松尾祐樹と戸塚ヤスタカの演劇ユニット「富山のはるか」。彼らの新作公演、富山のはるか『バーン・ザ・ハウス』が11月17日(木)より東京の“シアター・バビロンの流れのほとりにて”にて上演される。
2年ぶりの新作公演となる本作は、「痛快!サイケティックホラー!」。これまでの富山のはるかとはまた違う作品を見ることができるという期待を胸に、稽古場に潜入してきた。
舞台は、とある地方の村。そこに住む家族を取り巻く呪いの物語だ。
登場人物は、家を出たい大槻家の次男ヨダカ(緒形敦)、足に障害を抱え引きこもりとなっている大槻家長男のアサト(東迎昂史郎)、そんな2人の前に突然現れた男、丈太郎(足立信彦)、ヨダカたちの幼馴染の外村(丸山港都)と丈太郎が連れてきた霊媒師(田中爽一郎)の5人。大槻家に集結した彼らを襲う呪いの正体に迫っていく。
稽古でまず見たのはまさに呪いに取り憑かれるというシーン。これだけ聞くと、怖くシリアスなイメージがあったのだが、いざ見てみるとなんともコミカルな様子だった。まだ試行錯誤している段階で、全員で面白がりながら探っている。でも、これはあくまでそのシーン一部を見ているからであって、作品に落とし込まれた時、我々は恐怖に包まれているかもしれないと考えたら、ゾッと寒気がした。
その後も、呪いとのシーンの稽古が進んでいく。何度か現れる呪いとその呪いに立ち向かい戦っていく様子を見ていたのだが、役者の運動量が想像よりも多い。どちらかというとホラーを演じるのは、精神を集中させ、見るものに恐怖を与えると思っていたのだが、体力の消耗も激しそうだ。時折、役者からも「思ったよりも疲れる…」という言葉が聞こえてきた。きっとその分、客席に向かってくるその熱量は怖さも日に日に帯びていき、お客様により一層恐怖心を与えてくれるだろう。
稽古中、役者本人や演出の松尾祐樹が様々な音を発している。急に発せられる音に、私は何度か驚いてしまった。声だけでも驚いてしまうのだから、いずれ音響が入り、劇場で聞くと怖さが大いに増していることだろう。また、ホラー作品というのは視覚からも恐怖を与える。劇場でしか見ることのできない、照明と映像が重なった画を早くみたいと思った。
稽古を通して、役者5人と松尾が意見を細かく出し合い稽古が進んでいく様子が印象的だった。和気あいあいとした稽古前のアップの雰囲気を壊さず、でも正解などないホラーを追求する真剣な姿。まだ完成型のイメージが湧かず、頭を抱えながら演出をする松尾に様々な角度から提案をしていく役者たちが大変頼もしい。久しぶりに男性役者のみの作品ということで、松尾も役者を頼りにしているのがとても伝わってきて、いい関係性が作られていると感じた。
非日常である“ホラー”と誰もが生まれた時から持つ“家族”が繋がって生まれた『バーン・ザ・ハウス』。タイトルから、家が燃えるという情報が与えられているが、どうして燃えるのか、呪いと関係あるのか、本当に家は燃えるのか。まさに、富山のはるか第二幕の幕開けとも言える本作。是非、劇場に足を運び、『バーン・ザ・ハウス』の目撃者になってほしい。
文/柴田紗希
写真/堀山俊紀