『玉田企画とゆうめいのおたのしみセット』│玉田真也×池田亮×田中祐希インタビュー

11月25日(金)より東京・ユーロライブにて、『玉田企画とゆうめいのおたのしみセット』が上演される。独自の創作スタイルと唯一のカラーで新作公演の度に多くの観客を魅了する2つのカンパニーがそれぞれ二作の短編作を持ち寄り、計四作の上演が堪能できる、その名の通り“お楽しみ感”満載の合同企画だ。玉田企画からは過去にテアトロコントで上演された『変心』と、玉田真也の一つのターニングポイント作でもある『披露宴』、ゆうめいからも過去にテアトロコントで上演された話題作『祐希』のリニューアル作『Re:祐希』と、本企画のために書き下ろされた新作『登場』がベールを脱ぐ。3日間限りの注目のタッグ公演について、玉田企画主宰の玉田真也とゆうめいの池田亮と田中祐希に話を聞いた。

――この合同企画が立ち上がった経緯やきっかけ、玉田企画とゆうめいの接点からお聞かせいただけますか?

池田 まず、田中くんが玉田企画の前回公演『영(ヨン)』に出演したのが一つの接点としてあって……。

田中 その時に玉田さんが「玉田企画とゆうめい、合同で何かやりませんか?」ってお誘いしてくださったんです。自分たちとしてもすごく広がりを感じる試みだと感じて、池田くんにすぐ相談したら、幸いスケジュールも合ったので「ぜひお願いします!」とお伝えして。

池田 ゆうめいも過去にテアトロコントに出させてもらったりもしていたので、「ユーロライブで玉田企画と合同企画できるのかあ」と純粋に嬉しかったですね。

――「おたのしみセット」という響きにもワクワクするものがありますよね

玉田 初めての試みですし、「“お楽しみ会”みたいな感じにしたいよね」っていう話が最初に出て……。そんなことをリモートで話していたら、画面の向こうで池田くんのお子さんがハンバーガー屋さんのチラシを持って来て、それを見た池田くんが「合体しておたのしみセット」ってどうですか?と話して、あ、いいねそれにしようってなりました。

田中 チラシも楽しげな雰囲気があっていいですよね。最初はお楽しみ会にちなんで、ビンゴカードをチラシにしてみるという案もデザイナーさんから出ていたのですが、印刷加工に経費がかさむということが分かり……(笑)。

玉田 お蔵入りになってしまったけど、あのアイデアもすごくよかったですよね。でも、今回のシールに見立てたデザインのチラシも、劇場でお配りする方は本当に一文字ずつ剥がして使えるシールタイプにしようと思っているので、用途はさておき、是非お持ち帰りいただけたら!(笑)

田中 普段の本公演をやる時とは違うお客さん層に楽しんでいただけそうなのも嬉しいですよね。テアトロコントの時にも思ったんですけど、お客さんが気軽に笑いに劇場に来られている感じがすごく好きなんですよね。短編だからこそできる、また違った面白みも出せると思うし、サイズや形式としても観やすいんじゃないかなと思います。

玉田 この企画自体は『영(ヨン)』の稽古が始まる前からやりたいと思っていたんですよね。過去にテアトロコントで上演した短編をもう一度やりたくて……。気に入っていたけど、これまで出せるタイミングがなかったんですよね。で、どうせやるなら玉田企画だけじゃなくて誰かを巻き込みたいなと(笑)。「自分よりも下の世代の人たちと何かやりたい」と思った時に、僕の中ではゆうめいが一番面白いと感じていたので、真っ先に思い浮かんで。東京芸術劇場で『姿』を初めて観てから、こんな機会があったらいいなあとぼんやり考えていたような気もしますね。

池田 わあ……嬉しいです。ありがとうございます。

――ゆうめいのお二人にとって玉田企画はどんな存在ですか?

