「みんながゼロからやっている感じ」玉置玲央×永島敬三×田中穂先×川名幸宏『MUDLARKS』座談会【前篇】

9月29日(木)から10月9日(日)まで東京のザ・スズナリにて、GORCH BROTHERS 2.1『MUDLARKS』が上演される。
本作は、ゴーチ・ブラザーズの新たなプロジェクト「GORCH BROTHERS 2.1」の第1弾で、劇団「柿喰う客」の玉置玲央・永島敬三・田中穂先が出演し、演出は俳優達と同世代の「東京夜光」主宰・川名幸宏が手掛ける。
戯曲は、英国の新進気鋭の作家ヴィッキー・ドノヒューによる『MUDLARKS』。2012年にHigh Tide Festivalで初演、その後ロンドンBush Theatreで上演された戯曲を日本初上演する。翻訳は高田曜子 (“高”の字の正式表記は「ハシゴダカ」) 。

その稽古場でのインタビューを、前後編にわけてお届けする。前編は玉置玲央、永島敬三、田中穂先、川名幸宏に「GORCH BROTHERS 2.1」について話を聞いた。(取材・文:中川實穂、写真:関 信行)

福島で始まった稽古が思い出させた“ファミリー感”

――『MUDLARKS』は「GORCH BROTHERS 2.1」というプロジェクトの第1弾作品となります。まず「GORCH BROTHERS 2.1」とはどういった企画なのですか?

川名「ここにいるメンバーはみんなゴーチ・ブラザーズという会社に所属しているのですが、2020年にコロナ禍で演劇そのものの仕事がなくなったとき、僕らのマネージャーである大石直人さんの『ゴーチ・ブラザーズに所属する俳優たちに、自社で仕事の場をつくれないか』というかなりピュアな想いから始まった企画です」

――企画趣旨に「俳優ありき」とありましたが、劇団「柿喰う客」の玉置玲央さん・永島敬三さん・田中穂先さんによる三人芝居になったのはどうしてでしょうか?

川名「三人の写真がきっかけなんだよね?」

玉置「そうです。柿(=劇団「柿喰う客」)の『御披楽喜』(’19年)のときかな」

永島「カンフェティさんが僕ら三人の取材をしてくださったときに撮ってくれた写真を見て、大石さんが『あ』と思ったらしいです」

玉置「『この三人でなんかやれたら面白いかも』ってね。それを僕らもずっと聞いていたんですけど、コロナ禍になって『いよいよ動き出してみましょう』と大石さんが言って。『ああ、ほんとにやるんだ』って」

――演出を川名さんが手掛けることになったのは?

川名「僕がゴーチに入ったのは2021年頭と最近なんですけど、その前年に大石さんから『こういうことをやりたいんだ』という話をいただきました。せっかくなら若い演出家で、そして僕はストレートプレイが好きなほうですから、そういう芝居をやりたい、と」

――この4人でやることに皆さんはどんなふうに感じられていますか?

玉置「川名くんはいないのですが、俳優三人は今年の頭にも柿の公演で『空鉄砲』という三人芝居をやったんですよ。『空鉄砲』より先にこの企画が動いていたんですけど……」

一同「(笑)」

――ただSNSで玉置さんは「『空鉄砲』の時には感じなかった感覚がある」と書かれていましたね

玉置「そうなんです。それは多分この企画の成り立ちが影響していて、俺、今回“ファミリー感”がより強いなと思っているんです」

――ファミリー感

玉置「僕は劇団こそファミリーだと思っていたんですけど、もちろん今もそう思っているんですけど、でも、この作品の稽古は福島での合宿から始まったんですね。その“寝食共にする”みたいなのが、僕の中でものすごくゴーチ(=ゴーチ・ブラザーズ)っぽかった。昔はよく伊藤達哉さん(代表取締役)が『同じ釜の飯を食ってなんぼ』と言って、劇場に来て炊き出しとかやってくれていたんですけど」

永島「あったね~」

玉置「傍から見たらちょっと泥臭い慣れ合いみたいなんだけど、それがゴーチの特色でもあって。だから今回の福島での稽古で、そういういろんなことを思い出しました。みんなでバーベキューも久しぶりにやったしね。そのスタートがあるから、柿とは別のファミリー感が強く感じられたのかな」

川名「僕は事務所に入る前からゴーチの方々とお仕事をしていたんですけど、ゴーチには、まさにいま玲央さんがおっしゃっていたような、演劇を密につくっていく団体というイメージがあって、そこに憧れがありました。でも僕が事務所に入ったときはもうコロナで、そういうことができなくなっていて。だから今回それが叶っている感覚があってうれしいです」

