末原拓馬が主宰する、劇団おぼんろの第23回本公演「月の鏡にうつる聲」が8月4日(金)に開幕した。初日公演前には、囲み取材と公開ゲネプロが行われ、萩谷慧悟(7ORDER)、石渡真修、井俣太良、塩崎こうせい、松村龍之介、さひがしジュンペイ、高橋倫平、わかばやしめぐみ、そして末原が登壇し、初日に向けた思いを語った。
本作は、末原が2014年に桃太郎伝説を題材にして描いた戯曲を大幅な改稿と新たな演出で上演するおぼんろの最新公演。岡山県、吉備の里に古くから伝わる温羅伝説という、桃太郎伝説のモデルとなったおとぎ話を元に創られた物語は、鬼退治から30年後、桃太郎が鬼の首を取って以来、雨が降り止まなくなった呪われた村から始まる。
(後列左から)高橋倫平、末原拓馬、わかばやしめぐみ、さひがしジュンペイ
囲み取材で萩谷は、「劇団員のみなさんに迎えていただいて、自分の人生の中でも初めてのことが多くて、末原さんや先輩方から教えていただき、挑戦をしてきました。ここから迎える本番は短い期間ですが楽しみにしています」とコメント。
「稽古中の印象に残っているエピソード」を聞かれた石渡は、「慧悟がジャガイモとカボチャを持ってきてくれたことがありました。差し入れが野菜ってことが今までなかったのでいいなと。『皆さん、カボチャいります?』って配っていたのですが、取り合いになっていました。今後の差し入れには野菜も考えたいと思います」と明かした。
また、井俣は、おぼんろの印象を「全員で一つのものを作っている感が強い劇団なので、いかにして自分がその世界観に入るかだと思います。拓馬が紡いでいる言葉の意味や音楽性は、独特の手法で取り組まないといけないので、そこは意識しながらも、みんなで作る。お客様を含めて、劇場空間で表現するエンターテインメントなんだなと感じます」と語った。
今回、劇中の立ち回りや殺陣は、塩崎が振り付けた。塩崎は「おぼんろが殺陣をきちんとやるのは初だと思います。なので、いかにエンターテインメントに、派手に見えて、意外とやりやすいというのを僕の引き出しから出してきてつけました。“雉”は二刀なのですが、二刀というのは殺陣をやっている人でもあまりやらない難しいものなので、そこは見どころです。それから、クライマックスでも大きな殺陣のシーンがあるので、ぜひそこも見ていただければ」とアピールした。
松村は、自身の見どころを聞かれ「端正な顔立ちです(笑)」と冗談を言いつつ、「それぞれが色々な役を演じるので、その人だから表現できることや、物語の中でどう生きていくのかを見ていただきたいです。お客さんが一緒になって体感してもらえたら嬉しいです」と笑顔を見せた。
一方、さひがしは、「メンバーの熱量と繊細な演技、チームワーク」を見どころにあげ、「2時間20分、9人がステージ上から離れることなく、集中しています。そのエネルギーが皆さまに伝わればいいなと思っています。桃太郎をモチーフにしていますが、末原の独特な感性で、現代を映す作品になっているのでそれを観ていただいて、それぞれの思いを感じていただけたらと思います」と言及した。
そして、末原は「今回、作品を作る上で考えたのは、“嘘をつかない”ということでした。劇団を長くやっていて、自分はバランス感覚があることが良さだと思っていましたが、今回は、そうしたことよりも嘘をつかない。過去の成功体験にとらわれずに、9人で一つの劇団を作ると宣言して始めました。この9人で、今起きたことに向き合いながら、自分がやるべきことをやろうと思いました。参加者(観客)の顔色を伺わなくなったというも大きな変化で、自分たちが作りたいものを作り、正しいと思うことをやるようにしました」と本作への思いを述べた。