田中 観客として観ていた時は、「この路線はもう目指せない」という感じがありましたね。人間関係の気まずさとか男女のすれ違いとか、そういった絶妙な会話のやりとりが出演俳優さんの自然な演技でどんどん面白くなっていって……。「いつか出たい」と思う反面「ゆうめいでは、これじゃないものを目指さなくては!」という気持ちもありました。

池田 そうそう。それはすごくありましたね。2019年上演の『かえるバード』を観てから自分たちの稽古場に向かう時、「ああ、俺たちこっちじゃダメだね」って言ってたもんね。この路線で行くと、ボッコボコにされるぞって(笑)。

田中 そう。面白さに打ちのめされてね!「負けない」って思わなきゃいけないから、「この路線じゃないものをやりたいんだ!」って自分たちを鼓舞する時間がありました(笑)

池田 僕が最初に玉田企画を観たのは、まだ演劇に本腰もいれていなくて、彫刻をやりたいと思っていた頃でした。三鷹市芸術センター 星のホールで『臆病な街』っていう修学旅行の話を観て……。自分も学生時代のことを描いたりはしていたので、そういった意味合いでは親近感は持っていたのですが、軽々とお客さんを笑わせるのがまあ衝撃的で……。

玉田 え、そんなに昔から!『臆病な街』は2013年上演なので、10年前くらいの作品です。

池田 それ以降の作品もですが、自分たちが考えて、考えて、結果どスベりしているようなことをさらっとやられている姿に「ああ、こっち目指しちゃダメだ」ってなったんです。

田中 だから、僕はまさか自分が玉田企画に出演できるなんて思ってなかったんですよ。でも、観ていた時と参加してみての印象は全然違いました。すごくストイックな感じを想像していたのですが、参加してみたら「楽しい」の気持ちが大きくて。ゆうめいの稽古場では主宰という役割や気を遣いがちっていう自分の性格もあって、つい肩に力が入っちゃう部分があって。でも、なんだろう、玉田さんの近くにいると、そういうのが自然になくなっていたんですよね。

池田 のびのびとやっている感じがあったんだよね。

田中 そうなんです。玉田さんは、中学とか高校とか3学年の中にいる先輩のような親しみやすさがあるというか、中1と中3みたいな。あっ、なんか、こんなこと言っていいんですかね? 大前提に敬意はめちゃくちゃあるので、ナメているわけじゃ決してないんですけど、先輩なのになんかすごく落ち着くというか。

玉田 あははは! 全然大丈夫です、嬉しいですね。でも、僕から見ても、玉田企画の稽古場にいる田中くんとゆうめいの主宰として会う田中くんは印象が違ったかも。ゆうめいの代表としている時の田中くんは、なんかこう、すごくしっかりしている! 話し合いもうまくまとめてくれるし、稽古場では見なかったタイプの田中くんだと思いました(笑)。

池田 稽古場でどれだけ肩の力抜いてたの?って話ですね(笑)。

田中 あははは! 

池田 そんな玉田企画と合同でやらせてもらえるということで、早々にゆうめいの公式Twitterのヘッダーも玉田企画にして、積極的に長いものに巻かれていこうという気持ちでいるのですが……。

玉田 全然長くないよ!なんなら、意外と短かったっていう……。
 
田中 そんなことはないです!

――興味深い接点のお話でした!それぞれの上演作品についてもお聞きしたいのですが、まず玉田企画の『変心』と『披露宴』という短編二作について、見どころや作風をお聞かせください

玉田 『変心』は、演劇現場あるあるモノですね。“あるある”というか、過去に玉田企画の本公演で起きた様々なことから着想を得て凝縮したような、“あったあった”作品。台本はあるけど設定も演出も破綻していて、さらに演出家がコロコロ心変わりするものだから、俳優がどんどんトランス状態になっていくっていう話で……。

田中 つまり……、演出家の役は玉田さんそのものということですか?(笑)

玉田 そう、そこはもう完全に自分への当てがきで(笑)。これは、2012年に『夢の星』っていう、70分くらいの長編としても一度上演しているんですよ。それを30分のコントにしたのが、テアトロコントで2016年に上演した『変心』で、70分のドラマの面白ドコロだけをぎゅっと詰め込んだ、玉田企画的には笑いの方向に全振りした仕様になっています。

