分からないことを真剣に考える。人生に思いを馳せるような演劇
昨年、「オーレリアンの兄妹」で第66回岸田國士戯曲賞の最終候補作にもノミネートされた小沢道成が作・演出・美術・出演を務めるEPOCH MAN「我ら宇宙の塵」が新宿シアタートップスにて上演される。1体のパペットを中心に、奇妙な縁で結ばれる人々を描いていく物語だ。
小沢 人は死んだらどこに行くのか、ということは描いてみたいテーマのひとつでした。そして、宇宙への興味も以前からあったんです。この2つの共通点は、分からないことが多すぎること。それを真剣に考えてみたら、遺された生きている人たちや地球で暮らしている人たちの話になりました。
壮大なテーマの物語に臨むキャストの1人となったのは、池谷のぶえ。この物語は、きっと小沢自身なのではな
いかと話す。
池谷 台本を読んだときに、1人1人のキャラクターがとてもキュートで愛おしくて。物語は普遍的でもあるし、すぐ自分のそばにある物語のように感じました。でも、読み込むうちにだんだんと難しいところも見えてきて。きっとこの台本は小沢さんご自身。だから、今はもっと小沢さんのことを知らなければ、と思っています。
90年代から舞台女優として幅広く活躍し続けている池谷と、同じ板の上に立つことになった小沢。そこには、並々ならぬ想いがあった。
小沢 僕がのぶえさんを初めて舞台で観たのは『走れメルス』で、10代後半の頃に当時住んでいた京都から東京まで観劇に行きました。のぶえさんのあの声、キュートな動き…今でもはっきり思い出せます。僕が尊敬する時代の演劇を知っている方とご一緒できるのは、すごく光栄です。そして、あの頃の情熱をもう一度リバイバルさせるよう
に表現できたらと思っています。
池谷 覚えてくださっていたのはとても嬉しいんですけど、当時の私は余裕がなくて。ちょうど小劇場から少し大きな劇場にも出始めた頃で、今まで通用していたことも通用しなくなって…いろいろと試していました。とにかく無我夢中でしたね。今回のように全員が初めての方とお芝居するなんて、本当に何十年かぶり。学校の演劇部のときのような、新鮮な喜びを久々に感じています。
演出面では、アナログなパペット人形を用いながらもLEDディスプレイといった最新の映像テクノロジーを掛け合わせ、実験的な演劇に挑戦していく。
小沢 新しい技術も、ただカッコいいだけでなく物語の延長線上での意味がちゃんとある仕組みのひとつとして使っています。感情が動いたときに何かが動き出すような、そういう演劇が僕は好きなので、あくまでもそこは大切にしています。やっぱり必然性がないと人は飽きてしまうんですよ。人物の感情と繋がっていれば、物語もより深くなるはず。
演劇を愛する小沢が、演劇を愛する者たちと作りあげる極上の演劇体験。それは、何にも代えがたい時間となるはずだ。
池谷 お芝居ってその時間だけ違うところにトリップできるし、そこで貰った栄養でしばらくはワクワクできる。それが1番の演劇の魅力だと思います。楽しい芝居になると思うので、ぜひお越しください。
小沢 僕は、お芝居を観ながらも自分の人生に想いを馳せてしまうような演劇がすごく好きなんです。そうなりうる可能性を秘めたお芝居だと思っています。感想も励みになりますので、お言葉を聞かせてください!
インタビュー&文/宮崎新之
Photo/篠塚ようこ
※構成/月刊ローチケ編集部 7月15日号より転載
※写真は誌面と異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
池谷のぶえ
■イケタニ ノブエ
舞台のみならず映像作品にも数多く出演。2020年に上演されたねずみの三銃士「獣道一直線!!!」にて、第28回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。
小沢道成
■オザワ ミチナリ
自身が立ち上げた「EPOCH MAN」では作・演出・美術・企画制作も手がける。2021年上演「オーレリアンの兄妹」が第66回 岸田國士戯曲賞最終候補作品に選ばれる。