目の前で繰り広げられる本格演技の時代劇と華やかな舞踊でいま注目を集める大衆演劇。臨場感あふれる大衆演劇の魅力を存分にお伝えするため、ローチケ演劇部では「ローチケ大衆演劇宣言!」と銘打ってインタビューや初心者向けガイドをお送りしていきます!
エンタメ好きの間で最近注目度を高めている大衆演劇。その中でも若さとパワーで大人気の劇団暁の若座長・三咲暁人が、25歳の春、ついに座長に昇進する。役者にとって一世一代の大イベントとなる座長昇進公演を華やかに盛り立てるのは『ライジング・サン』(作:坪田塁)と『紅天翔』(脚本:渡辺和徳)。この二本の芝居を中心に、座長昇進への意気込み、大衆演劇新世代を代表する表現者としての熱い想いを語ってもらった。
――まずは座長昇進おめでとうございます!
ありがとうございます!座長昇進も嬉しいんですが、浅草木馬館の5月公演を関東の劇団が任されるのは20数年ぶりなんだそうです。ぶっちゃけ(書き入れ時の)1月と5月は人気劇団しか乗れないので。責任重大ですし、由緒ある木馬館で座長になれることはものすごく光栄でありがたいです。
――18歳で若座長になって8年目。満を持して座長にというお気持ちですか?
正直、自分ではまだ早いと思っています。ただ、座長は自分からなる!と言うものではなく、周りの関係者の方々のお声をいただいて初めてなれるものなので。話が出たのは去年の後半くらい。夏樹座長にいきなり「お前座長な」と言われて「あ?え?座長ですか?」みたいな感じでした(笑)。うちはまだ父親の夏樹座長も叔父の春樹座長も現役ばりばりなので、まずは3人座長体制でやっていきます。
――毎日の公演の演出、構成は以前から任されていましたよね
それは花形時代、なんなら中学生の頃からやらせてもらってましたね。舞踊ショーの構成に僕なりの理想があって、ある日勝手に変えてこっぴどく叱られて、それでも懲りずに3,4か月続けていたら最後に「そんなにやりたいんならやれ!」と言われて、そのうちに芝居決めも任せてもらえるようになりました(笑)。僕が40,50歳になったとき子どもが役者だったら僕もそうします。若い世代が構成を考えた方が時代に合ったものができるのは確かなので。全部新しくすればいいのではなく、古典的な部分も守らないといけないので、そのへんが難しいんですけど。
――では座長になってもやること自体はそんなに変わらない?
ですね(笑)。ただこれまでは自分が考えた芝居でも両座長を立てて、僕は老け役、敵役、三枚目に回ることが多かった。これからは脇を若手に任せて主役に挑戦できると思うとワクワクします。
――今回は座長昇進にあたって2種類の公演を3日にわたって上演されるとか?
はい。まず、5月13日(土)が劇団暁のメンバーだけでやる『三咲暁人座長昇進特別公演 ライジング・サン』です。若座長襲名のときのお芝居が『決闘!高田の馬場』だったので、その後日談をやったら面白いんじゃないかと思い、脚本家の坪田塁先生にお願いしました。赤穂浪士でおなじみの中山安兵衛のその後を、若座長から座長になる三咲暁人の実人生と重ね合わせて描きます。
――アイデアがいいですね!
普通の座長襲名公演、昇進公演というと、口上、芝居、舞踊ショーがあって、ゲストさん呼んで、着物やご祝儀をいただいて…というイメージなんですが、僕はそれを絶対に変えたかった!口上はやりません。やらない理由は芝居を見ればわかります。僕は表現者なので、感謝を含むすべての想いを舞台の上で表わしたい。今回のラストショーは『婆娑羅(バサラ)』と名付けました。いろんな壁をすべて壊して振り切って踊る50分間。今の劇団暁でないと絶対できないショーです。どこまでできるのか自分自身を試しつつ、これから僕がやりたいことはこれだ!という意思表示もして、すべての意味を込めてやるので歴史に残る公演になると思います。
――楽しみです!次は5月17日(水)、18日(木)に上演される『三咲暁人座長昇進公演 紅天翔』についてお願いします
大衆演劇でおなじみの人物のひとりに弁天小僧菊之助がいます。うちの劇団でも4つ弁天小僧が主役の芝居がありますが、勧善懲悪の単純な物語。そんな弁天小僧のキャラクターを今までにない角度から描いてみたくて、脚本家の渡辺和徳先生にお願いしました。大衆演劇は女形が売り物なので、役者が女形をするのと弁天が男だけど女に化けるという側面もリンクさせてもらいました。
――渡辺和徳さんはつかこうへい劇団のご出身ですよね?
