PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』| 伊藤英明 インタビュー

13年ぶりの舞台に立つ伊藤英明がA・ミラーの骨太な戯曲に挑む

世界的に知られるアメリカの劇作家、アーサー・ミラーの社会派家族劇『橋からの眺め』。違法移民の親戚を受け入れたことで、一家に起こる悲劇を描いた骨太なこの作品、主演を務めるのはこれが13年ぶりの舞台出演となる伊藤英明だ。2010年の『ジャンヌ・ダルク』以来、久しぶりの演劇への挑戦となる今回、オファーを引き受けるにあたりどんな覚悟があったのだろうか

「僕も50歳手前の年齢になり、これまで演技は現場で学んできただけでしたから、ここで苦手なジャンル、以前の経験から“怖い”と思ってしまっていた舞台の仕事にも取り組んでみたいと思っていた矢先にちょうど声をかけていただいたんです。しかもジョー(・ヒル=ギビンズ)さんというイギリスの演出家の方が手がけるアーサー・ミラーの作品だということで、自分にとっては非常に大きな挑戦にもなります。自分自身が俳優として何か捉えたいと思っていたタイミングでのお話でしたから、これも縁だと感じましたし、今はどこまでできるかわかりませんがやるだけやろうと思っています」

舞台が怖いと感じてしまったのは、初舞台の『MIDSUMMERCAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』でのハプニングが今も脳裏に焼き付いているからなんだそう

「実は初日に、二幕目の幕開きが僕のセリフからのスタートだったにもかかわらず、頭の中が真っ白になってしまって。役柄とも台本とも関係ないことをしばらく喋り続けていたら、なんとか思い出せたんですけど、それはもう、恐怖体験でした。今では笑い話にしていますが、それ以来すっかり怖くなってしまったんです。だけどこの年齢で再び挑めるというのはすごくありがたいことですし、何しろ信頼できる共演者の方やスタッフの方もいらっしゃるので、新人の頃に戻った気持ちで改めて芝居というものを学びたいと決意しています。ただ、ここまで深い愛憎劇はドラマでも映画でも経験したことがなくて。しかもそれを生で演じるとなると…未知の世界ですから、この複雑な感情が入り乱れた会話劇に挑むにあたって、演出家の方にどういう感情が引き出されて、どういうものをお見せできるのか、そして稽古と本番を終えた数カ月後の自分が俳優としてどう変わっているか。これが俳優として転機になる作品になるかもしれません、今は期待感でいっぱいです」

今回、伊藤が演じるのは港湾労働者として働く、イタリア系アメリカ人のエディ。妻と、実の娘の如く育ててきた姪と三人家族として平和に暮らしていた彼の姪への愛情が、妻の従兄弟が同居することで徐々に揺らいでいく。

「エディも最初は普通の人なんですよ。家族を大事にしているし、ただ約束を守りたいと思っているだけなのに、それが愛憎に変化していく。その役づくりをどうしていくかは、まだまだこれからです。どういう生活をしているのかはセリフの端々から出て来るものだとは思いますが、それだけではなく内面からも滲み出るようにしたいですし、リアルに湧き上がる感情をどうやって芝居に落とし込むのか、自分にとっては初めての経験になりそうです。稽古で生まれた感情を素直に演出家の方にぶつけてみて、と思っています」

インタビュー・文/田中里津子
Photo/植田真紗美
ヘアメイク/今野富紀子
スタイリスト/根岸豪

※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

【プロフィール】

伊藤英明
■イトウ ヒデアキ
数多くの映画やテレビドラマで主演を務める。ぎふチャンで9月2日より、自身が企画・プロデュースする新番組「岐阜英明」がスタート。