「いま観てほしい6団体です」(今村)│『15 Minutes Made in本多劇場』成井豊×今村圭佑 インタビュー【後編】

Mrs.fictions presents『15 Minutes Made  in本多劇場』が2月22日(水)に東京・本多劇場にて開幕する。

『15 Minutes Made(フィフティーン・ミニッツ・メイド)』とは、Mrs.fictionsが2007年の旗揚げ当初から継続的に開催しているオムニバスイベント。Mrs.fictionsを含む6つの団体がそれぞれ15分ずつの短編作品を一挙に上演することで、多様な舞台表現をより身近に、手軽に楽しんでもらいたいというコンセプトの元、これまで延べ17回開催されている。

およそ5年半ぶりの開催となる今回参加するのは、演劇集団キャラメルボックス、ブリーズアーツ、オイスターズ、ロロ、ZURULABO、Mrs.fictions。

Mrs.fictionsの今村圭佑と、前回に続いての参加となる演劇集団キャラメルボックスの成井豊に行った、【前編(イベントについて)】、【後編(今作について)】に渡るインタビューをお届けする。今回はその【後編】。

⇒【前編】はコチラ

今回の参加団体は?

――今回の出演団体についてうかがいきたいのですが、その前に毎回どんなことを考えて出演団体を決められているのかを教えてください

今村 「まずは“僕たちがいま観ていただきたい団体”というところと、その中で、縦の“年代の幅”、横の“作風の幅”は意識しています。そこで“なるべく遠いところ”というようなバランスが取れるといいなと思っています。でも今回に関しては、演劇集団キャラメルボックスさんがスタンダードといいますか、お芝居を好きな人で知らない人はいないという意味でど真ん中にいてくださるので、バランスがとりやすかったです」

――では早速、どんな団体が参加するのか紹介していただければと思います

今村 「まずは演劇集団キャラメルボックス(以下、キャラメルボックス)さんですね。僕、成井さんにお聞きしたかったことがあるのですが、キャラメルボックスさんって実はテンポが速くないですか?コミュニケーションがちゃんと成立しているから観る側からするとそこまで印象的な部分なのかわからないですけど、実際、めちゃくちゃテンポ速いですよね?」

成井 「速いですね」

今村 「あれは意識されていることなのですか?」

成井 「僕の性格がせっかちだということもあると思うのですが、芝居を観はじめた頃に観た、高校2年の頃(1978年)のつかこうへいさんの『熱海殺人事件』と、大学1年の頃(1980年)の夢の遊眠社(主宰・野田秀樹)『二万七千光年の旅』が、速かったんですね。それから芝居は『速さこそ』と思っています。だけどエンタメのお芝居って基本的に日常よりも速いと思いますよ。三谷幸喜さんの作品も、テレビドラマだと速くないけれども、舞台だと速いじゃないですか」

今村 「でも、脚本の力はもちろん、物語としての笑ったり泣けたりというのを取りこぼさずあの速度という演出がすごいし、役者さんも鍛えられていないとできないし、全部が高いレベルにある!という尊敬があって。それで今回もキャラメルボックスさんにお声がけさせていただきました」

――ブリーズアーツは、声優/アーティストの緒方恵美さんが設立した声優事務所の名前ですよね。緒方さんは『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ役や『幽☆遊☆白書』の蔵馬役などをやられています

今村 「そうです。緒方さんをはじめ事務所の選抜メンバーの皆さんにご出演いただきます。朗読劇で、脚本はキャラメルボックスの真柴あずきさんの書き下ろしです。朗読劇ってお芝居を観るのともまた違う感覚がありますよね。音だけで物語が届くと、目の前の光景が頭の中で広がっていくような感覚が合って。それって他にはない体験だなと思っています。特に声優さんは声の情報量がすごく多いですからものすごく面白い。ブリーズアーツさんの朗読劇をこのラインナップのひとつとして観ていただけることがすごく楽しみです」

成井 「緒方さんは、うちの真柴と坂口理恵と3人でARMsというチームを作って朗読劇を上演しているんですよ。それを私も何本も観ていて、おもしろかったんですよね。確かに声優さんの朗読劇だから、主たる武器は声なんだけど、朗読劇をビジュアルのエンタメとして捉えても十分におもしろいと思います。例えば声優さんがバラエティ番組に出演されて、神谷明さんがいきなりケンシロウ(『北斗の拳』の主人公。アニメで神谷が声を担当した)の声をやるとおもしろいじゃないですか。見た目と声にギャップがあったりして。緒方さんは変幻自在だから、見た目は変わらないのにマイクの前に立つと変身して、観ていておもしろいんですよね。すごく楽しみです」

――オイスターズは、東京では初めて観る方も多いのではないでしょうか?

今村 「オイスターズさんは愛知県を中心に活躍していて、『過剰なまでに会話劇』というものをテーマにされています。とっても笑えるのですが状況はかなり不条理だったりする、そういったお芝居をずっとつくられていて、様々な賞を受賞されています。愛知で開催されている『劇王』(日本劇作家協会東海支部と愛知・長久手市が主催する短編戯曲のコンペティション)で優勝もされている、短編にも強い団体です」 

成井 「私は日本演出者協会の理事なんですけど、オイスターズの(脚本・演出家である)平塚直隆さんが全国のいろんな場所でしょっちゅうワークショップをなさっていて、売れっ子ですよね。だから、どんなお芝居をつくるのかすごく気になっていました。でも愛知にはなかなか観にいけないし、よく呼んでくれたなと思います」

