演出家・野坂 実が名作ミステリーを舞台化していくプロジェクト「ノサカラボ」。その初の長編作品となる『罠』が10月22日(土)~10月30日(日)まで東京・ニッショーホールで、11月2日(水)・3日(木・祝)には大阪・松下IMPホールで上演される。『罠』はフランスの劇作家ロベール・トマによる傑作サスペンス。妻が失踪した男を中心に、事件にかかわる人々の誰もが怪しく思えてくるような張り詰めたやりとりが繰り広げられる物語だ。主演を務めるのは、原 嘉孝。共演には麻央侑希、高田 翔、釈由美子と横島 亘(劇団民藝)、的場浩司といった魅力的な面々がそろった。事件の捜査をする警部を演じる的場と、演出の野坂の2人に、作品に臨む想いなど話を聞いた。
――まずは野坂さんにお聞きします。今回、ノサカラボにとって初めての長編作品で「罠」を上演することになりました。候補作はいろいろあったかと思うのですが、なぜ「罠」を選んだのでしょうか?
野坂 まず 『罠』 は、過去に何度も上演されている名作で、僕も大先輩の方たちに連れていかれて見に行った時にすごい芝居だと感じていたんです。その大先輩方も「僕たちは若いころにこれをやりたかったんだ」というお話も聴いていてね。いくつか候補はあったけど、ノサカラボの1回目には 『罠』 だと思いました。トリッキーなだけじゃなく、それぞれのキャラクターに深みがある。それをいい俳優さんたちと一緒に作れたら、こんなに良いことは無いだろう、と思って選びました。
――的場さんのところにお話が来た時の印象は?
的場 なんで?って思いましたね。今までやったことのないジャンルの芝居だったので、なぜお話をいただけたのか、と一番最初は疑問が浮かびました。それで、野坂さんにお会いしたときに聞いてみたら「的場さんが1番最初に浮かんだから」と言われて、その言葉に惹かれてやらせていただこうと思いました。やったことのない役は難しいけど、新鮮で楽しいですよ。まだ本稽古には入っていないので、自分の中でもいろんなところに手を伸ばして探っています。そういう意味では、今が一番楽しんでいるかも。
――現時点では、妻失踪事件の捜査をする警部という役どころをどのようにとらえていますか?
的場 僕の役って、けっこうどの方面からでも演じられるんですよ。なので、稽古に入る前に野坂さんと先に何回かお時間をいただいて、狙いとしてはこういうことなのか、とか、キャラクターの人間性なんかを軽く固めては行きました。やっぱりその1番大事なところで意思疎通しないまま立ち稽古に入ってしまうと、現場を止めてしまうんでね。でもまだ100%固めてはいません。固めた後に何か言われても、いや俺はこういう想いなんで、みたいに強いものが出来てしまっていて、変えるのが難しくなるからね。だから、今は6割7割、同じ方向を向いた状態で立ち稽古に備えています。今のところは、まあ柔らかい感じで多少人間味がある人柄ですね。頼りになりそうなのかならなそうなのか、わからない感じの芝居にはしたいなと思っています。ただ警部としては、主人公を助けようと一生懸命に努力している。そういう感じですね。
――物語の印象はいかがですか?
的場 正直、本当に面白いと思います。ただ、それが翻訳劇の良さでもあるんですが、日本人だとこういう言い回しはしないよね、とか、日本の芝居だとこれは少ないよね、みたいなところも何か所かあったので、そこは野坂さんと相談していますね。もちろん、そのままでも行けるけど、お客さんから見てわかりやすくできるんじゃないか、っていう提案とかはしています。翻訳家の先生にも許可をとりながらやっているんですが「好きなように変えてやってください」って言われまして、それはそれで無茶苦茶なことじゃないですか(笑)。野坂さんも「やってみたいように演じてください」と温かい応援のコメントをいただいたので、そこも励みにしてもがいている最中です。
――演出を考える際に、意識されていることはなんでしょうか?
