10月28日(土)より東京にて開幕する明治座創業150周年記念「赤ひげ」。舞台初挑戦となる船越英一郎が主演を務め、山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」を原作に、江戸を生きた無骨な医師・赤ひげと彼をとりまく人々の物語を描いていく。本作に出演する新木宏典、崎山つばさの2人は、どのように作品に挑むのか。話を聞いた。
――本作へ出演が決まって、まずはどのようなお気持ちになられましたか?
新木 僕は明治座150周年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』にも出させていただいたので、そのアニバーサリー期間にまた出演させていただけることが、すごく嬉しかったです。お話をいただいてから「赤ひげ診療譚」を読んだんですが、非常に面白い作品で。江戸時代のお話なんですが、新鮮さも感じましたし、共感できる部分も多い作品なんじゃないかと思います。それを明治座の舞台でやるとどうなるのか、とても楽しみです。
崎山 すごく身の引き締まるような気持ちです。「赤ひげ」という作品自体、テレビドラマで長く続いていた作品ですし、明治座の150周年で扱われる作品という意味でも、並々ならぬ想いを感じています。もちろん、どんな作品でもいろいろな想いがこめられていることを実感してはいますが、特に強いものがありますね。絶対に失敗できないし、参加できることが嬉しく思いましたので、自分なりにいろいろと準備して挑んでいきたいですね。
――船越さんとの共演についてはどのように感じていらっしゃいますか?
新木 先日、的場浩司さんとプライベートでお会いしたときに、船越英一郎さんと今度ご一緒させていただくんですよ、ってお話をしたら「兄貴と一緒にやるんだ!」って喜んでくださって。僕が以前、新選組の土方歳三役を演じたときに、的場さんが近藤勇役をされていたこともあって、僕にとってはプライベートでも的場さんが兄貴のような存在なんですけれど、その的場さんが兄貴と慕っているのが船越さんなので、兄貴の兄貴にお会いするような緊張もあります。でも、すごく物腰が柔らかくて穏やかな方で、場の空気を感じ取って、コントロールするのが上手な方に感じました。舞台初挑戦とお聞きしたので、これだけ芸歴のある方がここで新しいことに挑戦されているということもカッコいいと思いますし、その現場に立ち会えるというのはとても贅沢なこと。すごく楽しみにしています。
崎山 船越さんとは撮影で初めてお会いしました。僕自身はそんなに意識をしないようにしていたんですけど、やっぱり少し緊張が出てしまっていたようで…カメラマンさんに「もうちょっと柔らかく」って言われたりしてしまいました。船越さんの圧倒的なオーラは感じていましたし、“赤ひげ”がそこにいるという感覚だったので、その方と一緒にできる喜びや緊張感があったんだと思います。そして、僕にとっての兄貴は新木くんなんで。久々に新木くんと一緒にやれるのも嬉しかったし、船越さんはそんな新木くんの兄貴の兄貴ということなので、一生懸命に食らいついて行きたいですね。
――本作に挑むうえで、どんなことが課題になっているのでしょうか?
新木 保本は赤ひげ先生に会ってから触発されたり感銘をうけたりして成長する部分だけじゃなくて、それ以前に養生所でいろんな人からいろいろなことを言われて、居心地の悪い中で信念を貫こうとするような…思春期丸出し、反抗期丸出しな感じもあるんですよね。そこってとても保本にとって重要な部分だと思うのですが、それをどう消化するのかが僕にとってのひとつの課題じゃないかな。
崎山 僕が演じるのは津川玄三なんですけど、原作では津川は1度離れて最後に戻ってくるんですけど、そこまで焦点が当たっていないんですね。黒澤明監督の映画「赤ひげ」でも、序盤にしか出てこない。そうなると、舞台での津川がどう立ち回るかとか、保本の姿を見てどう変化していくのかとか、これまでに描かれてこなかった部分を自分なりにどう表現するのかが課題になる。性格もちょっと皮肉屋で掴みにくいキャラクターなんですけど、うまく自分なりに解釈できたらと思います。
――舞台版の脚本の印象は?
新木 構成として、ちょっと小ネタを挟みつつオリジナルのテンポ感で進んでいくような、飽きの来ない作りになっていると思います。後半の着地は気持ちよく終わる、良い作品になることはもう間違いないので、前半でどうお客さんを惹きつけていくのかが、舞台ならではの特色が一番出やすい部分じゃないかな。江戸時代の話ではありますが、テーマとしてはすごく重いものを扱っていますよね。現代でも追い詰められてしまうような人はいるし、もっと増えるかもしれない。命を扱っている作品だからこそ、ちゃんと覚悟とプレッシャーをもって表現したいです。
崎山 赤ひげ先生も言っているんですけど、結局、医療って情けないもので、貧困と無知との闘いみたいなところがテーマにあるんです。あれだけ人と関わって、いろいろなものを見てきた人が、情けない、って言うほどの時代の生きにくさ、それが子どもにまで影響してしまうことにすごく胸が締め付けられる思いがします。今はまだ、フィクションのように読んでいる自分も居て、でもそういう時代は確かにあったわけで。コロナ禍を経た今、それがどのように受け止められるのかもテーマになるんじゃないかと個人的には思います。
――共演経験もあり仲のいいお2人ですが、お互いのいいところは?
新木 つばさのいいところですか?
