FUKAIPRODUCE羽衣『女装、男装、冬支度』森下亮インタビュー

撮影/金子愛帆

演劇というこの瞬間しかない刹那に魅入られて

クロムモリブデンの看板俳優として数々の舞台に立ち、映像でも幅広く活躍する森下亮。積年の愛が遂にはカルビー公式ア・ラ・ポテト大使へと結実するという一途な情熱の持ち主が、出逢って15年、初出演から10年と、これまた深い愛情を寄せるFUKAIPRODUCE羽衣へ四度目の出演を果たす。
9年ぶりに配役を総入れ替えして再演する『女装、男装、冬支度』への出演の意気込みと共に、演劇そのものの魅力をたっぷり聞いた。

―今月のお誕生日をお稽古場でお祝いされたそうですが、実は10年前のお誕生日もFUKAIPRODUCE羽衣の稽古場で迎えられているんですね

そうなんですよ。『Still on a roll』(2013年上演)という作品で、FUKAIPRODUCE羽衣(以下、羽衣)に初めて出演しました。
羽衣の初めてのツアー公演ということで、香川で夜公演やって、みんなで深夜まで撤収した翌朝、大阪で朝から仕込みをみんなでやるという若さが為せる過酷なスケジュールが忘れられないのですが(笑)本当に楽しかったです。

―そもそもの羽衣との出会いをうかがっても良いですか?

カンパニー名は知っているけどなかなか観るきっかけがなく、一番最初に観たのは、2008年にいろいろな団体が短編を上演するイベント(冨士山アネット主催「EKKKYO~!」)で、別団体目当てで観に行っていたのですが、羽衣の作品(『お金の話しが終わったら』)にとんでもない衝撃を受けたんです。この時は短編だったから、絶対に本公演を観たい、と。でも自分の出演作と公演日程がまるかぶりだったんですよね。そうしたら公演の最終日、自分の出演作は昼公演で終わりで、羽衣はなんと夜公演をやっている、と。それで自分の出演作の千穐楽終わりに劇場を飛び出て(笑)ゴールデン街劇場まで『Y.I』(2009年上演)を観に行きました。今はライブやイベントなどでもよく抜き出して上演される羽衣の代表曲「果物夜曲」の初演作品で、劇中の曲への入り方含めて、忘れられない観劇体験です。

―当時の森下さんが受けられた衝撃や熱量が伝わります。そうまでさせる羽衣作品の魅力とはなんでしょうか

羽衣を好きな方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、本来面白い芝居って周囲に言って回りたくなるものじゃないですか。だけど、糸井さんの作品はわかちあいにくい部分に刺さる。家に持ち帰って、お風呂の中で、寝る前に布団の中で、こっそり思い返すような、両手でそっと抱えておきたい自分の心の大事な大事な部分を揺り動かしてくる。その、声を大きくしてみんなで語り合える感じではないところに、羽衣作品の魅力を感じているのですが、反面、それじゃあ羽衣がなかなか広がらないじゃないか(笑)と勿体なく感じることもあります。誰しもに理解される、というわけではないかもしれないですけど、それでも、この世界を大好きだと思う人にまだまだ会えてないんじゃないかと思ってしまう。是非一回、観て欲しい、これから嵌まるかもしれない人にもっともっと出会って欲しい、とはこの10年ずっと思い続けています。

―『女装、男装、冬支度』は初演もご覧になってるそうですね

羽衣作品を観た時は、客席に居てウズウズして、演者としてもあっちに入りたい、やってみたいと思うんですけど、この作品(の初演)を観た時は構成や楽曲があまりに隙なくはまっていて、その完璧さを客席で享受していることにまず幸せを感じたんですね。だから、羽衣作品にはいつでも出たいと思っているんですけど、まさかこの作品に呼ばれるとは思ってもいなかったです。

―初演から全配役が入れ替わったそうで、その新配役も楽しみなところです

今回、能島瑞穂さん(青年団)が羽衣に初出演されるのですが、羽衣のみんなの魅力に能島さんが加わって、僕が言うのも変な感じですけど(笑)いいタイミングで本当にいい人に巡り合っているなと感じています。能島さんは能島さんで、羽衣のずっとファンだったそうで、僕が10年前に稽古場で受けていた衝撃みたいなもの、言葉や歌や踊り1つ1つに羽衣の世界の楽しさを新鮮に受け取っていらして、先輩俳優ですけどその様子を懐かしく感じつつ、この感覚をお客さんにも伝えたいんだと改めて刺激も受けています。

―実際お稽古されてみていかがですか?