――もう一作の、古屋隆太さんと奥田洋平さんの二人芝居『披露宴』もすごく楽しみです

玉田 こちらは、元々古屋隆太さんと奥田洋平さんの「古屋と奥田」っていうユニットがあって、毎回様々な作・演出家を招いて演劇を作っていらっしゃったんですよ。最初はサンプルの松井周さん、僕はその次の公演で2017年にやらせてもらって……。『披露宴』の設定は、かつて仲良し3人組大学生だった先輩後輩の二人が大人になって、残る一人の結婚披露宴で共同スピーチをお願いされる、というものです。当時の僕はまだ学生ものばかりを書いていたのですが、古屋さんと奥田さんは40歳くらいだったので、「大人で達者なお二人に耐えられるドラマを描かなくては!」という意気込みで頑張って書いた作品だったんですよね。

――玉田さんにとってはターニングポイント的な思い入れがある作品なのですね

玉田 自分自身も手応えを感じた作品だったし、「学生的な面白さが得意と思っていたけど、こういうのも書けるんだ」という感じで周りの反応が好感触だったこともあって、とても印象に残っている作品です。何より、古屋さんと奥田さんは本当にお芝居がお上手で魅力的な俳優さんなので、普段書けないこともお二人の胸を借りて書けたという作品だったんです。以降の玉田企画の作品ともまた違った異色の作品なので、5年の時を経てご一緒できるのもすごく嬉しいです。

――最近の玉田企画を観てハマった方にとっても、知られざる魅力を新たに知ることができる貴重な機会だと感じます。続いて、ゆうめいの二作についてもお聞きしたいのですが、『Re:祐希』は2020年にテアトロコントで上演された『祐希』のリメイクなんだとか。『祐希』は私も拝見しましたが、たくさん笑わせていただきました

池田 おもにテアトロコントでは、タイトル通り、田中(祐希)くんに実際に起きた失恋話や叶わぬ恋の話を題材にしていて、「劇場で告白しちゃえ!」という感じでステージで未成年の主張みたいなことをやるという迷惑な話なんです(笑)。『祐希』は、コロナ自粛期間中に電話アプリにハマった田中くんが電話の向こうの女の子に恋をするっていう話で、さらにバンドをやっている兄に楽曲を提供してもらって音楽劇にしたんです。それを元にリメイク&パワーアップしたバージョンとして『Re:祐希』と命名しました。

田中 この間稽古をしていたら、ホアキン・フェニックス主演の映画『her/世界でひとつの彼女』(2013年)みたいにやってほしいって言われて……。

池田 そう。僕は『her/世界でひとつの彼女』みたいな気持ちで台本を書いていたんですけど、誰も共感はしてくれなかった……。

田中 台本書いていた時からそう思っていたんだね(笑)。でも、AIではないけど、日本中のどこかにいる女の子の声に恋するっていう話ではある。基本は一人芝居なのですが、電話の向こうの女の子役として声の出演をしてくださる俳優さんがいて。『祐希』では高野ゆらこさん、今回の『Re:祐希』では島田桃依さんが出てくださるんです。姿は出てこないけれど、声のお芝居もまたとても素敵なんですよね。

池田 そして、最後はみんなでミュージカルに……!

田中 ミュージカルって言っていいのかな。ちょっと心配ではあるのですが、歌は歌います!

――もう一作の『登場』はなんと、書き下ろしの新作なんですよね

池田 それこそ、AIの話というか、人間がAIに乗っ取られるという話なんですよ。明日から稽古が始まるのですが、いい意味で、これまでのゆうめいにはない、新しい作品になりそうです。今回は遠方に住んでいるメンバーの小松大二郎くんにも声での生・リモート出演をしてもらおうと思っています。『Re:祐希』のモチーフが『her/世界でひとつの彼女』なら、『登場』は『グレイテスト・ショーマン』です。

田中 それ、池田くんの中では繋がってるのかもしれないけど、わからない時とか全然あるからね!

