舞台『日本昔ばなし』貧乏神と福の神~つるの恩返し~ ゲネプロ&取材会コメント│「おなかの底から笑って幸せを感じる」

2022.11.22

2022年11月17日(木)より舞台「『日本昔ばなし』貧乏神と福の神~つるの恩返し~」が東京芸術劇場 シアターウエストにて上演されている。ローチケ編集部では初日直前に行われた公開ゲネプロを取材。出演陣のコメントと共にレポートする。公演は27日(日)まで。

「坊やよい子だ ねんねしな~♪」
と、川内康範作詞・北原じゅん作曲によるお馴染みのオープニング曲が流れると、市原悦子の「むかし、むかし、あるところに……」という聞き覚えのあるナレーションが。これは、今回の試みのひとつで、AI技術によって彼女の声を作成したものだそう。長年、「まんが日本昔ばなし」に携われてきた市原悦子へのリスペクトを感じる演出だ。

国民的アニメ『まんが日本昔ばなし』を世界ではじめて舞台化した今作。数ある昔ばなしの中から“貧乏神と福の神”と“つるの恩がえし”のエッセンスを題材に、作・演出のモトイキシゲキがひとつの物語として構成。出演は、主演の小出恵介、ヒロインの中村ゆりかを中心にベテランから若手まで幅広いキャストが揃うほか、日替わりでゲストが登場し、舞台に笑いを添える。この日は、福の神役にダチョウ倶楽部の肥後克広、貧乏神役に星田英利が扮した。

市原悦子のナレーションによって誘われるのは、深い山々に囲まれたある村。男の赤子を抱えたハル(安寿ミラ)は行商の帰り道に、鉄砲で撃たれ瀕死を負った鶴の精霊・千羽鶴(原日出子)から女の赤子を託される。

そこへ狩りをしていた村長(中西良太)と庄屋の長兵衛(丹羽貞仁)が現れ、見知らぬ赤子を抱えているハルを見て、自分たちが赤子の母親を誤って撃ってしまったと勘違いし、責任感から赤子を引き取り育てることに。

一方、その様子を見ていたのは福の神(肥後克広)と貧乏神(星田英利)。福の神は、「ハルはせっかく裕福になるチャンスだったのに、赤子を預けてしまったのう」と呟き庄屋のもとへ。貧乏神は「ハルさんの家なら」とハルが住む家へとそれぞれ向かう。

20年後ーー。

成長したハルの息子・寝太郎(小出恵介)は、事故で片足が不自由にしているものの健やかな好青年に育っていた。茅葺屋根の上を好み、空を見るのが好きだという寝太郎の明るさと前向きな姿勢は、小出の持つ柔らかで包み込むような雰囲気ともシンクロし、この物語の軸になっている。

千羽鶴が託した赤子はつる(中村ゆりか)と名付けられ、庄屋の内儀であるお徳(黒田こらん)の娘として大切に育てられていた。中村の愛くるしさと凛とした佇まいは、つるが誰からも愛されているというのがひと目でわかり、引き込まれる。

貧乏暮らしの寝太郎とお金持ちである庄屋の娘のつる。格差はあれど、ふたりはお互いを尊重しあい、兄妹のような関係だったが、年頃の娘となったつるに白木屋の若旦那である新之助(大倉空人)との縁談が持ち上がる。

ある日の夜。つる、お徳と長兵衛、ハルの枕元に千羽鶴が現れ、「つるの寿命はもってあと1~2年」と告げる。夢か幻か? 千羽鶴の言葉に動揺したつるは、寝太郎がいつもいる茅葺屋根の上に登り、混乱する思いを寝太郎たちに伝えるのだった……。

物語は、ここから更に私たちの知っている、“つるの恩がえし”と“貧乏神と福の神”のお話が交錯していく。小出恵介と中村ゆりかを軸にした出演者らとのアンサンブルは、ちょっとした会話の気遣いや、言葉のチョイスにより私たちを「まんが日本昔ばなし」の世界に浸らしてくれる。

「女の仕事を男がやってもいいだろう」、「恩を受けた人に恩を返す」など、昔ばなしに込められたメッセージも現代に通じるセリフになることでわかりやすく心に響く。

また、本作はもともと貧乏神役で仲本工事が出演予定だったが、彼の急逝により急遽、星田英利、片岡鶴太郎、生島ヒロシが代役として出演することになったという経緯がある。仲本工事の貧乏神を想像しつつも、それぞれのキャラが全面に出る貧乏神っぷりがどのようにハネるかが楽しみだ。この日は星田英利が貧乏神役だったが、それはそれは貧乏そうな、とはいえ、どこかエネルギッシュさも感じる神さまぶりが印象的だった。