永島「僕は実はゴーチ・ブラザーズが企画した公演に出たことがないんです。ちょうど僕が入った時期くらいから、阿佐ヶ谷スパイダースと柿喰う客の劇団公演を事務所がやるようになっていて。でもその前まではもうちょっとフレキシブルにやっていたと思うんですね」

玉置「そうかもね」

永島「だからこんなふうにもう一度、劇団公演でもなく、ただ事務所主催で、川名くんを演出にして、僕ら三人を出演者にして、制作陣もみんなゴーチ・ブラザーズ、という公演をつくりだすのかと思うと、それはすごくいいことのように思いました。ゴーチって本当に定期的にパーティーしてバーベキューして、みたいな事務所だったんですよ。そこには家族もいたりして。そういうやり方だった。それを改めてこうやって同世代のメンバーでじっくりやれるっていうのは、すごく面白くて楽しいです」

田中「僕はゴーチのそういう部分をあまり知りませんでした。入って5年くらいになりますけど、今この企画を通して『昔はこうだったんだよ』って聞いている感じ。でもこのメンバーでやることに関しては、さっきも話に出たとおり、柿でも三人芝居をしましたけど、柿の劇団公演って僕のイメージだと、個々がそれぞれいろんな現場を経験して、地元(劇団)に戻って『お前ら、最近どうなん?』みたいな(笑)。ちょっとこう、『どうなんじゃい』みたいなのを出し合って、劇団のカラーとしてボーンとぶつける、みたいなところがある。だから今回の、なにと闘うでもなく、演劇大好きな人たちが集まって、何時間でも作品のことを喋ってられる、みたいな場は、僕にとってまさに“ファミリー感”です。このつくり方がスタンダードのひとつになってくれたら僕は最高です」

この特別なつくり方は、経験と技術がないとできない

――そういうつくり方は特別なのですか?

田中「そうですね。でもきっとこれはまだお客さんに伝わりにくいかもしれないです。このつくり方がどれくらい特別なものなのかっていうのは」

――普段となにが違うのでしょう?

田中「今回は垣根がとにかく少ないです。普段外でやるときは、各部のプロが集まって、それぞれが自分の仕事をしっかりやって、ひとつの作品をお客様に届ける。大きな公演を面白いものにするためにはそういうつくり方をしたほうがいいから、そうなっているんだと思います。でも今回はもっと“地域のお祭り”みたいな。翻訳家とも密なコミュニケーションを取れているし、各セクションの人たちもそれぞれどこかで一緒に仕事してきた方だから、最初からいい距離感でできる。そういうつくり方です」

川名「僕自身も、この企画の発端が大石さんのとてもピュアな想いから始まったこととか、憧れのゴーチ・ブラザーズのつくり方、つまり密になりながらやっていくっていうやり方とか、そういう要素が並んでいるので、普段はしないようなことをしています。例えば稽古の途中から、演出家としての作戦を立てなくなったんですね。作戦っていうのは、プランではなくて、どのセクションとどのセクションをどうやって繋げていこうとか、どういう並びでやろうとか、そういうこと。稽古を進めていくうえで演出家は考えないといけないんだけど、でも今回はなるべく作戦を考えないで稽古に臨むってことをやっています」

玉置・永島・田中「へえ!」

川名「それでリスクも背負うけど、でもそれをやっていいと思える場だなって今はすごく思っていて。それがそういう(田中が話したような)空気にもなっている気がする」

永島「普段、気を使わなきゃいけないことって本当に多いじゃないですか、お芝居って」

玉置「多いよね」

永島「作品に出演するにしても、いつの間にか名前の並びが決められて、この人は自分より偉い人なんだとか勝手に考えさせられてしまって。僕は本来はそうじゃないと思っているんですけど、なんか、そういうことってある。でも今回はフラットに、企画があって、その趣旨に賛同して、作品が面白いと思って、『じゃあどうしよう』ってみんながゼロからそれをやっている感じ。それがとてもいいなって」

一同「うん、うん」

川名「でもそれをできるって実は、俳優陣にもスタッフ陣にもかなり高度な技術がいるんですよ。多分これ、20代でやってたら崩壊してると思う」

永島「ああ、そうかもしれない」

川名「きっとみんなが言いたいこと言って、なにもまとまらなくて、作品が出来上がらない、みたいな状況になると思う。ここにいるみんなは30代で、それぞれキャリアを積んできて、そのぶんの技術があって、だからいろんな意志決定が、けっこう阿吽の呼吸でできている。演劇をやっててよかったなと思います。この方々とやれる、阿吽の呼吸で話がパチッと合う。そういうのはすごくうれしい瞬間ですから」

――お話の途中ですが、お時間が来たので川名さんはここまでです

田中「えー!」

一同「(笑)」

(後編につづきます)