小林亮太 インタビュー|ミュージカル『キングアーサー』

イギリス・ケルトに伝わる伝説を、フレンチロックをベースに多彩な音楽で描くミュージカル『キングアーサー』。演出を韓国の若手実力派オ・ルピナが手掛け、主人公のアーサー王を浦井健治が演じる話題作だ。そんな本作で、アーサー王の甥で、最期までアーサーに忠誠を誓う側近のガウェインを演じることになった、小林亮太。彼はどのようにこの役に飛び込んでいくのか、話を聞いた。

 

――ご出演が決まった時は、どのようなお気持ちでしたか?

最初にお話をうかがったときに、演出がオ・ルピナさんとお聞きして、昨年に僕が本多劇場でやらせていただいたミュージカル「HOPE」を韓国で演出されていた方として存じ上げていたので、ご一緒させていただけると聞いて、この作品の中に自分が入っていけることが純粋にすごく嬉しかったです。周りのキャストの方々も、グランドミュージカルなどで活躍されているような方ばかりで、気持ちがすくむような思いがしました。自分がこの中に入っても恥じないように、足りない部分を伸ばして、新しい景色を見たいと思います。

 

――ストーリーの魅力についてはどのように感じていますか。

この物語のアーサー王は平民として暮らしてる中で、エクスカリバーを抜き、王、そして騎士となり、いろいろな人と出会い、1人の人間として成長していくことが、非常に魅力的だと思います。

 

――音楽も非常に魅力的だそうですね。

今回の作品では、楽曲がフレンチロックになっているので、日本の方々が聞いてもとてものりやすいものが多いんじゃないかと思っています。実際に僕も、韓国版を拝見したときに、楽曲の印象がものすごく強かったんですが、その楽曲と楽曲の間を人間の心の揺れなどのお芝居でしっかり繋いでいるような印象でした。

 

――稽古に入ってからの手ごたえはいかがですか。

最初に本読みをした後、テーブルワークという形で、役者対演出家でお互いの感想を言い合うようなディスカッションの時間を設けていただいたんですよ。そういう時間でとても重要で、周りの人がどう考えているかなどを聞いて、僕が演じるガウェインとしての立ち位置を考えられたりしました。お芝居の部分をしっかり成立させないと、いくら楽曲が良くても人の心には届かないと思うんです。それは僕だけじゃなく、皆さんが考えていることで、その中で自分がどう振舞うか。そういう部分は今も日々悩みながらやっています。

 

――本読みの段階からディスカッションをして、ご自分の立ち位置をしっかり考えることができたんですね。

本当に稽古に入ってから、そういう部分が見えてきました。少しずつ、自分の役にハマるピースを見つけながら、まだどこかにピースが転がっていないかを探しながら、毎日を過ごしています。今回のお話は5世紀、6世紀のころのもので、映画や舞台などいろいろな作品によって描かれ方もすごく違うんですね。今回の『キングアーサー』では、そこにファンタジー要素も加わるので、その上でどこまでリアリティに落とし込んでいくのか。逆にリアリティじゃない部分をどう見せていくのかはとても大事なことだと思っています。ミュージカルだと、音楽と音楽の間で、役者は感情などいろいろな部分を通り越して埋めなきゃいけないときもありますから。

 

――アーサー王の甥で王に忠誠を誓う側近・ガウェインを演じられますが、どのような男だと考えていらっしゃいますか。

序盤に決闘のような場面があるんですが、それを取り仕切っているのがガウェインで、その場面で民衆であったり、そこにいる騎士たちに割と大きな言葉を投げかけるんです。その場面を本読みでやったときに「頑張りすぎ」と言われてしまいまして。自分でもあんまり腑に落ちていなかったんです。役者としては、板の上に立てば年上だろうが年下だろうが関係ないですけど、ガウェインの場合は“若い奴が頑張っている”みたいな画ではないんです。見せたい姿はそういうのじゃない。ルピナさんが考えているガウェインの姿を、僕がなんとなく思い描いているのは、男としての存在感が一番大きいのかなと。すごく難しいんですけど。僕が今までやらせていただいた作品だと、自分が前線にでて戦うような役が多かったんですが、今回はアーサー王を成長させるために1歩引いたような立ち位置なので、そういう心の部分を大きな舞台の中でどう見せていくのか、非常に難しく感じています。本当に呼吸1つ、1歩2歩と歩く時の速度感で変わるんですよね。実際に自分の稽古映像を見ても、そう感じます。

――本当に繊細な役作りに挑戦されているんですね。オ・ルピナさんの演出を受けて、特徴的だと感じるところはありましたか?

ルピナさんって、差し入れでメロンパンがあったら飛び跳ねて喜んじゃうみたいな、すごくチャーミングな方なんです。そのチャーミングさは役者全員が感じているところだと思います。一方で、シーンを作っていくときは通訳を介していて、やっぱり直接会話するのよりは難しいと思うんですよ。それでも、彼女の持っているエネルギー感や力を役者はみんな受け取れていると思います。そのうえで、ルピナさんをはじめ、擬闘の栗原直樹さんや振付のKAORIaliveさんが、それぞれのやりたいことを提示しあって、そこに役者の意見など、いいとこ取りをしていくんです。お芝居に関しては、役者がやってみてどう思ったか、みたいな作り方をしてくださいます。稽古場の雰囲気は、健治さんが芯にいてくださいますし、すごくいいですね。

 

――それぞれの意見を自由に出し合えるようなクリエイティブな現場になっているんですね。

そうですね。おかしいな?と思って、変えてやってみて良かったら受け入れてくださるような感じになっていると思います。そもそも、今回の作品の肝って、それぞれが選択していくことだと思うんです。1つ1つの選択が人生や運命に繋がっていくようなところがあるので、僕ら役者も選択をしていかなきゃいけない。選択するには選択肢が必要ですし、その選択肢を僕らもどんどん出していきたいと思わせてくれますね。

