脚本・演出の遠山晶司が語る『セプロミ』&プチ稽古場レポート

撮影:角田大樹

ダンスエンターテインメント集団「梅棒」の遠山晶司による企画公演”遠山ドラマティア”シリーズ第2弾『C’est Promis(セプロミ)』が10月5日(木)に開幕する。

“遠山ドラマティア”は、梅棒のメンバーで演出家・振付師としても活躍する遠山が脚本・演出・振付を手がけるシリーズ。2021年に上演された第1弾『Fight For F』に続く本作は、福岡県筑後市に語り継がれる「羽犬伝説」を元にしたオリジナルファンタジー作品で、戦国時代と現代というふたつの時代で交錯していく運命と思惑や、かつて交わした約束の行末を描く。出演は、鶴野輝一(梅棒)、古谷大和、原田樹里(キャラメルボックス)ら全19名。

稽古場より、遠山のインタビューと稽古のプチレポートをお届けする。

この日稽古場で行われていたのは、オープニングの楽曲の振付。遠山が所属する梅棒は、台詞をほぼ使わずに全編ダンスとJ-POPで物語を紡ぐという表現方法を持つが、本作にもそのスタイルが活かされ、さまざまな楽曲と共に物語が紡がれる。ただし本作はそれに加え、台詞もしっかり用いるのが特徴。それは遠山の前作『Fight For F』ともまた違う表現となる。

遠山と共に振付を主に担当するのは、梅棒作品にも多く参加するダンサーYOU。この日見学したダンスもYOUの振付が中心で、オープニングということもあるかもしれないが、1曲の中にこんなに色とりどりの表現が出てくるかと圧倒された。迫力ある群舞もあれば、アクションの要素が組み込まれたダンスもあり、殺陣や一部鶴野が振付をした部分もあった。さらに芝居も入る。ひとり一人を見ていてもかっこいいし、ステージ全体を見てもかっこいい。これからなにが始まるのかとワクワクするオープニングになっていて、作品への期待も同時に高まった。

以下、遠山インタビュー。

自分が泣けるほどの芝居がつくりたい

――『C’est Promis』はどのような経緯で生まれた作品ですか?

梅棒の第10回公演 (『OFF THE WALL』/2020年)をどんな作品にするか考えていたときに少し悲しい展開のアイデアがあって、それがもとになっています。あれをやりたいなと思っていろいろ調べているときに、九州(福岡県筑後市)に『羽犬伝説』というものがあることを知り、そこから物語をつくっていきました。

――悲しいお話が良かったのはどうしてですか?

自分が役者として泣けるほどの芝居がつくりたい、という気持ちがあるんですよ。(梅棒の公演で)コメディをやりすぎてるせいかもしれないですけど(笑)。あと僕の根っこが暗いので、どうしてもそっちに発想がいっちゃうという感じです。

――そういうお話のほうが脚本を書きやすいんですかね?

そうですね。意外と僕はドラマティックなほうが書きやすいのかもしれないです。逆に笑えるシーンのほうがすべっちゃって、めっちゃ書き直していますし……。

――(笑)。脚本を読ませてもらって、台詞がたくさんあって驚きました。遠山さんが所属する「梅棒」の公演は基本的に台詞がないですし、遠山ドラマティアの1作目『Fight For F』もその梅棒のスタイルでつくられていたので、台詞があることを想像していませんでした

今作には歴史的なエピソードが盛り込まれているのですが、それが(幕末や明治維新のように)お客さんがすぐにピンとくるエピソードではないので、台詞を使って時代背景や人間関係がわかるようにしたほうがいいと考えたというのはひとつあります。時代劇で吐く台詞ってかっこいいですしね。あと、第三弾でミュージカルをやりたいなと思っていたりするので、そのためにもあまり(梅棒の)スタイルに固執しないようにしたいと思いました。

――え、ミュージカルですか?オリジナルでですか?

はい、楽曲も全部オリジナルでやりたいと思っています。

――へえー!今作と前作も違いますし、そうやって毎回新しいものをつくっていくのですね

前作は10年くらいあたためていた作品だったので、まずはそれを実現したいという気持ちでつくりましたが、やはり作品を通していろんな人と出会いたいですし、(遠山がつくるので)ダンスが主体にはなりますけど、ダンス以外にも表現方法はありますから。自分が創造できる限りつくっていきたいです。

――ちなみに楽曲は前作のように同じアーティストで統一しないのですか?

しないです。統一は絶対にやめようと思いました(笑)。前作は脚本に着手する前に割と組んでいたのでできましたが、そうそうできるものじゃないので。

スキルフルなメンバーを集めてYOUの群舞で攻める

――今回、振付は主にYOUさんが手掛けています。YOUさんの振付にはどのような魅力を感じていますか?

梅棒のお客さんはきっとYOUちゃんの振付にかっこいいという印象を持っている方が多いと思うのですが、実はリリカルで、感情を身体で表すことが得意だったりするんです。なのでこの作品の切ない感じであったり、ドラマティックなストーリーの中にある感情を表現できる振付を、YOUちゃんがつくっています。

――梅棒とはまた違う表現になりそうですね

そうですね。さらにYOUちゃんってストリートダンスからやってきたダンサーならではの、“身体の動きで音を取る”という振付能力も持っているので、今回もそういう振付に対応できるキャストを揃えました。スキルフルなメンバーを集めてYOUちゃんの群舞で攻める、みたいなことはこの企画だからできることかなと思います。

――それが今回登場する「マスカダンサー」(YOU、新藤静香、norip、すずきゆい、明部桃子、柳原華奈)でしょうか?

そうです。マスカダンサーは情景や情感を表現します。梅棒だと、キャラクター自身が自分の感情を踊りでボンと出すんですけど、この作品ではマスカダンサーが“この人がなにを思っていて、それがどう広がっていくのか”みたいなことを踊りで表現したりします。これは面白いところかなと思います。

――主演は梅棒の鶴野輝一さんですね

鶴野さんです。なのでもう少し存在感を出したいです。

――存在感ありませんか??

つる(鶴野)はマスカダンサー以外で唯一台詞がない役なんですけど、稽古をしていると、やっぱり台詞って破壊力があるんですよね。さらに感情表現に関しても、周りが踊って表現するから本人には動きを抑えてもらっているところもある。このままではつるに目線が行きづらい……!なのでそこは演出でがんばらないといけないなと思っています。

――鶴野さんはどんな役なのですか?

みんなの想いを引き継いで行動していく役です。観ている人が感情移入しやすいのは、きりちゃん(原田樹里)になるかもしれません。心の機微が一番わかりやすいので。でもつるちゃんが一番のヒーローです!

――出演者のみなさんに期待するのはどんなことですか?

真面目な話をつくりましたが、不真面目にしちゃっていいよっていう気持ちでいます。引き出しをたくさん持っている方ばかりなので、それぞれから生まれるものを舞台上に出したい。そうやってそれぞれが輝いてくれたらいいなと思います。

取材・文/中川實穗

※柳原 華奈の「柳」は旧字体が正式表記