☆上演中☆OFFICE SHIKA PRODUCE「ダリとガラ」ゲネプロレポート

2023.03.07

20世紀を代表する画家サルバドール・ダリとその妻ガラの生涯を描いたOFFICE SHIKA PRODUCE「ダリとガラ」が3月2日(木)に東京の座・高円寺にて開幕した。劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が脚本と演出を手掛け、前時代の常識を破壊するような斬新なアートを体現し続けたダリの衝動と、生涯を通して彼のミューズであったガラの生き様を多彩なキャストで描いていく。開幕を前に、メディア向けに公開されたゲネプロの様子をお届けする。

ステージの上には、白いバスタブと脚立。そして中央にはドライフラワーなどがあしらわれた籠のようなものが象徴的に吊るされていた。本作では、ダリの生誕から命を終えるまでのすべてが描かれるが、ダリを演じるのは1人ではない。彼の多面的で非凡な感性を、8人の男性キャストで演じていく。

8人のダリの中で、主軸となる“サルバドール・ダリ”を演じるのは、ミュージカル『刀剣乱舞』などで活躍している雷太だ。スラリとした長身に鮮やかなパープルのスーツ、そして特徴的な細いヒゲといったビジュアルは、まさにダリ。彼の非凡さを強調するような、長い手足を大きくくねらせて語る立ち姿には見入ってしまった。


サルバドール・ダリは、スペインの裕福な夫婦のもとに生まれた。サルバドールには天才と呼ばれた兄がいたが、その兄は7歳で早世。その兄の名も“サルバドール”だった。つまり、サルバドール・ダリは、“兄の代わりとして”生きることを望まれて生まれた子だった。そのことは、彼の人格形成に大きな影響を及ぼす。

「天才を演じよ。されば天才になれる」

兄の亡霊のダリ(三浦海里)にそう唆され、サルバドールは幼少のころから天才でなければならないという強迫観念の中で、理屈や倫理のボーダーを超えた狂気の天才として振る舞い続ける――。

その狂気の中で、偏執狂のダリ(島田惇平)、夢想家のダリ(久保田武人)、ナルシストのダリ(小早川俊輔)、神の子のダリ(前川ゆう)、王様のダリ(山形匠)、天才のダリ(田邉成虎)と、彼の置かれた状況や時代の流れの中で、たくさんのダリが生まれていく。場面によりくるくるとダリが入れ替わる様子は、一筋縄では理解できないダリの内面を視覚的にも変えることで分かりやすく感じられた。

ダリの妻・ガラは、もともとは友人の妻だった。シュルレアリズムに自らのアートの道を見出したダリは、シュルレアリスト・グループに参加。そのグループに在籍している男の妻が、ガラ(北野日奈子)だった。2人はたちまちに惹かれ合い、やがて夫婦として、そしてアートを制作するうえでのパートナーとして生涯をともにすることになる。

ガラはダリにとって、何物にも代えがたいミューズだった。だが、彼の人生に影響を与えた女性はガラだけではない。母(鷲沼恵美子)や妹のマリア(須藤茉麻)をはじめ、思春期の頃のミューズであったガルーチカ(飛香まい)やデュリータ(佐々木ありさ)、大学生の頃の名もなき恋人(若月海里)もまた、その時々で彼の女性観やエロティシズムを刺激し、後半には彼女らもガラとして現れる。ガラに母性を感じたときには母親の姿で、無垢な衝動にはガルーチカの姿で、劣情を吐き出す時には名もなき恋人の姿で…と、ダリがガラに求めていることにより、その姿が変わっているように思えた。

ダリは前例なき芸術を次々と発表していき、彼の知名度はどんどん広まっていく。だが、戦争が勃発したことで、芸術が犠牲となってしまうことへのフラストレーションが、彼の芸術に新たな火をつける。そして、遠い島国に落とされた新型爆弾の悲報も、彼の死生観を揺るがせた。祖国も戦火の中に陥り、友人を心配し、絶縁した父に会いに行くダリの姿は、一瞬だけ垣間見せた彼のごく普通の姿だったかもしれない。

振付は大河ドラマ『青天を衝け』のオープニングダンスやCMなどの振付などで活躍する辻本知彦が務めているが、衝動的でありながらも粗野にはならず、美しさやアート性を感じられる動きに思えた。特に冒頭の群舞は、作品世界に没入させるのには最適解というべき魅力を放っていた。

稀代の芸術家・ダリの生涯を描くにあたり、彼の持つ圧倒的なパワーをいかに表現するのかは、大きな課題だったはずだ。そこを、複数のキャストがダリを演じることで総力を上げ、豪快に編み上げていくような凄味を感じられた。

さまざまなアートの常識を壊し、ドルの亡者と罵られても筆を折らず、ガラとともに想像と創造をやめなかったサルバドール・ダリ。彼はまさしく、天才であった。彼自身も自らを天才だと信じただろう。サルバドール・ダリは天才でなければならない。“サルバドール・ダリ”であり続けようとした彼の生涯は、あなたの目にはどのように映るだろうか。

OFFICE SHIKA PRODUCE「ダリとガラ」は、3月12日(日)まで東京 座・高円寺にて上演後、3月24日(金)~3月26日(日)は大阪ABCホールにて上演される。

取材・文/宮崎新之
写真 / 和田咲子

※「辻」のシンニョウは点1つが正式表記です。