荒木宏文インタビュー 舞台『モノノ怪~化猫~』 薬売り役は「“謎が多い”がキーワードに」

©舞台「モノノ怪」製作委員会

2007年にテレビシリーズとして放送され、そのスタイリッシュなキャラクターデザインと、和紙のテクスチャーなどCG処理を組み合わせて、今までにない斬新な映像を生み出し、話題となったアニメ『モノノ怪』。放映15周年を記念し、新たなプロジェクトが始動した。その一環として、『怪~ayakashi~』シリーズの1エピソードとして放送された「化猫」の舞台化が決定。舞台『モノノ怪~化猫~』として、2023年2月3日(金)から、飛行船シアターで上演される。主人公の薬売りを演じるのは荒木宏文。アニメシリーズの中でも人気の高い薬売りをどう演じるのか、荒木に話を聞いた。


――今回の企画を聞き、そして、薬売りとして出演が決まって、どんなお気持ちですか?

アニメ『モノノ怪』は個人的に好きなアニメでしたので、その世界を舞台化できるということにすごくワクワクしました。アニメの色彩感覚がすごく好きなんです。和のテイストが漂う世界観だからか、くすみが強く、淡い柔らかい色合いが特徴だと思うので、その色味は舞台化しても大切にしたいと個人的には思っています。今回、参加できることはすごく楽しみです。


――アニメでは、色彩感覚に注目されていらっしゃったんですね。

アニメは好きなので色々な作品を観ますが、「好きなアニメは?」と聞かれた時に思い浮かぶのは、そのストーリーや設定と絵が合っている作品なんです。例えば、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のような日常系の物語だったり、『ヤマノススメ』のようなアウトドア系だったりすると、リアルな景色の方が相性がいいから、CGを使ってより美しい景色を描くのが最適だと思います。ただ、この『モノノ怪』という作品は、幻想的な世界を表現することが大切な作品なのかなと思っていて、絵のタッチもイラストに近いものがある。なので、リアルさよりも、どれだけ綺麗な世界観を作り上げるかにこだわっているように感じましたし、色彩や細かい絵のタッチが武器になっているんだろうなと。そして、その世界観は、舞台というアナログ的表現と相性が良いのかなと思います。


――確かに、原作の世界観とアナログ的表現の相性の良さは分かります。

舞台などのアナログな表現は、お客さまの想像力で補正されて伝わることが多いと思います。小説もそうですが、絵がないからこそ想像を掻き立てるというような。舞台では、その世界観の中に生きている役者からの情報で、お客さまは想像してその世界観やその空間がどういうものかを知る。僕がこの『モノノ怪』の魅力として強く感じているのは色彩感覚だったので、その(色彩感覚に対しての)ヒントを与えることで、壮大な世界をお客さまに想像していただけるような表現をしなければいけないと思います。


――荒木さんが演じる薬売りについては、今現在は、どのようなキャラクターだと考えていますか?

薬を売りながら、モノノ怪を退治する、謎多き人物です。演じる上では、“含み”が必要なのかなと思います。分かりやすい答えを提示してしまうと魅力を欠いてしまうと思うので、分かりやすい表現は避けたいと考えています。ただ、もちろん、演劇では、観ている方に分かりやすく伝えることも必要となるので、そのバランスは稽古をしながら作っていけたらと思います。いずれにしろ、薬売りは“謎が多い”がキーワードになると思います。


――ビジュアル撮影では、実際に衣裳を着用されましたが、撮影はいかがでしたか?

スタッフの方々の原作愛をすごく感じました。とても細かい部分までこだわっていらして、原作を大切にしたいという思いを強く感じる撮影だったと思います。


――今作の演出は、ヨリコ ジュンさんが担当されます。

今回、初めてご一緒させていただくのですが、映像を取り入れた演出に長けた方だと感じますので、この『モノノ怪』という作品にすごく合っているのではないかと思っています。この作品は、空間で見せなくてはいけない部分も多い作品だと思います。アナログ的表現で削っていくことで『モノノ怪』の魅力をより引き出せると思いますが、削りすぎて演劇に寄せすぎると、それはまた原作の良さを薄めてしまう。削りすぎないためには空間演出が重要だと思います。そういう意味でも、ヨリコさんと『モノノ怪』はすごく相性が良いのではないかと、とても楽しみです。


――本作は、いわゆる2.5次元と呼ばれる作品ですが、2.5次元作品と一口で言っても、リアルな作風の作品もありますし、今作のような美しい世界観の中で現実離れしたキャラクターが登場する作品もあります。演じる上では、作品のテイストによってキャラクターへの寄せ方や役作りは変わってくるものですか?