野坂 ザ・舞台っていう感じのお芝居になりすぎないように、しゃべっていることのリアリティをどれだけ持たせられるか。そういう方向にもっていこうとは思っています。そのうえで、演者の感情表現、お芝居をどれだけ面白く見せられるか。そこはかなり強調したいです。この辺りはサッカーとかに似ていると思うんですけど、選手がどういう選手なのかによってディフェンスが多めになったり、攻撃型になったりしますよね。今回、声を大にして言いたいことなんですが、とにかくお芝居ができる人がそろっているんですよ。こんな幸せなかなかありません。そういう選手、条件がそろったからこそ、安易なところではなく、少し複雑なところにもっていきたい。僕らでしかできない作品の特徴を出せるチャンスがあるチームなんです。そこは理想として掲げていますね。
――野坂さんから見た的場さんのご印象はいかがでしょうか?
野坂 映画やドラマでの的場さんは、やっぱり厳しいというかエッジが立っているんですよね。一方で、僕が抱く的場さんの印象はすごく優しい。そのギャップがものすごく素敵な俳優さんだと思っていて、今回の警部というキャラに合うと思ったんですよ。飄々としているんですけど、いきなりキュッと締まるところもある。そして、他の登場人物は結構ブレるんですけど、警部だけはブレないんですね。やっぱり物語の芯になる役で、会議室で考えているときにハッと浮かびました。でも、舞台やってくれるかな…と思っていたら、お話したいですってご連絡が返ってきて、気持ちが盛り上がりましたね。
――的場さんから見た野坂さんの魅力はどのようなところでしょうか
的場 役者の話をちゃんと聞いてくれるんですよ。正面から受け止めて、一度自分の肚のなかに入れてから、いいんじゃないかとか違うんじゃないかということを返してくださる。柔軟性を持っていて、やっぱりご自身も役者をされているからか役者の心理をわかっているんですよね。だからぜひ、一緒にやらせていただきたいなという気持ちになりました。こういう初めての作品で、役者心理をわかってくれる監督と一緒にやれるなら、ぜひ挑戦したいと感じました。
――共演の皆さんの印象はいかがですか?
的場 本当に芝居が好きなんだな、と思える方たちが集まりましたね。みんな芝居に前のめりなんだよね。ヨシ(原 嘉孝)やショウ(高田 翔)なんかは、忙しいはずなのに本読みの段階でもはや本読みじゃない芝居をしてきて、あぁ芝居が好きなんだな、と思いました。ヨコさん(横山 亘)はベテランで、ちょっと聞くだけでスゴイなと思わされましたし、釈のお嬢(釈 由美子)とは久しぶりなんでね。前に何度か共演してるので、またやれるのが楽しみです。麻央(侑希)さんはやっぱり宝塚歌劇のスターさんだったので、もう安心して本読みを聞いていられました。…ってなると、俺が一番ポンコツだな(笑)
野坂 なんて言ってますけどね、本読みの場面で、的場さんがもうセリフを入れてきていて、周りの皆さんがチラチラと的場さんを見て「ヤバい、あの人本見てない…!」って、なったんですよ(笑)。それでほかの方もまた頑張ってね。ほかの方が出したセリフに対して、それを活かそうとして別の方のセリフがポンッと変わったりするとか、そういうことのできる俳優がそろっているんです。
的場 本当によくこれだけの人間を集められたな、って思います。あとね、表に出てくる役者だけじゃなくて、稽古場でフォローアップしてくれる役者さんが男性1人、女性1人いるんです。この2人が、この芝居には忙しい人間が多いので、他の人のセリフも全部きちんと頭に入れていて、彼らの芝居を再現できるようにやることだ、って言っていて…本当に素晴らしいな、と思って。それで、コピーしながらも、ちょっとオリジナリティを入れてきたりもしてね。僕は彼らのことも素晴らしいって思うし、役者だけじゃなく、スタッフにも芝居が好きな人が集まっているんですよね。
――互いが刺激しあって、誰もが本気にならざるを得ないカンパニーになっているんですね。公演を楽しみにしている方に、それぞれメッセージを頂ければと思います
野坂 お互いを活かしあうような…私が僕が、という自分本位じゃなく、お互いを活かす芝居をわかっているってことなんだよね。相手を輝かせて自分が輝く、ということをわかっている。それがもう、本読みだけでもわかるんですよ。きっとこれまでのものとは違う形になると思います。作り手側の自分が言うのもなんですが、手前味噌ですけど、面白いものが見られるはずですよ。損はさせませんから、期待していただければと思います。
的場 今までの舞台とは違う、また変わった2時間勝負になるんじゃないかな。特別な時間になると思いますので、ぜひ 『罠』 を楽しんでください。
取材・文:宮崎新之
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