「小劇場での芝居を見せたい」七海ひろきと寿つかさが語る『THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-』

七海ひろきの初プロデュース演劇企画となる舞台『THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-』が8月23日(水)に開幕する。

本作は、舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語で歌仙兼定役を演じるなど、俳優・声優・アーティストとして多方面で活躍する七海がプロデューサーとしてキャスティングから手がける作品で、主演を今年6月に宝塚歌劇団を退団したばかりの寿つかさが務める。共演は、七海、寿と同じく宝塚歌劇団宙組に在籍していた緒月遠麻、伶美うらら、澄風なぎ。七海も含めた5人芝居となる。なお、寿にとって本作が退団後初舞台&初主演。

脚本・演出を手がけるのは保木本真也。書き下ろし&当て書きで、謎解きや様々な仕掛けをちりばめた新感覚ミステリーシットコムを届けるという。

本作について七海ひろきと寿つかさに話を聞いた。

寿つかささんしかいないと思った(七海)

――七海さん初のプロデュース演劇企画となりますが、なぜプロデュースをしようと思われたのですか?

七海 これまでさまざまな舞台に立たせていただきてきましたが、その中でも経験のない「小劇場演劇」に挑戦してみたいと以前から思っていました。顔につけるマイクに頼らず、舞台装置などにも頼らず、芝居で表現する、そういう演劇をやってみたくて。ですが、思っているだけでは時間はどんどん過ぎてしまうので、「やりたいと思ったときにやろう!」と決め、プロデューサーとして、どんな作品にするかやキャスティングなども考えていくことしました。

――特に大事にしたことはなんですか?

七海 今回は「お芝居で表現する」ということに重点を置きたいと考えました。その上でキャスティングや劇場を選び、お客様に純粋にお芝居を楽しんでもらう、ということをしたいと思っています。

――そういう作品で、寿つかささんに退団後初舞台&初主演としてオファーされたのはどうしてだったのですか?

七海 今回のキーである「お芝居で観てほしい」「シットコム(シチュエーションコメディ)」というところから考えたときに、「すっしーさん(寿)しかいない」と思いました。すっしーさんと私は同じ劇団(宝塚歌劇団・宙組)にいたのですが、とにかくまたご一緒したい、すっしーさんの主演舞台が観たいという気持ちもあってお声がけさせていただきました。

――寿さんは声をかけられていかがでしたか?

寿 「主演……?」という気持ちでした。かいちゃん(七海)が直接電話をくれたのですが、ただただ驚きで。シットコムやストレートプレイはすごく好きな世界ではありますが、宝塚歌劇団(以下、宝塚)はミュージカル作品が多いので、私はあまり経験したことがなくて。しかもまさか私の人生の中で主演のオファーがくるとは考えたこともなかったので。だから、かいちゃんからお話をいただいたときは、驚きのあまりすぐにはお返事ができず、「少し考えさせてほしい」と伝えました。ずっと「やりたい気持ち」と「主演が務まるのか」という気持ちとの闘いでしたね。それに退団したばかりで、年内は自分のやりたいことを考えるような時間になるのかなと思っていましたし。まさかのそんなタイミングに。

七海 はい(笑)。

寿 それで、ちょっと時間をいただいたんですけど、やっぱり考えれば考えるほど心がザワつきだして、「やりたい」という気持ちが強くなりまして。ありがたいことに、かいちゃんもギリギリまで待ってくれたので、挑戦することにしました。

このメンバーならおもしろいことが起きる(寿)

――出演者はみなさん、七海さんが所属されていた宝塚歌劇団宙組出身の方ですが、みなさんどんなふうにおっしゃっていましたか?

七海 一人一人に私が連絡をして、企画の説明をして、どうでしょうか?というお話をしたのですが、緒月(遠麻)さんは「やりたいね!おもしろそうだね!」と即決してくれました。緒月さんは宝塚時代から、とても心の動くお芝居をされる方で、退団後にまた一緒にお芝居してみたいなと思っていたんです。あと、シットコムをやると決めたときにすぐに緒月さんが頭に浮かびました。なので、今回「よし!」と思ってお声がけした方です。伶美(うらら)さんは以前ご一緒した作品での役がおもしろくて!すごく思い切りのいい、そして予想外のお芝居をされるんです。常に一生懸命真面目に役を演じる方なので、シットコムでまた新たな一面を見てみたいと思いました。澄風(なぎ)さんは、在団中に出演している作品を観て、「お芝居がすごく好きなんだろうな」と思っていたんです。「これからたくさん宝塚の作品に出るだろうし、それを観るのが楽しみだな」と思っていたら、今年退団されて。一緒にお芝居をやりたい!と思い、お声がけしました。

――寿さんはこのメンバーについてどう思われましたか?

寿 改めて「私、主演でいいの!?」と思いました(笑)。でも、それぞれに在団中はお芝居で関わりのある役を演じていますし、お芝居以外でも楽しく付き合わせてもらっていたメンバーなので、まさかこうやってまた一緒にお芝居ができると思っていなくてうれしかったです。このメンバーならおもしろいことが起きるだろうなと思いました。

七海 みなさん、すっしーさんが主演なんだと知ったときのよろこびは印象的でしたよ。「すっしーさんが主演なら!」みたいな。すっしーさんの主演は私も楽しみだし、みんなが楽しみにしている部分だと思います。

思わぬ出会いから生まれたタッグ

――脚本・演出を保木本真也さんにお願いしたのはどうしてですか?