はい。今年の1月にコラボさせていただいた『遠州傾キモノ 森の石松閻魔堂奇譚』がめちゃめちゃよかったんです。あれも石松というキャラクターを斜めからとらえた芝居でした。出来上がりはとてもいいです。僕がやりたかった弁天になっています!僕は堅苦しいのがあまり好きじゃないので、笑いあり涙あり立ち回りあり、いろんな要素を詰めてわかりやすくまとめてくださった。いい舞台になると確信しています。
――座長になるときの題材は弁天小僧と決めていたんですか?
決めていました。僕は初舞台が2、3歳の頃で弁天小僧だったんです。刀を持って自分の影を叩き続けるという謎の舞踊(笑)。小学校に上がる前、初めて劇団の中だけで若手会をやったときの初主役も弁天小僧でした。また、少し前に女優祭りのラストショーで5人弁天をやったんですが、5人目の弁天は僕の2歳の娘、音色(おと)が務めました(笑)。弁天小僧には何かと縁があるようです。
――共演者が 17日(水)、18日(木) でがらりと変わるとか?
最近、大衆演劇とのコラボにも積極的な9PROJECTの高野愛さん、俳優の友部康志さんは固定で、ほかのキャストは大衆演劇から、 17日(水) は7名、18日(木)は6名、日替わりで出演していただきます。相手役が変われば僕の芝居も感情もすべて変ってくるので、ぜひ両方見て欲しいです。
――ずばり『紅天翔』の見どころは?
弁天小僧の魅力って、男が女に化けているときの可愛らしさと、正体がばれてからの切り替えのかっこよさ。この2点に尽きると思うんです。でもこの芝居を見たあとではイメージが変わるはず。なぜ女に化けないといけなくなったのか?なぜ人から物を盗むのか?それは、そうしないと生きていけない理由があったから。そういう深いところをぜひ見てほしいです。
――大衆演劇界では昨年から始まった新風プロジェクトが話題を呼んでいますが、今回の『紅天翔』はその第14弾でもあるんですよね?
はい、僕は企画の第1弾から関わっているので最近は『新風の顔』とか『新風役者』とか呼ばれています(笑)。僕は新風は頭の体操だと思ってるんですよ。大衆演劇は自分たちで台本を書いて構成、演出、音楽、照明、配役などを全部考えるので、台本を書き終わった時点ですでになんとなく出来上がっている。でも、新風は台本をもらったときは真っ白。最初の頃は今と違って脚本家さんとの繋がりもなかったので本当に大変でした。一番きつかったのは池袋の劇場で上演した新風プロジェクト革新#0の『円環か螺旋か』で、3回ほどマジ泣きしました(笑)。
――通常公演をしながら特別な公演もやるのは大変ですね
大変ですが、新風は僕らが所属している日本文化大衆演劇協会の代表が毎回外のジャンルからいろんな方を招くので、大衆演劇の幅が確実に広がる。回を重ねるたびに個人も劇団も大衆演劇全体も底上げされて、いいことしかない。これからはどんどん新しいことにチャレンジしていかないといけない時代です。そういう意味では大衆演劇にローソンチケットさんが参入されたことも僕は画期的だと思っています。
――大衆演劇は今まさに改革のときですね
それは僕自身にも言えることかもしれません。僕には桐龍座恋川劇団の二代目恋川純座長という素晴らしい師匠がいます。純座長に出会って役者人生が変わったし、いろんなことを学びました。最近になって『守破離』という言葉を噛みしめています。5月が終わると6月には純座長のお兄さんの恋川純弥さんが座長となるTeam Junyaの篠原演芸場での1か月公演に参加します。またとんでもなく大変なことになると思いますが(笑)、吸収できることはすべて教えていただく覚悟でいどみます!
