした作品に挑戦できる貴重な機会だしね。

赤澤 そうなんだよね。自分勝手だと思われると思いますが、他の作品をやっているとじっくり芝居に向き合えるストレートプレイをやりたいと言うくせに、実際にストレートプレイをガッツリできるとなると、セリフが多いとか苦労してるとか言い出すんですよ(笑)。でも、本当に楽しみにしていて、やりたいと心から思った作品なので、この今の苦しい稽古を乗り越えれば、きっとすごい作品になるんじゃないかと感じています。

 

――こうした作品に出演することで得るものも多いと思いますが、もうすでにそれを感じていますか?

本田 それはもちろんあります。以前は感じ取れなかったことが経験を重ねていく中で、感じ取れるようになって、今は感じ取れた上での課題が見えてきた。だから、今、このタイミングでこの作品に携わることができて良かったと思いますし、もっと先にいけると信じています。

赤澤 こうした作品に出演できるのは、僕にとってもすごく大きなことです。自分の中で、芯としているお芝居があったとしても、こうしてお芝居にじっくりと向き合う機会がないと、段々とブレていってしまうんですよ。歌やダンスや色々なことをした上でのお芝居とはまた違う感覚だと思うので、(自分のお芝居の芯を)忘れてしまうんだと思います。なので、こうした作品に出演できることにすごく幸せを感じています。

――今回は、初日と千穐楽のライブ配信も決定していますね。

赤澤 僕は配信、大好きですよ(笑)。

本田 あはは。(赤澤の)弱点は「配信」だもんね(笑)。

赤澤 僕、普段はあまり細かいミスはしないんですよ。でも、本当に配信に弱くて…(笑)。特に意識もしていないんですが、配信している時に限って、大事なシーンで何かやらかしちゃうんです。特に(本田と)一緒にいる時にやらかす…。

本田 特に一緒にいる時って、僕が何かしてるみたいじゃん(笑)。もちろん、してないですよ。きっと、そういう星の元に生まれてるんだと思います(笑)。普段は、すごくいい芝居をしているのに、配信の時だけミスするから、それを横で見ている分には面白い。きっと、お客さまの中にもそれに気づいて、そう思っている方もいらっしゃるかもしれないですね(笑)。なんで、このタイミングでこれをやっちゃうかなって。

赤澤 普段は、配信していることを意識していないのにやらかすので、今回は逆にめちゃめちゃ意識してみようかなと思ってます。「今日、配信だぞ」「明日、配信だぞ」って心構えしてやってみようと思っているので、配信をご覧になる方も安心してください(笑)。でも、今回の作品は、会話劇ですし、配信に向いている作品だと思います。ちょっとした表情や細かいお芝居もきっと配信の方がじっくり見れるので、配信でも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

本田 本当にここ数年で、配信を取り巻く状況は大きく変わりましたよね。僕は、以前は、舞台は生で観るために作られているものだから、(映像でそれを観る人がいるという場合に)どうやって演じたらいいんだろうと難しく思っていたので、配信の良さに気づいていなかったのですが、コロナ禍になって配信という文化があることで、遠方に住んでいる方や劇場に来られない方も演劇に触れられる機会が増えるというメリットの多いものだと思うようになりました。初日の配信にはプレッシャーがありますが(笑)、今回、劇場に来られない方や劇場で観られない方にも配信で作品をお届けできることができる機会があって良かったなと思います。

 

――最後に、改めて、公演楽しみにされてる方にメッセージを。

赤澤 オリジナル作品で、あらすじしか分からない中、チケットを買ってくださった方がいて、さらに配信も決まって、より多くのお客さまに観てもらえるのはすごくありがたいことだと思っています。こうした機会を与えてもらったことに感謝し、礼生にも感謝しながら、皆さんに楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。

本田 演劇に興味を持ってくださる方がたくさんいらっしゃることは本当に嬉しいです。皆さんに楽しんでいただけるように、そして、自分たちも楽しめる状態までこれからの稽古で頑張って持っていきます。

 

取材・文:嶋田真己