劇場で体感することで、きっと心が癒される
新海誠の名作「言の葉の庭」が舞台化される。ヒロイン・雪野百香里を演じるのは谷村美月だ。20代の頃に本作にふれ、以来、ずっと好きな作品だったと思い入れを語る。
「中でも魅力を感じたのが、雪野さん。ミステリアスで、どこか儚くて。20代の頃の私には雪野さんがとても大人に見えたけど、雪野さんよりも年上になった今改めて見ると、よりいろいろな目線が混じるというか。いろんな重いものを抱えている人で、儚いという言葉だけで彼女を表現することはできないな、と感じています」
あることがきっかけで味覚障害となった雪野は、雨の庭園で出会った高校生の秋月孝雄との時間に安らぎを覚えていく。
「2人の関係は恋愛ではない、と今の私は捉えています。傷ついた雪野さんにとって、秋月くんは支えになっていて。たぶんそれは秋月くんの中に自分と同じものを感じたから。雨の朝は学校を休む。あの場所で同じ時間を過ごすことで、少しずつ2人の心が重なり合っていったんだろうなと思います」
アニメは、上映時間46分の短編。これを舞台作品として膨らませていくにあたり、重要な材料となったのが、新海誠自らが書き下ろした「小説 言の葉の庭」だという。
「私も小説を読ませていただいたのですが、アニメでは描かれなかった雪野さんの心の揺れ動きが繊細に描写されていたり、他のキャラクターのエピソードがオムニバス的に入っていたり、私がまだ知らなかった『言の葉の庭』にふれることができました。結構、色々な考えが交錯したり、気持ちがすれ違うエピソードも多くて。だからこそ、秋月くんと雪野さんの時間がオアシスのように感じたんですね。ぜひ劇場にお越しになる前に小説も読んできていただけたら、よりこの舞台を深く味わっていただけると思います」
秋月孝雄を演じるのは、岡宮来夢。谷村とは、本作が初共演だ。
「一言で言うと、とても綺麗なものを持っている人。ああいう美しさって10代までだと勝手に思っていたのですが、それを今も持ち続けていることにびっくりしましたし、すごい方だなと思いました。なぜなら、舞台上では全てが曝け出されてしまうと思うので」
本作は、イギリスと日本で異なる2つのカンパニーがそれぞれ舞台を制作する英日連携企画。8月に上演されたロンドン公演の映像は、谷村の目にはどう映ったのだろうか。
「舞台に立つ人間をすごく信じているんだなと思いました。演出のアレックスさん(アレクサンドラ・ラター)が得意とする身体表現が取り入れられていて、言葉以上に伝わってくるものがありました。アレックスさんが別の取材で『劇場に癒されに来てください』とおっしゃっていたんですけど、まさに私も同意というか。秋月くんと雪野さんの空気感だったり、そこに吹く風だったり、そういうものを体で感じることで心が癒される作品だと思います。イギリスの演出家ということもあって、日本の演劇にはなかなかないタイプの作品。アレクサンドラ・ラターさんのフィルターを通して生まれる舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』を体感していただけたら」
インタビュー&文/横川良明
※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
谷村美月
■タニムラ ミツキ
12歳のときにNHK連続テレビ小説『まんてん』で女優デビュー。以後、数多くの映画やテレビドラマに出演する。