本作の1つの大きなポイントに、役を交換するというところがあるんです。稽古手法としても役を交換するというエクササイズがあったりしますが、実際、役を交換した後のシーンの稽古をしてから、元の役の稽古に戻るとそっちのシーンもよりよくなっていたりするのを目の当たりにすると、面白いなぁと思います。かつそれを本役として演じる。舞台上で相手役をしながら、自分の役を見るというのはすごく稀有な体験で、役者としても演じ応えがあります。

―観る方としても楽しみなポイントです。そして演劇ならではの見所ですよね

演劇って、まさに自分と違う人のことを想像したりすることだと思うんです。大袈裟な感じもしますけど、現代を生きる全ての人が演劇をやったり、観たりすれば、みんなもっと優しくなれるんじゃないかって。今以上に、子どもの頃から当たり前に演劇に触れられる機会があると良いなと思ったりします。

―森下さんからは演劇自体の魅力を発信しようとされる、そんな気持ちもとても感じます

多少の危機意識もあるかもしれません。演劇ほど、今の時代にこんなにあってない媒体ないな、って思うんですよね。サブスク全盛の時代に、お金かけて、時間かけて、客席に座らされ、携帯を切れと言われ、飴の袋を開ける音がうるさいと注意され(笑)。でも、かなりいろんなことを制限されるからこそ、その劇場という特別な空間をみんなで共有できる喜びがあると思っているんです。今、こんな不自由な状況になってまで、みんなで共有できるレア空間なかなかない。せっかくこんな面白いものがあるならば、羽衣ももちろんですけど、小劇場自体、演劇自体、が知られてないというのがあまりにも勿体ない、残念だと思ってしまうんです。そのことを知っている我々が伝える義務があるんじゃないか、と。

―近年企画されているトークライブ「君の知らない名作僕が教えるから僕の知らない名作君が教えて」も、そういう思いからですか?

始まりは、コロナによって中止が多くなったことからです。数公演で中止になってしまったとしても、その数公演を観た人はいる。そのことを語り合える場があったら、と思い立ちました。観たことない人に観てもらうのも大事だけど、既に演劇を知っている人にもより深く楽しんでもらいたい、という気持ちもあります。観劇後に飲みに行ってみんなで喋る場も本当に減ってしまったので。始める前には、演者自身が公の場で他の公演のことをあれこれ語るのはどうなんだろうという葛藤もあったのですが、お笑い芸人の人が例えばM-1のことを語ったりしているみたいに、面白かった作品を言い合うだけなので良いじゃないか、と。やってみたら、お客さんも演劇を語る時間を楽しんでくれて、ゲストの方達もすごく面白がってくれて、一度きりのイベントのつもりでしたが、「続けて欲しい」という声が多かったので恒例イベントとして今後も続けることにしました。演劇は観た後に語り合う時間も楽しいんだと再認識しました。

―数々の舞台や映像出演に、ワークショップやトークライブ、そして、カルビー公式ア・ラ・ポテト大使までやって、観劇もたくさんしている。森下さんには非常にアグレッシブな印象があるのですが、その原動力はどこからくるのでしょう

自分ではアグレッシブなつもりはなくて、結局、演劇の超ミーハーなだけなんだと思うんですよ。
あれもスゴイ、これもスゴイと思って、燃え上がる。演劇って消えてしまうから、逃してしまうと後悔しちゃうんです。映画も好きなんですけど、後から観れるからと思ってつい後回しにして、演劇の方を先に観ちゃうのはずっとですね。消えてしまう刹那的なもの、というのが自分の感性に合ってるのかもしれません。

―森下さんを突き動かして劇場に向かわせているものは、ここで観ないとなくなっちゃう、という面が大きいんですね

だから、ア・ラ・ポテト…の話をして申し訳ないんですけど…

―どうぞどうぞ(笑)

ア・ラ・ポテトも秋しかないという限定性ですよね。新じゃがですから。それがより自分をはまらせた、というところがあると思います。改めて考えてみると、これは今この時しかない、という刹那に凄く惹かれるんだと思います。

―是非、『女装、男装、冬支度』も劇場で味わって欲しいですよね

演劇そのものも刹那なのに、劇団なんてその最たるもの。この瞬間しかない、という喜びと刹那を最大限味わえるものと思っています。そして、羽衣が表現しているものは普遍的なものだから、どの世代にもどこか凄く刺さるものがあると思います。

森下亮(もりしたりょう)
1997年クロムモリブデン入団。
以降同劇団の看板俳優として活躍。
主な出演に【舞台】FUKAIPRODUCE羽衣「春母夏母秋母冬母」、劇団た組「在庫に限りはありますが」、キャラメルボックス「さよならノーチラス号」など
【ドラマ】「リバーサルオーケストラ」、「真犯人フラグ」、「あなたの番です」など
また、クイズ番組「99人の壁」での活躍を経て、カルビー公式ア・ラ・ポテト大使就任。ア・ラ・ポテトへの過剰な愛を叫び続けている。