崎山 ちょっと待って、携帯で録音しとこうかな(笑)。
新木 (笑)。まず、社会人として完璧だと思います。大人ですね。社交性の部分でもすごく丁寧で、1つ1つのことに対してちゃんと意味を持ってやっているというか。関わった人たちがみんな好印象を持つことができるのは、そうやって誠意をもって接しているからじゃないかな。頭がすごくいいので、いろいろなことを考えているし、考えているからこそ悩んでもいて、そういう時は僕にも連絡をくれることもありますけど…しっかりしすぎているので、こっちも手を差し伸べることを忘れがち。僕も人に頼るのが苦手だから、本当は手を差し伸べた方が良かったっていうサインがあったはずなんですよね。そこは反省です。
崎山 兄貴、ありがてぇ…!個人的に相談することもあったんですよ。自分で言うのもなんですが、心を許す人ってやっぱり限られていて、様子を見て様子を見て徐々に心の扉を開けていくタイプ。扉自体は一応開いてるんですけど、さらに奥に入れるかは…ちょっとごめんなさい、みたいなこともあるんです。でも新木くんに関しては、すぐに扉を開かせてくれたし、男としてもカッコいい背中を見せてくれるし。僕自身は兄がいるんですけど、新木くんは東京の兄貴です。
――お芝居の面ではいかがですか?
新木 芝居の面だと、緩急だと緩を担当する人。全体的なカンパニーの立ち位置でも、緩を担当する方が相性はいいんじゃないかな。でも、急を求められて苦労する役をやらされているなーって思うことも(笑)。でも、そこもできるようになれば武器になるわけで、素材や才能とは別に挑戦していることだと思うんですけどね。個人的には“緩”の人という印象ですね。
崎山 新木くんの役者の面を間近で見ていて、衝撃を受けたことがあるんです。本当に忘れもしないんですけど、その時は人じゃなくて無機物の役だったんですけど、楽屋でポロっと「やっぱり俺はモノにはなれない」というようなことをこぼしていて。役だからと、人じゃない“モノ”になり切ろうとするところまでアプローチしているんだ、と驚いたんです。もう、そういうところが大好きなんですよ。演出をされていた時も、本当に細かいところまで見てくれて。ダメだしというか、選択肢をくれるんですよね。仕事に対するストイックさは本当にすごいし、いつ寝てるんだろう?とかそういう心配する領域はもう超えました(笑)。最初はすごく心配でしたけど、それがこの人の生き方で、今はそこについて行きたいですね。
新木 いや…嬉しいですね。ありがたいことですよ。
――本作は明治座150周年記念の1作ですが、明治座という劇場の印象はいかがでしょうか?
新木 正直、昔はちょっと敷居の高いイメージがありました。着物を着たおばさま方がおしゃれをしてくるような、特別な場所っていう印象だったんですね。だから、初めて出演させていただくときも少し不安だったんです。僕を応援してくれているファンの方が、いつもと違う雰囲気に戸惑ってしまうんじゃないかとか、普段から明治座に来ているお客さまからするとズレているようなことにならないか、とか。それくらい、畏まった場所だと思っていたんです。でも、全然違いました。常に新しいことに挑戦されていて、時代のニーズに合ったものを生み出しているんです。チャレンジ精神を常に持っていて、それを楽しんでくれるお客さんとの信頼関係があるから150年も続いているんだなと、前月祭に出させていただいたときに実感しました。明治座がそういう場所であることを、僕を応援してくれているファンの人にも教えたいと思ったし、その場所に立てる幸せを強く感じています。
崎山 僕にとっては、計り知れないほどの大きな存在です。文化のひとつであって、役者として明治座の舞台に立たせていただけることが、どれだけ崇高なことなのか…だからこそ、お話を頂いたときに、本当に身の引き締まる思いがしました。でも、新木くんが言うように、キャスティングだけを見ても挑戦している劇場だということがわかると思います。その挑戦として、自分を選んでくれたことに喜びを感じますし、期待以上に応えないといけない。それ以上のものを残したいと思わせてくれる場所です。そして、のぼりがでることも嬉しいんですよ。僕にとっては初めてのことなので。そういう気持ちを乗せてくれる、大きな船だと思います。
新木 芸能界に入って、憧れることってあるじゃないですか。長寿番組に出て司会の方と話したかったとか。でも、番組が最終回になって叶わなかったこともたくさんあります。明治座に立つ、ってそういう漠然とした芸能界への憧れのひとつですよ。こんなに大きな劇場で、自分の名前のカラフルなのぼりが立っているというのは、本当に贅沢なことですね。
――最後に公演を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします!
新木 先日、オランダに行ってきたんですが、そこで「レ・ミゼラブル」を観てきたんですよ。明治座の印象ってそこでの印象にすごく近くて。オランダの劇場は、チケットを買ったら劇場内のレストランで家族とかと夕食を食べて、その後にお酒なんかを手に観劇するんです。その日本版がまさに明治座で、幕の内弁当なんて言葉があるように幕間に食事をとれたり、買い物を楽しんだり、アミューズメントのような場所なんですよね。エンタメとしてすごく贅沢な空間だと思うので、素敵な想い出になるように僕たちも努力していきたいと思います。ぜひお越しください!
崎山 人が辛酸をなめて頑張っていって、それでも道半ばで倒れてしまうような、生きることの大変さや辛さを描いた作品です。でも、そんな登場人物がポロっとこぼした言葉の中に、生きるヒントが隠れていて。生きている中で見逃してしまいそうな、普通に生きていたら聞けなかったような言葉が作中にたくさん散りばめられています。僕が感じたことを、作品としてご覧になった方にちゃんと伝えられたら。今は、そういう想いが一番強いですね。楽しみにしていただければと思います。
取材・文/宮崎新之