――ロロは『15 Minutes Made』には2009年、2011年に参加していますね

今村 「ロロさんはほぼ旗揚げと同時に『15 Minutes Made』にご参加いただいたという経緯があって、それ以来の長い付き合いです。いまや人気団体になっていて、高校生に捧げるお芝居をつくっていたり、ボーイ・ミーツ・ガールの恋愛ものをよくやっていらっしゃるんですけど、その表現の仕方がファンタジックだったり、大仕掛けがあったりしてとても好きな団体で。久しぶりにロロさんに出ていただきたいと思ってお声がけしました。今回はコメディテイストになりそうです」

成井 「ロロは一度観ているし、『いつ高』シリーズ(ロロが2015年より定期的に上演してきたシリーズ)も読んでいて、すごくセンスがいいですから。期待しています」

――ZURULABOは2019年にスタートしたばかりの小野寺ずるさんユニットですね

今村 「小野寺ずるさんは役者としての経歴もある方ですが、最近は『SPA!』で漫画を描かれていたり、活動の幅を広げています。ZURULABOは2019年につくられてまだあまり公演をやっていないので、まだご覧になった方も多くないのではないかとお声がけました。つくる作品は綺麗で色気がありますし、ところどころ笑えるところもあって、すごくおもしろいですよ。今回はスタッフワークも含めて絵的にもとても拘っていただいています。そして僕らMrs.fictionsで全6団体です。15分の短編は一番つくってきていると思うので、がんばります」

キャラメルボックスとMrs.fictionsの作品は?

――今回、キャラメルボックスとMrs.fictionsがそれぞれ上演する作品についてうかがいたいのですが、キャラメルボックスは成井さんの書き下ろしで、芥川龍之介の短編小説『魔術』を原作にした三人芝居だそうですね

成井 「私は『魔術』という作品が大好きなんです。全国の高校や大学のワークショップでは、20年以上前からこの作品を取り上げてきました。厳密に言うと他にも何作か取り上げる作品はあるのですが、その中でも『魔術』をやった回数は最も多いと思います。キャラメルボックスが毎年やっている新人練習でも、10年以上前から『魔術』をやっています。なので、うちは役者がいま37人いますが半分くらいは経験していると思いますね。だからとても思い入れがある作品で。いつかこの作品を芝居にしたいと思っていたので、やっと日の目を見ます」

――今作には成井さんのアレンジも加わっていますね

成井 「以前から、芝居にするんだったらぜひ恋愛要素を入れようと考えていました。だから、あの台本は5時間くらいで書いたんですよ」

――ええ?すごいスピードです。15分で収めるところに向かって書かれたのですか?

成井 「いえ、このくらいで15分かなという感覚で書いたので、やってみて長ければ、役者と相談して削っていくかもしれません。まず読み合わせをしてもらって、時間を計って、それ次第ですね」

――一度『15 Minutes Made』を経験していることは、今回どのように作用していますか?

成井 「前回、梅棒もだけど、柿喰う客の『フランダースの負け犬』もおもしろかったんです。あれこそまさに“物語る演劇”といいますか、中屋敷さん(中屋敷法仁/「柿喰う客」代表。脚本・演出を手がける)はあの、小説形式で書かれた台本の芝居というものをずっとやられていますよね。自分も以前、『賢治島探検記』という作品で宮沢賢治の短編5本を童話のままやるというのをやっているんだけど、だけど『フランダースの負け犬』を観て、ああ~やっぱこれおもしろいっ!物語る演劇っておもしろい!と思いました。そしたら今回はどうやら柿喰う客は出ないらしい、と。じゃあやっちゃえ!というわけですね(笑)。柿喰う客が出ていたらやらなかった作品です」

――演出については既になにか考えていらっしゃいますか?

成井 「演出はまだ考えていないんです。特にクライマックスの、トランプのキングが笑ってそこからミスラくんが抜け出てくるシーンなんて、どうやるんだ!?と思っています(笑)。私は基本的に劇作家なので、『こういう演出をする』という計画に基づいて脚本を書いているわけじゃないんです。ほとんどのお芝居が、稽古場で役者たちと話し合ってつくりますから、役者たちが出してくれるたくさんのアイデアをまとめる感じです。自分もアイデアを出しますが、やっぱり劇作家なんだなと自分では思います」

――Mrs.fictionsが上演する『上手(かみて)も下手(しもて)もないけれど』は、2016年のvol.14で上演されたものを、オリジナルキャストで再演されるそうですね。脚本・演出は中嶋康太さん、原案は岡野康弘さん、出演は岡野康弘さん、豊田可奈子さんの二人芝居です

今村 「はい。今回の出演団体で再演は僕らだけです。二人芝居で、どこかの国のどこかの劇場の楽屋が舞台。若い男女二人が(お芝居のための)メイクをしている場面からはじまる物語です。僕はこの作品が、Mrs.fictionsのつくってきた短編の中で一番好きで、一番普遍性があると思っていて、いつか大きい劇場でこの作品をやりたいと常に思っていました。だから遂にその機会が訪れ、満を持しての上演です」

――大きい劇場がよかったのなぜですか?

今村 「それこそ、どこでもできる作品ではあるんです。長机がひとつあればできるようなお芝居ですから。でも、本多劇場の広さの中にあの二人がいたら、きっと素敵に見えるだろうな、バッチリハマるだろうなって思っています。この作品を成井さんに観ていただけるのも楽しみです」

――今村さんはどんなことを楽しみにされていますか?

今村 「なんだろう。この六団体で一緒に本多劇場に小屋入りできること、この六団体の作品を一挙に観て頂けることがとても楽しみです。すごい普通ですね(笑)。全体でひとつの公演として、いいものにできればと思っています」

インタビュー・文/中川實穗