わかばやしは、「今回、9人でも足りないくらい役柄が多いんです。ですが、末原さんが挑戦として私たちに課してくれたことで、9人で演じる以上のパワーと演技力を私たちにもたらしてくれて、色々な色合いがある舞台になっていると思います。おぼんろは、常に何かしらに挑戦している団体だと思いますが、今回も初挑戦が多い。5人の客演を迎え、4人の劇団員とともに色々な色彩のある舞台をお見せしますので、ぜひそこを観ていただきたいと思います」と力を込めた。
最後に、高橋は「我々は出演者のことを“語り部”と言い、お客様は“参加者”と呼んでいて、語り部が参加者と物語を紡いでいくというスタイルの公演を行っています。劇場に来て、観劇をするのではなく、一緒に物語を作り上げていくんです。参加し、物語を楽しんで、自分一人だけの物語を作り上げる。そのスタイルを楽しんでもらえたらと思います」と劇団の魅力を語った。
その後、登壇者たちから来場する“参加者”へのメッセージが一言ずつ語られた。以下に、そのコメントをまとめる。
高橋「この物語を“一緒に楽しむ”ということを念頭に、劇場に来ていただけたら嬉しいなと思います」
わかばやし「新たなおぼんろとして作品を紡いでいきたいと思っています。今回も新しい作品を、参加者の皆さんと共に千穐楽まで紡いでいきたいと思っています」
さひがし「想像力を駆使して、ぜひ体感してください。楽しんでください」
松村「みんなの参加、待ってるぜ!」
塩崎「僕たちも初めてやる作品です。一緒に体験して頂きたいと思います」
井俣「劇場で人間が生きている鼓動を感じていただけたらと思っています」
石渡「皆さんの心に残りますように」
萩谷「新たな出会い、最高です! 観に来てくださるファンの皆さんも、新しい出会いだと思うので、新たな出会いにワクワクしてくれということでした」
末原「これはあなたの物語です。あなたなりに受け取って帰ってください」
ゲネプロレポート
9人がステージ上に横並びに並び、物語のキーとなる歌を歌うところから幕が開く。囲み取材でさひがしが話していた通り、それぞれのキャストはほとんどの時間をステージ上で過ごし、さまざまな役を場面ごとに演じ分ける。役を複数演じることで、全員で物語を紡いでいることをより強く感じさせた。
ストーリーは、現在、鬼を退治した30数年前、桃太郎と温羅が出会った子ども時代が交錯して進んでいく。それまで明かされることがなかった鬼退治の真実はもちろんのこと、桃太郎と温羅の幼い頃の出来事、村人たちそれぞれの境遇に胸が締め付けられる。
描かれているのは、“鬼退治”というファンタジーな世界ではあるものの、それは決しておとぎ話と片付けられない真実味を持っている。“戦い”は、どちらかが“正義”で、どちらかが“悪”ではない。“悪”だと思った人物にも、複雑な思いや事情が隠されている…のかもしれない。少なくとも、この物語の中では、桃太郎だけでなく、全員に(正確には1人を除いた全員)哀しみや怒り、戦う理由があった。そして、 “鬼退治”をさまざまな角度、さまざまな人物の視点から描き出したこの物語は、まるで現代の戦争を描いているようにも感じられた。彼らの哀しい運命に、私たち参加者は何を感じ、何を思うのか。ぜひとも劇場で体感してもらいたい。
また、囲み取材で言及されていたように、おぼんろ初となる殺陣のシーンも注目だ。大仰な動きが印象に残るその殺陣は、「大人のための寓話を紡ぎ出す」ことを特徴としてきたおぼんろらしさを存分に感じさせるものに仕上がっていた。
さらに、劇団員ではない、萩谷、石渡、井俣、塩崎、松村が劇団員たちと変わらぬ動きで、物語を作り上げていたことにも触れておきたい。今作は、末原が「新たに9人で劇団を立ち上げようという戦い」をして作り上げた作品だ。それだけに、5人に求められることも多かったことが想像される。もちろん、劇団員たちも新たに作り上げる苦労は大きかったと思うが、きっとそれ以外の5人は慣れないことの連続だったのではないだろうか。ぜひとも5人のファンの方たちには、普段とはまた違う彼らの姿を、彼らの芝居を楽しんでもらいたい。
舞台写真
取材・文/嶋田真己