七海 保木本さんは、私が昨年出演したドラマ『合コンに行ったら女がいなかった話』で脚本を書かれていた方なのですが、関西の小劇場でシットコムの大人気公演をやられていた方なんです。その舞台の映像を見させてもらったらすごくおもしろくて、今回お願いすることにしました。だけど時間もあまりなかったので、保木本さんが以前公演した脚本のスピンオフでも…と思っていたのですが、保木本さんが「やるんだったら新作書き下ろします!」と言ってくれて。一度キャストたちとも顔合わせをしたら、保木本さんが一人ひとりの個性を見て、脚本を書いてくれました。

――当て書きなんですね。寿さん演じるミツキは「失踪した夫を探している主婦」、七海さん演じるアオイは「5000万を持っていた怪しい謎の女」と役紹介されていますが

二人 (笑)。

七海 なにを思ってそこに行き着いたのかは保木本さんしかわからないですが、きっとお話ししたときになにか思ったことがあったんでしょうね(笑)。

寿 実際に脚本を読んで、お会いした時間もそんなに長くはなかったんですけど、保木本さんに見透かされている気がしました。普段使っている口癖みたいなものも反映されていて……。

七海 でもお話ししているときはその言葉を言ってなかったと思うんですけどね。

寿 言ってなかったよね。でも書いてくださっていたから、見抜かれている気がしました。私以外のみんなのこともよく捉えてくださっているなとびっくりしました。

――まだ途中の段階だそうですが、脚本を読んでいかがでしたか?

寿 すごくおもしろかったです。外で読んだのですが、声を出して笑ってしまいました(笑)。

七海 ミステリーならではの、先が読めないおもしろさもふんだんに盛り込まれていて、観れば観るほどのめり込んでいくんじゃないかなと思いました。ストーリーも、みんなのキャラクターも、楽しんでいただけるはず。

寿 それぞれ演じている姿がイメージできるんですよ。この人がこのシーンを演じたらおもしろいだろうなというギャップみたいなものもあったりして。私もこの魅力をちゃんとお伝えできるようにしたいです。

お客様の笑いが演出にもなる

――ちなみにおふたりは普段、小劇場には行かれますか?

寿 私はいろんな舞台が好きで、在団中も、下北沢に行ったり埼玉まで行ったり、いろんな作品を観に行っていました。それこそローソンチケットさんで購入して……。

――ありがとうございます!(笑)

寿 宝塚に入る前からお芝居を観るのが好きだったんですよ。むしろ宝塚の公演は観たことがなかったくらいで(笑)。

七海 おっしゃってましたね(笑)。

――え?宝塚歌劇団の公演を観たことがないのに、なぜ入ろうと思われたのですか?

寿 クラシックバレエを習っていたのですが、その先生が宝塚がお好きで。高校受験のときに「受けてみたら」ということで受けて、運よく入れていただけました。宝塚に興味がなかったわけではないのですが、実家から近い場所にあったので後回しになってましたね(笑)。

――七海さんは小劇場は観に行かれるんですか?

七海 私は宝塚以前にお芝居が好きなんです。小学生くらいのときから興味を持ち始めたので、小さい頃は地元の文化センターで上演される作品を観ていましたし、中学では演劇部に所属していたので、当時はテレビで放送されていた高校演劇を観たりしていました。もちろん大作ミュージカルも素晴らしいのですが、小劇場でのお芝居だから生まれる会話のキャッチボールや、距離感がすごくおもしろく感じます。

――宝塚では二千人くらいの劇場でお芝居をされていたみなさんですから、小劇場でどんなふうに見えるのかなと楽しみです。

寿 ほんと、どうなるんでしょう。立ってみないとわからないね。

七海 そうですね。

寿 ついつい見得切ったりしちゃいそう。

七海 (笑)。私もまだ立っている自分が想像つかないです。コメディもあまりやったことがないので、「できるんだろうか」と今も思っていますし。お客さんがどのくらい近く見えるんでしょうね。

――そのくらい近いと立つ側としては緊張しますか?

二人 どうですかね??

寿 経験上、お客様に対しての緊張はないかもしれないけど、己の問題で緊張するかもしれない(笑)。

――今回、「笑ってください」ってことも書かれていましたね

七海 そうですね。お客さんの反応もひとつの楽しみというか、ひとつの演出にもなるのかなと思っています。

寿 お客様とともにつくれるのが楽しみですね。小劇場に行くと、自分も登場人物みたいに錯覚したりするから。

――では最後に、お互いの「ここを楽しみにしてほしい」を教えてください

寿 今作では、かいちゃんのミステリアスで格好良いところを、保木本さん演出によって新たに息づいた魅力をお楽しみいただけると思います。七海ひろきプロデューサーがつくる公演で、彼女の新たな魅力を楽しんでいただきたいです。

七海 すっしーさんにそう言ってもらえると、なんだか気恥ずかしさみたいなものを感じます。初めて舞台に立った時からご一緒している方なので。稽古や本番が近づくにつれ改めて、すっしーさんとまたこうやってご一緒できることに、「現実なんだ」という気持ちになるくらい。すごくうれしいです。私はすっしーさんのことを、宝塚のロバート・デ・ニーロだと思っているんです!

寿 やめてください!(笑)。

――ロバート・デ・ニーロというのは?

寿 どうしよう、いっぱいクレームきたら!

七海 すっしーさんは、宝塚時代にイケオジを極めていた方で、すごくかっこいいんです。それをどう表現したらいいんだろうと思い、俳優で例えるならって考えました。そしてたどり着いたのが、「宝塚のロバート・デ・ニーロ」です。自分の中でしっくりきました。あと、私はすっしーさんの細かい役づくりが大好きなんです。特にコメディに関しては、在団中に観に行ったすっしーさんの出演作以上に笑ったことはないので(笑)。

寿 役づくりははかいちゃんもですよ!

七海 いえいえ、すっしーさんのつくられる舞台を楽しみにしています。

寿 よろしくおねがいします。ついていきます。

インタビュー・文/中川實穗
写真/篠塚ようこ