【連載:学生演劇のススメ】 東京学生演劇祭2023|審査員・井上瑠菜 インタビュー

2023.09.01

撮影/保坂萌

東京・関東の学生演劇の交流、刺激の場として2015年に誕生した東京学生演劇祭が今年も8月31日(木)~9月3日(日)に王子小劇場にて開催されている。今年は、明治大学、慶応義塾大学、東洋学園大学、文教大学、成蹊大学の5校6劇団が参加し、1劇団40分の上演時間で、思い思いの演劇を披露していく。今回の審査員を務める劇団「露と枕」主宰・井上瑠菜氏は、どのような想いで学生演劇を見つめるのか。話を聞いた。

――井上さんは劇団「露と枕」を主宰されており、今回、東京学生演劇祭の審査員を務められることとなりました。どのようなお気持ちで審査に臨まれるのでしょうか

私は学生演劇祭を協賛させていただいている王子小劇場で職員として働いてもいるんです。そういう縁もあって、審査員を務めさせていただくのですが、私自身も学生の頃はこのような学生演劇祭にお世話になってきたので、この年齢になって審査員を務めることになるんだという部分では、とても感慨深いものがありますね。

――学生の頃の井上さんにとって、このような演劇祭はどのような存在でしたか

私は大学のサークルに所属していて、そこで演劇をやっていたので、演劇祭などで他校の人と繋がれることが大きかったように思います。そして、プロのスタッフさんや劇場の方とお会いすることもとても新鮮でした。普段の公演とはまた違った気合でしたね。”爪痕を残さなきゃ”みたいな気持ちもあったので。それは他の参加団体さんもそうだったように思います。そういう想いの人たちと繋がりたいし、ほかの団体を観に来ているお客さんを次に自分の公演に観に来させたい気持ちもあるし、そういう各々の気持ちの糸が絡み合って、ぶつかり合っている、すごく刺激的な空間でした。

――学生演劇の魅力はどのようなところにあると思いますか?

劇場で働いていて、社会人劇団さんやプロの劇団さんにお会いする機会もあるんですが、学生演劇はとても密なものに感じます。稽古期間もそうですし、関係性も非常に密ですね。大学時代って時間をものすごく自由に使える時期。卒業してしまったらもうそんな時間は取れないであろう濃密なコミュニケーションを経て、作品が練り上げられていくので、会話劇であれ、エンタメに寄った作品であれ、アングラ系のものであれ、大きな熱量のものが生まれる場所になっているんですよね。

――そんな濃密さからくるような、学生演劇の特徴を上げるとするならば、どのようなことでしょうか

本音がすごくストレートに見えてくるのがいいですね。今になって作品をつくるときに、これじゃ伝わりにくいからとか、やはりいろいろと考えてしまう自分がいるんですけど、学生時代はより生々しかったというか。だからこそ、ダイレクトに響いてくるものに出会えるのが、学生演劇だと思います。熱量をもって、すごく悩んでいたり、怒っていたりと、そういう生々しい感情に学生演劇では出会えると個人的には思っています。

――井上さんご自身も早稲田大学在学中に劇団を立ち上げられています。演劇を志すきっかけはどのようなことだったんでしょうか

小学3年生の時に、市民ミュージカルに出演させていただいたことがあったんです。親がもともと劇団四季などをよく観劇させてくれていて、せっかくの機会だから、と入れてくれたんですね。大人の女優さん、俳優さんと一緒に歌って終わるくらいのものだったんですが、舞台上から客席を見るという体験をしたときに”もうちょっとやってみたい”って思ったんですよ。それで中学から演劇部に入って…今も、その”もうちょっと”を言い続けている気がします。

――中高の部活としての演劇と、大学に入ってからの演劇とでは、また毛色も違ってくるように思いますが、いかがでしょうか

私の場合は、奇跡的な巡り合わせがあって中高の頃から小劇場で活躍されている俳優さんがコーチや演出をしてくださっていたんですよ。なので、本格的なものを目の当たりにできていたんじゃないかと思います。それで大学生になってからもしばらく役者をやっていたんですが、経験者だし、いろいろとコーチもしていただいていたし、と、上手くやろうとしすぎてしまうんです。うまい、って言われたがるみたいな感じがありましたね。

――経験者だからこそ、違いを見せたくなったと

そうですね。それに、作品を作るにしても、演じる側だとしても、自分で機会をどんどん作れてしまうんですよね。でも、学生演劇って、その場にいる人とどれくらい心をむき出しにして作品を作れるか、っていうところをやっていかないと違う世界は見れない。そうじゃないと、演劇をやっているって言えないとすごく感じて、座組のみんなとコミュニケーションをとって、時にぶつかることもしながら、自分たちだけで作り上げていく。そういうところはやりながら気付いていったように思います。大学では…本当に演劇ばかりしていて(笑)、早稲田の大学演劇界は自分たちで稽古場も劇場もあるようなサークルだったので、没頭するには最適な環境でした。

