写真左から)福原充則、林遣都、山本耕史
ビートたけし(北野武)の青春自伝を原作にした音楽劇『浅草キッド』が10月8日(日)に開幕する。
原作は、ビートたけしがまだ何者でもなかった青年時代のとある夏に、師匠・深見千三郎と出会い、苦楽を共にした芸人仲間やたくましく生きるストリッパーたちと過ごした日々を描いた自伝小説。これまでドラマ・映画化されてきたが、今回、ビートたけし作詞・作曲による名曲「浅草キッド」と共に⾳楽劇として初めて舞台化される。
脚本・演出を手がける福原充則、北野武を演じる林遣都、北野武の師匠・深見千三郎を演じる山本耕史に話を聞いた。
「本音を語らないし、繊細もしゃらくさい。だから本音は歌にした」(福原)
――福原さんはこの作品をどうつくりたいと考え、実際にお稽古が始まってどう感じていらっしゃいますか?
福原 脚本を書いているときから思っているのは、たけし(北野武/ビートたけし)も深見(千三郎)もあまり本音を語る人たちではないんです。でも隠してばっかりだと……いや、繊細な会話劇ならそれでもいいのですが、繊細は繊細で「しゃらくせえ!」という人たちな気もしていて。だからどうしようかと考えて、本音は歌にしました。それがどう立ち上がるかなと思っていたんですけど、実際にたけしが最初に歌うシーンの稽古をしたときの稽古場の、空気の締まり方って言うんですかね。僕もそうですけど、席で台本を読んでる役者たちの、シーンが始まったときの顔の上げ方とか。空気がキュッと締まって、今のところうまくいっているなと感じています。お客さんに見せたいです。「早く見せたい」という気持ちになっています。
――林さんは福原作品に参加したかったそうですが、実際にお稽古に入っていかがですか?
林 楽しいです。毎日あっという間で。全体稽古が始まるときに、福原さんが「いっぱい間違えてください」という言葉をかけてくださったんです。「脚本を読んで、自分が感じたことややろうと思ったことをとにかく自由に出してください」と。だからみんな毎回いろんなことを試していて、僕はそういう場所が大好きなのですごく楽しいです。
――現時点で山本さんのシーンのお稽古はまだ始まっていないそうですね
山本 そうなんです、僕は序盤はしばらく出ないので。今は歌稽古、タップダンスの稽古をしています。でも本読み(読み合わせ)もしましたし、稽古は見てます。
――脚本はいかがでしたか?
山本 僕は今の時点では『浅草キッド』にまつわる映像(映画やドラマ)を見ていないんですけど、脚本にイメージがあるので、特になにかに寄せるとか、深見さんご本人(の映像資料)を見るとかも必要ない気がしています。この作品の中で自分がどんなふうに居られるかな、みたいなところですね。
――ちなみに林さんはビートたけしさんに似せようと思いますか?
林 その~、そういった考えは最初からないですかね。
山本 でもなんか……役をやるからなのか、僕がそう見てるのか、「その~」って言ったところから(たけしが)入ってる気がするよ(笑)。いつもこんな感じ?
林 いつも通りです(笑)。
「林くんは特に大変だと思う。俺も大変なんですけど(笑)」(山本)
――福原さんはおふたりとは初めてご一緒されると思いますが、どんなことを期待されましたか?
福原 稽古が始まる前に思っていたことですが、おふたりともいい意味で影があるし、孤独そうに見えるなと。それはネガティブな意味じゃなくて、自分の足で切り拓きながら歩いているとか、矢面に立っているとか、果たすべき責任から逃げずにいる、という意味での孤独感を感じます。そういう役者さんが、役に少し自分も投影しながら、舞台上でいろんな人と関係性をつくって輝く瞬間というのは愛おしいだろうなと思いました。これ勝手な想像なんですけどね。でも僕は、孤独な人が舞台上だけでいろんな人とコミュニケーションを取って輝いているのを見たいと思っているので。実際どうなのかはどうでもよくて、そういう勝手な期待というか幻想を抱いて、ふたりを見ています。
――おふたりはご自身の役をやるために、これが必要になっているなと感じていることはありますか?
山本 それはもうタップダンスです。
林 そうですね。
山本 ごまかしのきかないところがありますから。RONx IIさんに振付してもらっていると、「これほんとにできる!?」って感じなんですけど、「間に合います」と言われるので、じゃあ間に合うんだなと思って。信じて稽古しています。
林 今の段階で脚本、音楽、振付も揃えてくださったということはしあわせなことだなとも思っていて。だから今は役のために必要なことというよりは、提示していただいた課題をクリアしたいと思っています。
――覚えることがたくさんありそうですね
山本 林くんは特に大変だと思う。俺も大変なんですけど(笑)。
林 これからコントの稽古も始まりますしね。
山本 あと、僕が演じる深見は指がないので、その設定がどう働くかなと思っています。昔、片腕の剣士を演じたときも、脚本に書いてあることがすんなりできなかったりして、そこから生まれたものがありました。こういう設定を逆手に取れるようにしていきたいと思いますね。
「僕が怪物だと思う松下優也くんが「師匠」と言う耕史さんは……」(林)
――出演者のみなさんの印象をうかがいたいです。特にアンサンブルのメンバーは、福原さんの作品でお馴染みの方もいらっしゃいます
福原 そうですね。こんなこと言ったらみんなに怒られるかもしれないですけど(笑)、一緒に泥の中から出てきた人たちが集まっているので。楽しくやっています。背景になってほしくないですし、グルーヴを生む大事な要素ですし、そういう人たちに集まってもらっています。
山本 いつもやってるメンバーなんですね。
福原 半分くらいはそうですね。
山本 一人一人にいいプライドを感じたんですよ。だから今、なるほどなって思いました。
――林さんと山本さんはいかがですか?
林 僕は松下優也くんが。歌も踊りもパフォーマンスのレベルが高すぎて凄いです。稽古着はいつもキャップと短パンなんですけど、松下くん本人のイメージとも違うし、(演じる)高山のイメージでもないだろうし、個人的に興味深くて、不思議な人だなと思いながら見ています。
福原 (笑)。
林 松下くんとは同い年なんです。お芝居も柔軟な方で、刺激を受けていくのが楽しみです。そしてその松下くんが「師匠」と言うのが耕史さんなので。僕は松下くんのことを怪物だと思っているので、じゃあ耕史さんはどんな怪物なんだ!?っていう……。
山本 (笑)。
林 そういう恐ろしさとワクワクが、これから楽しみなことです。
山本 稽古場が、いい意味で居酒屋に来たみたいな雰囲気なんですよ。そしてそのお店がすごく居心地がいい。仲間同士でかたまってなんかちょっとな、というような雰囲気じゃなくて、みんなそれぞれがいい距離感で、熱くて、ドライで。(福原は)そのお店の店主で、「いらっしゃい!」というよりは「あ、いるのね、座ってて」くらいの雰囲気で。どう居てもこのお店の一部になるんだろうな、という感じが珍しいなと思いました。そこで自分がどんな“一部”になるんだろうなというのがすごく楽しみです。もともと僕は枠をバーンと飛び出てやりたいほうだけど、今回の枠はとても重要な気がするから、たまに縦にピッと出るのはよくても横にはみ出さないようにしたいなと思ってます。いいお店です。
インタビュー・文/中川實穗
写真/山口真由子