この日の笑いを一手に引き受けていたのは福の神役の肥後克広。綺羅びやかな衣装に満面の笑顔を浮かべ、“あつあつおでん芸”をはじめとするダチョウ倶楽部のギャグを連発するさまはまさに“お笑い福の神”。見ているだけでありがたいと感じさせる存在感はさすが。この福の神役は、連日入れ替わりで登場することになっており、肥後克広、星田英利、レギュラー、コロコロチキチキペッパーズ、ひょっこりはん、かなで(3時のヒロイン)、彦麻呂らが出演する。貧乏神との組み合わせで起きるケミストリーにも期待したい。

コロナ禍になり、日々の暮らしは制約や生きづらさを感じて嘆きたくもなる。だが、「日本昔ばなし」の登場人物たちを見ていると、日々のシンプルな暮らしが幸せに繋がるという当たり前のことに気付かされる。「むかし、むかし……」から現代、そして未来を生きる子どもたちへ。幸せとは何かを笑いと共に伝えてくれる楽しい舞台だ。

出演者コメント

【寝太郎役 小出恵介】

初日を迎えることができました。楽しく楽しく過ごせたらなと思っております。がんばります。
(仲本工事さんが逝去され)、製作発表もご一緒させていただいたうえでのことだったので、正直、気持ちを自分のなかで整理する間もなく稽古にはいりました。そこから新しいキャストの方が来てくれて、みなさんの意気込み、熱意を感じました。その気持ちは舞台で昇華されると思うので楽しみにしていてください。

【つる役 中村ゆりか】

短い稽古期間で、みなさんに追いついていかないと焦りながらの毎日でした。日替わりでキャストも変わるので、きっと空気感も日によってそれぞれ違うと思います。とにかく見に来てくださったお客さんが「良かったな」、「楽しかったな」とあたたかい気持ちを持って帰って頂けるように最後までがんばりたいと思います。

【俵屋長兵衛役(庄屋) 丹羽貞仁】

とてもあたたかくてほっこりする作品です。笑っていただいた気持ちを家に持って帰って貰って、久しぶりになごやかになったなと思って頂けたら嬉しいです。たくさんのお客さまのご来場、お待ちしております。

【お徳役(庄屋の内儀) 黒田こらん】

稽古場では笑いが絶えませんでした。本番になってからもツボにハマると笑いを堪えるのが大変で……なんとかそこを我慢して、お客さまに笑っていただけるようにがんばって務めてまいりたいと思います。

【新之助役(町の豪商) 大倉空人】

劇場に足を運んでくれたお客さまに、とてもあたたかい素敵な『日本昔ばなし』をしっかり届けられたらいいなと思っています。よろしくお願いします。

【甚左衛門役(村長) 中西良太】

世の中がきな臭い、よろしくない時代になっていますけど、こういうあたたかいほっこりした物語は必要だと思います。ちょっといい加減な部分も入っているので、楽しい作品になってるんじゃないかなと思っております。よろしくお願いします。

【千羽鶴役 原日出子】

今日、このゲネプロが衣装をつけてのはじめての通し稽古でした。みんなよくがんばったなと思っております。私はセリフを飛ばしたことにまったく気づいておりませんでしたが(笑)、安寿ミラさんがカバーしてくださって、こんな感じでみんなに助け合って、最後まで無事にできたらなと思っております。

【はる役 安寿ミラ】

日替わりのゲストの方もいらっしゃるので、毎日が初日のように緊張すると思います。とはいえ、それすらも楽しみながら、お子さんの夢を壊さないように、千秋楽まで努めていきたいと思います。

【貧乏神役 星田英利】

泣いても笑ってもあと何時間後に初日の幕が空きますので、言い訳することなく真正面からお客さんに向かい合いたいと思います。よろしくお願いします。

【福の神役 肥後克広(ダチョウ倶楽部)】

僕が福の神をやるときは、ダチョウ倶楽部のギャグを毎回やろうと思います。まあ、舞台はやっぱり演者自身が楽しんじゃうほうが伝わると思いますので、定番から新作までネタが尽きるまでいろいろやろうと思っております。稽古期間を経て、みんながひとつのチームになりましたので、楽しい舞台が届けられると思います。

(貧乏神役の片岡鶴太郎さんとの共演について)鶴太郎さんは僕の直属の先輩で、30年ぶりくらいに同じ舞台に立つことになるので非常に楽しみにしております。それと、元祖“あつあつおでん芸”をやられていた鶴太郎さんと一緒なので、僕が福の神をやるときは必ず“あつあつおでん芸”をやることにしました。もちろんほっしゃんさんと生島さんもです(笑)。

【貧乏神役 生島ヒロシ】

貧乏神をやらせていただきます。商業演劇の舞台に出演するのははじめてなので、できるかなと思っていたのですが、もうやるしかありません。今日は星田英利さんの貧乏神を見させていただいて、ここはこういう風にセリフを変えるんだとか、ここでしゃがむんだとか参考になることが多々ありました。

貧乏でも笑っていられる心のあたたかさを描いている作品は今の時代に必要だと思います。ぜひとも多くのみなさまが劇場に足を運んでくださって、ほっこりしてお帰りいただければと思います。

取材・文/高畠正人