池田 そうなんですよね……。めちゃめちゃメジャーな映画をモチーフにしたはずが、全く違うものが仕上がるというのも恒例です。

玉田 どんな作品なのか楽しみだし、稽古も観に行ってみたいです。他の稽古場を見られる機会もそうないからね。

池田 そうですよね。稽古場自体は同じところでやっているので、そういう行き来をしてみるのも面白いですよね。

玉田 互いの創作状況も今はまだ知らない状態だけど、場転とかもあるし、ゆくゆくは一緒に通しとかもしたいと思っています。「おたのしみセット」のセット感というか、ちょっとしたまとまりを探ってみるのも面白そうだと思っています。

池田 そうですね。テアトロコントだと、当日に入って合わせたりするけど、今回は合同企画ならではの演出とかも入れられたらいいですよね。

田中 そういった試みも含めて、楽しみにしていただけたら!

――今回は「おたのしみセット」ということで一度に四作の短編が楽しめるというバリュー感が魅力だと思うのですが、本公演では基本的に長尺の作品を創作しているみなさんが感じる短編ならではの魅力とはどんなものなのでしょうか? 意気込みも含めてお聞かせください

池田 長尺になっていくと、どうしても大きなお話の流れを踏まえて作らなくてはいけなくなってくるのですが、書いている時の気持ちとしては、その流れから脱線したくなる瞬間がやっぱりあるんですよね。でも、本公演ではそこをグッと抑えて、お客さん的にはこっちの流れを観たいだろう、という方向に進めるんです。そういった葛藤があるので、今回の短編では、ふと見つけた脇道に入ったり、思いっきり逸れたり、積極的に冒険しながら描いていきたいと思っています。あとは、玉田企画とご一緒できるということで、自分たちがトチっても、バトンを……わたせる……。

田中 ちょっと、そんなこと考えてたの!(笑)。こういう貴重な機会だからこそ負けじと感張らなきゃ! 

玉田 あははは!

池田 でも、まあ、僕たちには最後に歌があるので!たいてい歌を聴くと、みなさん気持ち良い心地にはなってもらえると思うので、そういった安心には包まれてほしいと思います。

田中 これは、対バンだからね! 

玉田 確かに!僕も池田くんと同じく、短編はアイデア一発で突き進めるところが魅力だと思うんですよね。こういうシチュエーション面白いなとか、こんな二人を描きたいということだけで進める。アイデアには持続力があると思っていて、90分は持続しないけど、30分だと濃厚なまま持続できるっていうこともあって、そういうのが短編の面白さかなと。そういう意味では、長編を書く時よりも自分の普段面白いと思っていることが純粋に抽出されると思うんですよね。

池田 すごく分かります。

玉田 あと、長編は核となるやりたいことだけでは物語が成立しないから、いろんな要素を付け足す作業もあるんですけど、その中で「何をやりたかったんだろう?」ってなることもある。でも、短編では、創作の原本となるものを極められるという良さもあると思うんです。「これしかない!」というアイデアを込めていきたいですね。

池田 玉田企画とかぶらないように作ろうという意識はとくにしていなかったけど、自ずとそれぞれ全然違う、バリエーション豊かな作品群に仕上がるような予感はしています。

田中 玉田企画もゆうめいも共演者・出演者の方々がすごく魅力的なんですよね。短編だからこそ、その個性豊かな俳優さん一人一人の魅力を凝縮して浴びられるのが、見どころとしてすごく大きいと感じています。あとは、僕は観劇って基本的には一人で行くことが多くて、特に長編だと、「好みに合わないかも」とか色々考えて、どうしてもハードルがあがっちゃうんですよね。でも、こういう二つの劇団の短編四作という趣だったら、気軽に楽しんでもらえそうだし、気負いなく誰かを誘える公演としてもぴったりなセットだと思います。

――合同企画ならではの魅力がたくさん聞けました。「おたのしみセット」であり、「おためしセット」の趣もある公演のお披露目、楽しみにしています!

取材・文/丘田ミイ子