新国立劇場『モグラが三千あつまって』座談会 吉田美月喜×富山えり子×小日向星一×栗原類

東京・新国立劇場で 7 月 14 日(金)から 30 日(日)まで上演される『モグラが三千あつまって』は、「こどもも大人も楽しめるシリーズ」として作品を発表してきた長塚圭史の4作目となる公演。モグラ族の作ったタロイモを盗みにくるイヌ族とネコ族、その動物たちの攻防戦が描かれる武井博・原作の児童文学を、吉田美月喜、富山えり子、小日向星一、栗原類の4人だけで音楽劇にする。平和への願いを込められたこの物語を、「未来のおとなと、かつてのこどもたち」にどう届けようとしているのか。演劇ならではの試みが重ねられている稽古の手応えや作品への思いを、4人に聞いた。

 

──稽古が始まって約1ヶ月。今、どんな手応えを感じておられますか。

吉田「当初、1シーンずつ稽古している間は、4人だけでこの舞台をどうつなげていくのかまったくわからなかったんです。一つの作品でこんなに違う役を演じる経験もなかったので、演じ分けをすることも不安でした。でも、通し稽古をして、全部ちゃんとつながって、違和感なくそれぞれの役の気持ちになれたんです。ここからどんどん詰めていって、もっと濃いものにしていけたらなと思っています。」

富山「通し稽古は今2回やっているんですけど、私も「あ、通った!」と思って(笑)。最後まで4人でいけるというのと──もちろんそれにはスタッフさんたちの力がとても大きいんですけど──、自分の体力も何とか最後まで持つということがわかって(笑)、本当に良かったという思いになっています。毎日、稽古自体が本当に楽しいです」

小日向「僕もすごく楽しいです。これまでやった作品のなかでもかなり上位に入る楽しさで。演じる役が多くて、早替えもあって、やることがたくさんあって大変なんですけど。でも、リアルにやるような作品ではないからこそできる嘘があって、その嘘を面白く演じられるのが新鮮ですごく楽しいんです」

栗原「4人でいろんな役をやるので、観ていただいたらわかるんですけど、我々、かなり体を張っています(笑)。僕もここまで複数の役をやって早替えが連続することは初めてなので正直不安はあったんですけど。でも、どうすれば負担を少なくして次の場面にいけるかというのも徐々にわかってきたので。あとはもう、僕らができることをちゃんとやって、いい作品をお届けするのみだと思っています」

 

──おっしゃったように今回は、モグラ族と、そこに攻め入るネコ族とイヌ族のいろんなキャラクターを、すべて4人だけで演じられます。その演じ分けにはどんな工夫をされているのでしょう。

富山「まず、伊藤佐智子さんが作ってくださった衣装にちょっと秘密の細工がしてあって、一つの衣装でモグラにもネコにもイヌにもなれるんです」

小日向「その細工を使って舞台上で堂々と早替えする瞬間がいくつもあって、モグラがパッとネコに変身したりするので。そういうのも演劇ならではの面白さだと思います」

栗原「あと、演出の長塚圭史さんと振付の近藤良平さんから、各動物の動きを意識するようにということは言われています。ネコだったら物音を立てないような歩き方をするとか、足の短いモグラはどう歩くのかとか。それを立体的に見せていくことも、この舞台では重要な要素だと思います」

吉田「その動き方も、近藤さんがその場でみんなと話しながら決めてくださるんですけど、なんでこんなにアイデアが出てくるんだろうと勉強になりますし。本当にその動物に見えるので、不思議なマジックを見ているみたいです。ただ、後半になると、動きがなくても感覚的にわかってくるんじゃないかなとも思うので。皆さんにも感覚的に楽しんでもらえたらと思います」

富山「この舞台は、観てくださる方の想像力で成立するところも大きいと思うんです。だから、想像しながら観るっていうことを楽しんでもらえたらいいなと思います」

 

──そういった身体表現のほかに、歌やダンスもあって、皆さん自身が楽器演奏もされるそうですね!

