『THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-』ゲネプロレポート

2023.08.29

七海ひろきの初プロデュース演劇企画となる舞台『THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-』が8月23日(水)に開幕した。

俳優・声優・アーティストとして多方面で活躍する七海の初プロデュース作品は、座長の七海を含めた出演者5人全員が宝塚歌劇団出身で、主演を務める寿つかさにとっては今年6月の退団後初舞台&初主演となる。会場は東京・CBGKシブゲキ!!と大阪・心斎橋PARCO14F SPACE14で、いずれもキャパシティ300人以下の小劇場だ。

ドラマや舞台で活躍する脚本家の保木本真也による書き下ろしとなる本作は、謎解きや様々な仕掛けをちりばめたシチュエーションコメディで、「“5人の犯罪者”の物語」と銘打たれ、各登場人物同士の駆け引きや、幾重にも構造が計算された筋書きにより、緊張感を保ちながらも大いに笑える作品となっている。本番に先立ち行われたゲネプロの様子をお伝えする。

突然失踪した夫を探す中、とある洋館を訪れたシンカンミツキ(寿つかさ)は、5000万円を持っている怪しい女・アオイ(七海ひろき)と出会う。この大金はミツキの夫が犯罪行為により手に入れたお金で、その犯罪は3日後に時効を迎える。アオイは、無事に時効を迎えることができれば5000万円をミツキと山分けしたいと持ちかける。お金が必要な事情を抱えたミツキは、アオイと2人で3日間その大金を守り通そうとするのだが……。

古い洋館を舞台に繰り広げられる物語は、どこか2時間サスペンスドラマのような空気感で進んでいく。洋館の主人でお金に困っているマリ(緒月遠麻)、5000万円に関わる事件を追っている刑事サエ(伶美うらら)、洋館にフードデリバリーのため出入りしているウオ(澄風なぎ)、といった「いかにもサスペンスドラマの登場人物」という雰囲気丸出しの、思わせぶりなセリフやしぐさを連発する一癖も二癖もありそうなキャラクターが舞台上で大渋滞だ。

笑いの小ネタをちょいちょい挟み、シリアスとコメディの緩急をせわしくつけながら物語はテンポよく進み、先の読めないストーリーにハラハラしたり、ベタなギャグに大いに笑ったりしながらも、どこか拭えない違和感がある。この違和感の正体は何なのか──。そう思い始めたところで物語は急展開を迎え、その違和感の理由が明かされるのだが、ここから先はネタバレになるので、ぜひ劇場で確認して欲しい。

とにかく楽しそうに演じている出演者5人が印象的だ。厄介ごとに巻き込まれて右往左往する困惑系主人公を茶目っ気たっぷりに見せる寿、ミステリアスでありながら時々のぞかせるおとぼけとのギャップがキュートな七海、物語を引っ掻き回す役割を弾けた演技で生き生きとこなす緒月、サスペンスドラマには欠かせない刑事という役を一見クールだが実は……という独特の存在感で見せる伶美、豪快でマイペースだけど憎めない末っ子キャラ的な澄風、とそれぞれの個性が非常によく出ている配役で、脚本・演出の保木本真也による当て書きだというのもうなずける。

宝塚歌劇団出身で大きな劇場への出演が圧倒的に多かった5人が小劇場でのシットコムに挑戦した本作だが、ダイナミックな芝居のできる俳優たちだからこそ、こうした小さな劇場でのコメディにピタリとハマっている。笑いは“緊張”と“緩和”が重要だとよく言われるが、大胆な芝居と繊細な芝居の両方ができるメンバーだからこそのメリハリが生まれ、本作の持つ面白さが更に強調されることで客席は何度も爆笑に包まれた。

ネタバレしないように気を付けつつ最後に一つだけ付け加えておくと、サブタイトルの「-薪巻満奇のソウサク-」部分にもぜひ注意していただきたい。脚本・演出の保木本、プロデューサーの七海をはじめとする本作のカンパニーによる仕掛けはここから始まっていたのだと気づいたとき、一本取られた気持ちになった。

さてあなたは本作のカンパニーによる“仕掛け”に気づくことができるだろうか?

ぜひ劇場に足を運び、誰にも先の読めないスリリングな「新感覚ミステリーシットコム」に挑戦してみて欲しい。

取材・文/久田絢子