作品によってというよりは、演出家によって変わってくるものだと思います。僕たち役者は、あくまでプレイヤーでしかないんですよね。一つの作品を作るときの舵取りは演出家が担うものだと僕は思っているので、役者として目指すところは演出家が目指すものだと考えています。なので、その演出家が決めた方向性によって、僕たち役者のアプローチも変わっていく。もちろんそれは、稽古や演出家さんとのやりとりの中で作っていくものだと思いますが。今、こうしてお話していますが、この作品についても僕の願望でしかないし、僕の想像でしかないので、ヨリコさんが想像する世界とはまた違うものかもしれません。これからの稽古の中で、お互いにどういう世界を想像しているのかをすり合わせて、深めていく作業を行っていくので、実際に出来上がったら(ここで話したものと)違うものになっているかもしれません(笑)。


――では、今、この作品に対して期待していることは?

まずは、様々なエピソードがある中で「化猫」を取り上げるということに期待があります。「化猫」は、『怪~ayakashi~』としてアニメが放送された際に、すごく人気が高かったエピソードです。『モノノ怪』というアニメシリーズを放送するきっかけにもなったというくらい注目されたエピソードなので、それを舞台化するということはすごく楽しみですし、同時にプレッシャーも感じています。それだけ期待されている作品だと思うので、期待を超えられるものを作らなければいけないと思います。2.5次元作品は、皆さんの期待を超えられるものを作らない限り、上演する意味はないと思っているので、その意味を持つためにも(期待は)絶対に超えなければいけないですし、そのハードルが高いということはそれだけやりがいもあります。今回は特に、15周年という記念すべき時に舞台化するので、期待を裏切らないためにも、精一杯演じさせていただきます。原作ファンの方にも喜んでいただけるような舞台になればと思っています。


――ところで、年の瀬も迫ってきましたが、荒木さんにとって2022年はどんな1年でしたか?

めまぐるしい変化があった年でした。自分が意図していないところでも大きな変化がたくさんあって、そこに振り回される1年だったなと思います。その中で感じたのは、僕たちは、演劇に癒しを求めている方や演劇でしか癒しを得られない方たちに向けて、癒しの時間を提供しなければいけないということでした。変化の大きな世の中だから、視野を広げ過ぎてそれを見失ってしまいがちですが、僕たちはブレずにそれをやっていかなければいけないと、改めて感じました。2021年から(ミュージカル『刀剣乱舞』にっかり青江 単騎出陣で)全47都道府県を回る旅を始めましたが、1年目と2年目では目的も変わっていましたし、エンタメの形も変わっていったことを感じました。そうしたこともあり、改めて僕たちは“帰る場所”でいなくてはいけないということを考えさせられたので、その信念を持って臨めたと思います。


――2023年は、どんな1年にしたいですか?

来年は、きっと今年と全く違う年になると思います。予言者みたいな話ですが(笑)。時代が変わるので、僕たちがやるべきことがまた変わるんじゃないかなと予想しています。なので、今年やったことは何も参考にならない(笑)。むしろ、2022年に溜まった皆さんのフラストレーションがどう爆発するかによって、僕たちの生き方も変わってくると思います。エンタメは結局、娯楽でしかないと思うので、皆さんが気晴らししたいとか、気持ちを切り替えて頑張るための力が欲しいと思って得ようとするものだと僕は思います。なので、時代に合わせて作っていくことが必要で、それがやる意味にも繋がっていく。そういう意味で、2023年にはこれまでとまた違った取り組み方や違った景色があるのではないかなと思っています。


――時代が変わるっていうのは、例えばコロナの状況だったり、社会的な状況ということですか?

そうです。それに、流行も関係していると思います。例えば、YouTubeでも時代の流れがあって、10分くらいの動画が人気な時期もあれば、1時間くらいの見応えのある動画が人気の時もある。今は、YouTubeショートができて、ショートサイズのものが好まれるようになっている。そうやって変わっていくように、時代の流れに合わせて変わっていかなければいけないんです。人間の持つ集中力の限界と言われているのは90分。それならば、黒澤明監督がこだわられていたように90分に収める作品を作った方が楽しめるのかもしれないとか。そうやって、時代とともにエンタメも形が変わっていくものだと思うので、2023年も変化し続けると思うのですが、どう変わるのでしょうか(笑)。僕たちがその変化を作るわけではないので、流れに従うしかないわけですが、そこに柔軟に対応できるよう、役者としてのスキルや引き出しを準備しておく必要があると感じています。

 

取材・文/嶋田真己