吉田「そうなんです。音楽の阿部海太郎さんがどんどん新しい曲を作ってきてくださって、ここはこんな音楽なんだ、素敵だなと思っていたら、そのうち楽器をやることになり、「えっ、楽器!?」となって(笑)。私はウクレレを担当するんですけど、演技に集中するには、弦を押さえる指が自然に動くようにならないといけないと思って、家でワンちゃんに聴いてもらいながら必死で練習しました(笑)」

栗原「僕が担当しているのはギタレレという楽器で、僕も弦楽器はあまり触れたことがなくて不安でしたけど、ちゃんと弾けたときは海太郎さんが「良かった」と言ってくださるので、自信にはなってきました」

富山「この間も海太郎さんが褒めてくださったんですよね。「いい! 文化祭って感じになってきた!」って複雑でしたけど(笑)、それくらい団結して音が合ってきたということだと思って。私は打楽器の経験があるのでパーカッションと木琴を担当しているんですけど、パーカッションといっても、モグラの世界に合うように、コップとかチープな音が出るもので海太郎さんがドラムセットを組んでくださっているので。楽しんでもらえるようにもっと練習したいと思います」

小日向「僕はハープで、ただ好きなときに自由に鳴らしているだけなんですけど」

吉田「でも、ほかにもいろんな楽器をやるから一番忙しいですよね」

小日向「それでも皆さんみたいに弦を押さえたりする難しいことはないし。とにかく、歌も踊りもやったことがなかった僕としては、楽しいんですけどそっちが大変で。でも、通し稽古を撮影した動画を観ると、「ちゃんと歌ってる。頑張ってるな、自分」と思ったので(笑)。お客さんにも「あいつだけできてない」と思われないように頑張ります!」

 

──実際に演じてみて改めて感じるこの作品の魅力を、ご覧になる方へのメッセージも含めて聞かせてくださ
い。

栗原「今の時代にも通ずるような、決して他人事ではない話だと思います。正直、難しい場面もあるとは思うんです。モグラ、ネコ、イヌ、それぞれの論理を持って戦っているなかで、どっちがいいとか悪いとか決められない部分がありますから。でも、たとえ難しくてわからなかったとしても、楽しい音楽や面白い振付を楽しんで、観に来て良かったと思ってもらえたらうれしいですし。稽古の終盤にたどり着いて、この舞台をやる責任の大きさを再認識しているので、嘘偽りなくちゃんと届けたいと思います」

小日向「ネコやイヌのなかにもいいヤツはいるし、モグラのなかに欠点のあるヤツもいるんですよね。だから、決めつけるのは良くないということなんだろうなと思います。そういったみんなが忘れちゃいけないこと、残していかなきゃいけないことを伝えるのが僕らの責任だな、今やる意義のある作品だなとすごく感じます。それに、いろんな役を演じ分けてジェットコースターのように進んでいくのは本当に楽しいんです。僕らが楽しめたらきっと観ている方も楽しんでくださると思うので、全力で楽しみます」

富山「いろんな立場のいろんな役を演じてみて、みんな一生懸命生きているんだなと感じるんですけど、それはこの登場人物たちだけじゃなく、地球上にいる人間も動物もみんな同じだなと思うので。そんなことも感じてもらえたらうれしいです。あと、本当に今、スタッフさんも一緒に全員が楽しんで稽古している感じがあるので、大人が全力で楽しんでいるのが伝わるといいなと私も思います」

吉田「4人でやっているからこそ、物語の転換の仕方が面白いですし。歌やダンスを楽しみながらも、何か引っかかるものがあるんじゃないかなと思っていて。どんな人でも怒りなどの負の感情は持っているわけで、それがどういうふうに外に出るのかっていうことを考えさせられますし。争いごとや戦争ってどういうことなのか、私も学びながら演じています。稽古に入った頃に長塚さんが、「子どもはなめられていることがすぐにわかる」とおっしゃって、それがすごく心に残っているんです。それを忘れないように稽古に取り組んできたのですが、子どもも大人の方も楽しめるものにちゃんとなっているんじゃないかなと感じています」

取材・文/大内弓子
撮影/本田潤