写真左から)井上芳雄、南沢奈央、三浦宏規、水野貴以、加茂智里
若き日の出会いから悲劇のクライマックスへ 数々の「メディア」伝承をベースに立ち上げる新作舞台
脚本:フジノサツコ×演出:森新太郎による新たなギリシャ悲劇の誕生!
脚本・フジノサツコ×演出・森新太郎による新作『メディア/イアソン』が、2024年3月東京、4月には兵庫で上演される。古代ギリシャの劇作家・エウリピデスが記したギリシャ悲劇の最高傑作「メディア」。夫イアソンの裏切りによって、我が子を殺めるという王女メディアの凄惨なこの復讐劇は、これまでに世界各国で数多くの舞台や映画の題材に取り上げられてきた。
本作『メディア/イアソン』では、この有名な復讐劇に終始せず、その前日譚である、若き日の二人の出会いと愛情に満ちた日々を鮮やかに照射し、太陽のような存在であった二人がなぜ悲惨な結末を迎えるに至ったのかを、二人の間に産まれた三人の子供たちの視点を通して描き出していく。
そして、本作で壮大なギリシャ悲劇を舞台上で体現するのは、わずか5名の俳優陣。この精鋭5名には演出の森新太郎が望みうる限りの最高のキャスト陣が集結した。
タイトルロールの一人、イアソン役を演じるのは井上芳雄。ミュージカルでデビュー後、ストレートプレイや映像作品などの第一線で、俳優として数多くの作品世界に身を置き、類い希なる存在感を築き上げてきた井上だが、意外にもギリシャ悲劇の世界を体現するのは本作が初めてとのこと。愛にあふれた王女メディアを憎しみに燃える女性へと至らしめる夫イアソン役をどのように立ち上げるのか、期待したい。
もう一方のタイトルロール、王女メディアには南沢奈央を迎える。舞台、映像に豊富なキャリアを持ちながらも、読書家で、数々の書評や自身でも連載を手掛ける南沢。ピュアな演技力に加え、その研ぎ澄まされた文学的なセンスも生かし、ギリシャ悲劇の中でも壮絶なヒロイン・メディア役で新たな一面を開花させるに違いない。
そしてイアソンとメディアの間に産まれた三人の子供たちを演じるのが、三浦宏規、水野貴以、加茂智里。複数のバレエコンクールで優秀な成績を収め、バレエダンサーとしての未来を嘱望されながらも数々の舞台に挑戦し、今や演技力・歌唱力と三拍子そろった舞台姿が話題の三浦宏規が、初顔合わせの森新太郎の演出のもと、どのような化学反応を見せるのか、興味はつきない。水野貴以は、森新太郎演出の『パレード』『奇跡の人』『モンスターと時計』に出演し、森作品では欠かせない俳優の一人だ。加茂智里はスウィング(アンダースタディ)として森の演出作品に関わっていた時に、森がその才能を高く評価して今回の出演につながった。森の信頼を得ている水野と加茂の演技にも期待があつまる。
なお、東京・世田谷パブリックシアターの企画制作公演には、今回の5名の出演者たちは初登場となるそうだ。この素晴らしい出演者による『メディア イアソン』が、 東京・世田谷パブリックシアターでの2023年度演劇公演の掉尾を飾ることになる。
数々の「メディア伝承」をベースに、フジノサツコと森新太郎がギリシャ悲劇を再構築
脚本を手掛けるのは、森が主宰するモナカ興業の作家・フジノサツコ。フジノは数多くの「メディア」伝承に着目し、異国の地で生まれたメディアとイアソンの二人が、ロミオとジュリエットのように十代でめぐり逢い、恋に落ち、そして互いに故郷を失い、逃れた地で起こる悲惨な別れまでを描き出すことで、新たなメディア/イアソン夫妻とその子供たちの物語を立ち上げていくことになるという。フジノの筆を通して、凄惨、残酷といった言葉で語られがちなメディアの物語が、メディアとイアソンの二人の固い絆とそれが失われた時に生まれる悲しみや虚しさなど、喜怒哀楽に富んだ感情豊かな作品として生れ変わるに違いない。新たなギリシャ悲劇の誕生にご期待あれ!また、演出を手掛ける森新太郎は、常に演劇シーンのトップを走り続けているが、世田谷パブリックシアター主催公演でもこれまでに、『ハーベスト』(2012年)、『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』(2014年)、『管理人』(2017年)、『The Silver Tassie 銀杯』(2018年)、『メアリ・スチュアート』(2020年)、東京・世田谷パブリックシアター×東京グローブ座『エレファント・マン THE ELEPHANT MAN 』(2020年)など、多くの話題作を創出してきた。数々のドラマティックな演劇空間を創造してきた森が、ギリシャ悲劇ならではの壮大な神話世界を、ファンタジックな要素や、喜劇的なエピソードも網羅しつつどのように演出するのか、楽しみでならない。
これまでにも多くのタッグを組み、数々の舞台を生み出してきたフジノサツコの台本と森新太郎の演出、そして精鋭5名の出演陣。夫婦と子供たちの一つの家族の誕生と崩壊が、歴史背景や国家体制という大きな枠組みの中でどのように描かれていくのか。卑近にして壮大な『メディア/イアソン』の上演を期待して待とう!!