――そんな大学時代を振り返ってみて、今、井上さんにはどのようなものが残っていますか

本当に演劇しかやっていなかったので、演劇が無くなったら私は終わってしまうんじゃないか、というくらい追い詰めて、追い込んでやっていました。大きくならないとダメだ、と思いながらやっていましたが、一方で自分と向き合う作業でもあって。演劇って、大きくなるとかそういうことじゃないんだ、と自分を追い詰めたからこそ気付いていくような時間だったと思います。結構、長いこと時間をかけたんですけどね。時代とかもあるとは思うんですけど、やっぱり演劇は人を豊かにするためにあるもの。人や自分を豊かにするためのコンテンツだとすごく思ったので、無理して体や精神を追い込んでまでやるものではないと思えるようになりました。それくらい追い込んだからこそ、思えるようになったんですけどね。だから、そういう状況の人を見ると、一度立ち止まってみた方がいいんじゃない?と言えるようになった。そこは大学時代を経ての大きな変化ですね。

――劇団を主宰されていらっしゃいますが、主宰する上で大切にしていらっしゃることはなんでしょうか

人と関わる仕事ではあるので、コミュニケーションは出来る限りとっていきたいと思っています。でも演劇は自分と向き合うものでもあるので、組織としてもちゃんと作品と一緒に作っている人とのコミュニケーションに加えて、それぞれが自分と向き合えるように、という部分は意識して作っていきたい。自分のやりたいことを妥協せずに、ほかの人がやりたいことも妥協しないで、それで続けていくことができたらいいなと。とにかく、続けていかないと、と思っていますし、近道はないですから。

――続けることの原動力はどこにあるんでしょうか

そうですね…やっていて選ばれることも、選ばれないこともあるわけですが、選ばれないことばかり気にしてしまうんですよね。そういうとき、ありがたいことにいろんな人から、いつかきっと選ばれるはずと言っていただいて、それを信じたい気持ちはあります。続けていたらいつか、諦めなければいつか、選んでいただけるだけのポテンシャルを持っていると信じるようにしているので、そこが原動力かもしれません。やっぱり、折れてしまった人、演劇を辞めてしまった人もたくさん見てきていますし、ショックを受けながらも続けていくこと、団体を維持していくことって本当に難しいことだと思うんですよ。見つけてもらうって、運の部分も大きいですから、続けていくことだけは守っていきたいです。

――演劇を通して、どんなことを伝えていきたいですか

作り手のエゴかもしれませんが、作っている側は、何か悲しかったり、怒っていたり、悩んでいたりすることが作ることによって消化していくようなところがすごくあるんですね。モノを作ることで、自分の知らなかった自分に出会えるところはあるので、生きていく中でそういう出会いをたくさんして、成長していきたいと思っています。それを人と共有、お客さんと共有して、生のリアクションが返ってくる空間なので、そこで何かを与えることができれば。人に何かを与えられるということは、ものすごく人生を豊かにできるものだと思うので、そういう意味でも続けていきたいですね。

――学生演劇祭をご覧になる方に、どのように楽しんでいただきたいですか

この大学ではこれが今、はやっているんだな、というところも見えてくるんですよ。なるほど、と思うこともあります。やっぱり、人が3~4年でガラリと変わっていきますから、今はこんなことになってるの?と驚くことも。人によって場所が作られていくんだな、と感じますね。そして、やっぱり学生演劇は自由だな、と思います。やっぱり年齢を重ねていくとどんどん固くなっていってて、自分が書くものもセオリーがあったり、いつものロジックとか型とかを作ったりしていくことも大切なことではあるんですが、学生はそういうことを考えずに”これをやってみたい”っていうことに対して、とても自由に取り組んでいるんですよね。その自由さがキラキラして見えるし、劇場入りしてくる学生さんたちも「出来てよかったです!」とキラキラした顔で帰っていくので、そういう若さも含めて自由を感じてほしいです。

――演劇祭に参加する学生さんには、どのようなことを感じてほしいですか

緩く演劇をやっている人から見たら、ガチで演劇をやっている人は怖く見えるでしょうし、ガチの人からすると緩めな人にはカチンと来ることもあるかもしれません。でも、それぞれに演劇を好きだということはかわらないですから。ぜひ演劇祭という場で、いろんな人と出会ってほしい。楽しくやるのが1番だと思いますし、楽しくなかったら立ち止まってもいいんだ、ということも伝えていきたいですね。苦しくても楽しい、ということも学生時代にはあると思いますが、走り続けて不安になった時に、私たち王子小劇場は全力でいつまでも応援し続けたい。悩みながらも、やっぱり演劇を続けたいと思ったときには王子小劇場にフラッと立ち寄ってもらえたら、何かを与えたり、渡せたりできるんじゃないかと思っていますので、ぜひ頼ってくださいね。

――最後に、今回の学生演劇祭をご覧になる方にメッセージをお願いします

ぜひ、心をオープンにして観に来ていただきたいです。ありのままを受け入れるような状態で来てほしい。学生演劇だからこそ、何が起こるかわからないですから。こんなに真正面からぶつかってくるようなものも無いと思いますので、アトラクションに乗るときみたいな、わくわくした気持ちでご覧いただけたらと思います。

インタビュー・文/宮崎新之

【関連公演】京都学生演劇祭2023

日程・会場:
9月9日(土)~9月16日(土) 京都・養正市営住宅6号棟跡地 野外特設舞台
※9/16(土)は授賞式、かもがわデルタフェスティバル開催

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