 

――大変な中でも稽古場の楽しい雰囲気が伝わってくるような気がします。

もう、ずっと楽しいです! 観ているときもずっと楽しい。あと、アンサンブルチームの皆さんの技術もすごいんです! 踊りもアクロバットも本当にお上手な方が多いので、ずっと見ていられます。あと、みなさんの歌が本当に上手。僕は今回コーラスくらいなんですが、キャストのみなさんの歌声を聞いて、初めてレコーディングブースみたいなタイプのひとりカラオケに行きました。1時間半くらい、稽古で溜まった歌いたいエネルギーを発散しました(笑)。そのくらい、お客さんの耳にも残る楽曲だと思いますよ。

 

――今回はコーラスが中心とのことですが、ご自身が歌う部分についてはどのようにしたいですか?

この作品の制作発表の時、伊礼彼方さんと初めてお会いしたんですけど、その時のリハーサルですごく彼方さんに煽られたんですよ(笑)。それは、僕が遠慮しちゃってた部分もあって、彼方さんが引っ張ってくださった部分があるんですけど。今回のストーリー上では、彼方さんのメレアガンとアーサー軍は対立するような構図なので、芝居上で直接対峙するようなところはあまりないですけど、コーラスといえどガツガツしていきたいと思っています。

 

―メレアガンは伊礼さんと加藤和樹さんのWキャストですが、加藤さんの印象はいかがですか?

和樹さんは同じ愛知県出身なんです。なので愛知県トークとかしましたね。地元がかなり近くて、中学の時に通っていたボイトレの方が和樹さんと仲が良かったらしいんです。ボイトレのスタジオに和樹さんのお写真が貼ってあったので、そのお話をさせていただきました。和樹さんは彼方さんとはタイプが違う役者さんというイメージがあったので、そんな2人がWキャストでメレアガンを演じるということで、どういう違いが出るのかが楽しみです。

 

――アーサー王を演じられる、浦井健治さんの印象はいかがでしょうか。

どのタイミングで健治さんがそう思ってくださったかはわからないんですけど、「今回、亮太と一緒にやれてすごく嬉しい」って言ってくださったんですよ。それを聞いたとき、まさかそんな風に言っていただけると思っていなかったし、もしかして煽られてるのかな?って思ったんですけど(笑)。本当に、大舞台で観てきた雲の上の方という印象だったので、アーサー王が成長できるものを与えていく役として、いい球を投げたいし、それが自分の役目だと思わされましたね。本当にアーサーとしてのお芝居がすごく素敵なので、その姿を見てるだけで、自分にも、もっとできることがあるだろう、という気持ちになります。

 

――今回の作品が2023年最初の作品になるかと思いますが、2022年はどのような1年でしたか?

2022年は年男で本厄だったんですけど(笑)。厄年らしいことは特になく過ごすことができました。お世話になっている先輩から「男なら、25歳、30歳のタイミングで5年後、10年後のことをある程度見据えて過ごせ」という言葉をもらいまして、そういう意味でいけば2022年、その先に向けての準備としてはとても充実した1年だったと思います。…でも、僕は振り返ると反省がすごく出てしまうので、いろいろ考えてしまうんですが(笑)、すごく豊かに過ごせたと思っています。ネガティブではないんですけどね。その反省の中に、去年やおととしの自分とは違う発見ができていたりするので。今、この作品に携わっていることも含めて、自分とより向き合わなければならないことってすごく多いと思っています。

 

――そんな充実した1年を経て、2023年はどのような年にしたいですか?

挑まざるを得ない年になると思います。半分怖いんですけど(笑)、これまでやってきたことを信じてやらなければいけないんですね。なんだかそこも、ガウェインに通じている気がします。この作品に入るにあたって、稽古序盤は自分に自信がなくて、今まで自分がやってきた環境とも違うので不安もあったんです。そういう気持ちでいるとどんどん小さくなってしまうので、自分としての自信をつけないと大きな芝居はできない。ここ数年でやってきたことを信じて、前に進むしかないですね。大きな挑戦が、表立って皆さんにお知らせできるかはもう自分次第なので、頑張るしかないです。

 

――自分を奮い立たせるような、頑張る力の原動力はなんですか?

身近な人が頑張っている姿は、やっぱり励みになります。事務所の先輩もそうですし、同年代の仲間が次のステップに進んでいるところを見ると刺激を受けます。それが作品であれば必ず観るようにしています。もちろん、悔しい気持ちにもなりますが、そこからの湧き上がってくるものもたくさんあると思っています。もともと、映画も舞台も好きなので、別に奮い立たせに観に行っているわけじゃないんですけど(笑)、観たら悔しくはなりますし、分析したくなります。この役はきっと役者はこう考えたんだろうとか、演出はどういう意思なのかとか。無知が怖いんですよ。人と話すうえで、ちゃんと自分が知った上で話したいですし、ちゃんと自分の心で決めたいから。自分が何をやりたいのか、知った上で決めたいと思うので、時間があれば肌で感じられるものを観るようにしています。

 

――今後の小林さんに大いに期待しています! 最後に、今回の作品を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

2023年最初の観劇になる方もいらっしゃると思います。メインビジュアルなどをご覧になると、硬い作品なのかな?と思われるかもしれないですが、蓋を開けてみるとどんな方でも楽しんでいただけるような、入りやすい作品になっていると思います。人生の選択など、時代が違えど通じる部分があると思いますし、僕らもそれをどうにか反映させてやろうとしています。いい演劇初めになるよう、いいスタートを切れるような作品にしていきますので、ぜひお越しいただければと思います!

 

取材・文/宮崎新之