――そんな暁人さんが牽引する劇団暁の魅力とは?
夏樹座長と春樹座長という兄弟座長の下に僕を頭に計8人の子どもがいて、人数に恵まれていて僕らだけが持つ団結力がある。群舞を誉められると特に嬉しいですね。若手がみんな個性豊かで、隼人は肉体、スピード、パワーでは誰にも負けない。龍人は三枚目。憧は古典。鷹人は発想力が武器です。末っ子は不利な立場なのに、僕たちが考えもしなかった新しいことを見つけて広げていく16歳の鷹人を僕は本当に尊敬しています。
――最近は従妹で女優の愛羅さんが花形に昇進しましたね
愛羅は芝居も舞踊も本当に勉強熱心。座長の息子に生れてレールに乗ってきた僕と違って愛羅は周囲に認められて花形になった努力家なんです。あと、副座長の三咲大樹も大事な存在です。家族でまとまっている中にひとりだけそうでない人がいるってことは、劇団にとってすごく大切なことなんですよ。引いたところから全体を見て、必要なときには叱ってもくれる。大樹兄ちゃんは劇団暁のまとめ役です。
――今の大衆演劇界でこれほど勢いがあり、若手の層が厚く、メンバーが切磋琢磨している劇団は貴重です
メンバー全員が舞台が大好きなのは本当に嬉しいですね。みんなが座長っていうのが僕の夢なんです。全員が座長になれるくらいの器は兼ね備えていると思っています。ちなみに劇団暁の魅力が最大限に出せるのは通常公演。昇進公演とかはあくまでも特別イベントなので、普段の公演をぜひ見に来てやってください(笑)。
――大衆演劇は大衆という言葉がついているのに逆に敷居が高く、初心者にはとっつきにくい演劇ジャンルと言われてきましたが
昔のイメージが強く偏見を持たれることも多いですが、最近は少しずつ変わってきましたね。低価格で気軽に見ていただける、でも内容が薄いわけではない。今は技術も進化して照明、音響、衣装も素晴らしいです。毎日演目が違うのも最大の武器だと思っています。これまでご縁がなかった方も、これを機会に老若男女みんなで楽しめて通って応援できる大衆演劇をぜひ見にいらしてください。
――最後にファンにメッセージをお願いします!
今回、5月に浅草木馬館で座長に昇進させてもらうことになりました。やることは変わりませんが肩書とはすごく大きなもので、一座の長になるわけですから責任も増します。これからの大衆演劇の要となる存在になれるよう頑張ります。まずは趣向の違う3回の公演に来ていただいて、三咲暁人がどういう役者かを見てほしい。僕も今まで培ってきたものをすべて出しきって、これからどうありたいか、なにをやっていくかを伝えられる舞台を作りあげます!
このインタビューが終わった数日後、9PROJECT主宰の『つか版忠臣蔵』(11月上演)への客演が発表された三咲暁人。大衆演劇の役者が他の演劇ジャンルに招かれ、主役を務める機会はめったにない。『紅天翔』の舞台には、現在の日本民俗音楽界を牽引する新感覚邦楽エンターテインメント集団『あべや』も参加。芝居のためのオリジナル曲を提供し、ステージで生パフォーマンスも披露されるという。若く才能あふれる座長の誕生が大衆演劇界全体を盛り上げ、ワクワクするようなコラボレーションを次々と実現させていく。そんな未来に立ち会える幸せがぎゅっと詰まった5月の激熱浅草木馬館。これまで大衆演劇に縁のなかった演劇ファンも、この機会に足を踏み入れてみることをおすすめする!
インタビュー・文/望月美寿