TAAC『狂人なおもて往生をとぐ』│タカイアキフミ、三上市朗、永嶋柊吾、福永マリカ、千葉雅子 インタビュー

写真左から)三上市朗、福永マリカ、千葉雅子、永嶋柊吾

タカイアキフミが主宰を務めるプロデュースユニット TAAC(ターク)による、傑作戯曲演出シリーズの第2弾・清水邦夫作『狂人なおもて往生をとぐ』。公演ごとに様々な表現者に声をかけ、魅力的なキャスティングを行うTAACの主宰・タカイアキフミと、本作に参加する三上市朗、永嶋柊吾、福永マリカ、千葉雅子に、稽古がスタートして1週間程度というタイミングでインタビューを行った。

――稽古が始まり、形が見え始めたところかと思います。意気込みを教えてください

三上 実際にみんなで声を出してやり取りをすることで、色々なものを発見できています。この先も変化していくだろうという印象ですね。

千葉 すごく素敵なキャスティングだという思いが毎日更新されています。あの頃の戯曲から飛び出してきた人たちと会えているような気分になりますね。

永嶋 目を見てやりとりすると全然違うなと思います。千葉さんがおっしゃった60年代の時代性というところまではまだ考えられていませんが、家族一人ひとりに対する想いみたいなものは少しずつ見えてきました。

福永 家族ゲームをしている家族の話ですが、“家族ごっこ”の中に急に真実味が見えてきます。自分の核に触れるような瞬間を探したり手放したりしていけたらいいかなと思っています。

タカイ 楽しみながら苦しむことができているのはいいのかなと思います。ベテランも若手も平等に悩んで楽しんで同じ方向に歩めている感じがあるので、このままいい芝居が作れたらと思っています。

――三上さんから「色々な発見がある」というお話がありました。稽古を通しての発見や気付きをお伺いしたいです

タカイ 僕がTAACで自分の本を演出する時は、形や声色といった形式にとらわれたくないという思いが強いです。でも、この戯曲は形も重要だなと思うようになってきて、今までのTAACの公演で培ったものと今回皆さんと一緒に作るものを掛け合わせて、新しいモノができたらと思っています。

千葉 私は60年代生まれで、どうしても当時の空気に意識が行きがちですが、「永嶋さんって東大全共闘の芥正彦さんに似ている!」と思いました。あの時代の声、喋り方、雰囲気をすごくリアルに体現していると感じます。戯曲がなせる技なのか永嶋さんが持っている雰囲気なのか。発見でしたね。

三上 千葉さん以外は初共演なので、どんなアプローチをするんだろうというところから始まりました。まだ初期段階ですが変な心配もなく、今後も苦しむだろうけどこの座組を信頼できると思うし、もっと上を目指せそうだという確信が見え始めました。

永嶋 (千葉に)ありがとうございます。1人で読んでいる時は台本に振り回されたんですが、僕がそう見えたならセリフの強さ・パワーのおかげだと思います。手がかりをフックにやっていけば、少し見えて来るのかなと思います。

福永 1人だと読めば読むほど困惑して「どうしたらいいんだろう」と思っていました。でもいざ皆さんとお芝居してみると、普通の家族のやりとりなのかもしれないと感じます。その時々のポジションを守りあっているというか、「お母さんがこう言うから娘はこう言って場を保っている」とわかってくるような発見がありました。

――タカイさんがSNSで「TAACらしい仕掛けとTAACとしては珍しい舞台美術」という話をされていたので、もう少し詳しくお聞きしたいです

タカイ 今までのTAACはどちらかというと具象の美術が多かったんです。具体的な空間を作って、それがまた違う場所に見えたりする演出はしてきましたが、今回はかなり抽象度が高いです。ただ、椅子やパネルといった個々のテクスチャにはいつもこだわっているので、そこはTAACらしいのかなと。ちょっとした仕掛けもありますが、そこは劇場に来てのお楽しみにしておきたいです。一つ言えるのは、崩壊し始めている家族が“家族ごっこ”を通して家族の形を取り戻そうとする戯曲をしっかり表現した美術プランになっているんじゃないかということです。

――稽古が始まってみて、いかがでしょうか?

三上 とてもギスギスしてますよね(笑)。

タカイ してません(笑)。

千葉 少人数だからあっという間に家族的な関係性ができあがりました。それ故にお父さんがこんなコメントをしています(笑)。

一同 (笑)。

千葉 とにかく大きな山なので、和気あいあいと楽しく取り組めるものでもない。ただ、チームワークは早いうちにできていると思いますね。

――ディスカッションを重ねながら作っていくお芝居だと思います。印象的だったことはありますか?

福永 三上さんが「とにかくみんなでセリフを回してみよう、とにかくやってみよう」と提案してくれました。何度も声に出して読んでみるという稽古をしたことで、「自分の中で完成したものを持ち込んで披露しなくていいんだ」と気が楽になりましたね。

三上 稽古のスタイルって色々あるけど、ディスカッションしながら作るのが今回はいいのかなと思います。これが正解かはわからないけど、本番が始まって「これで良かったんだ」と思えるような稽古を重ねていきたいです。

――現時点での見どころ、演じる上で楽しみなことを教えてください

三上 色々な部分で共感してもらえる物語だと思いますね。個人的に好きなのは千葉さんの絶叫です。

千葉 最近あまり聞かない調子で、ロマンチックなセリフを苦しみながら若い人が語るのはグッと来ますね。あと、三上さんがギアを上げてより低くなった声を出した時に吸い込まれるような感じになります。

永嶋 数分に1回見どころがあって、だれる瞬間のない作品です。あと、僕は基本わーわー言っているので、他の家族だけになった時のちょっと静かなシーンはホッとするんじゃないかなと思います。

福永 聞いていて気持ちいい音のセリフがたくさんある。韻を踏んでいたり調子が良かったり、流れがいい、流れが止まるのが気持ちいい部分もあって。あまり考えすぎずに身を任せてもらったら楽しんでいただけると思います。

タカイ 汚い言葉もたくさん出てくるけど、品を感じる作品です。それは清水邦夫という人のものかこの戯曲のものかはわかりませんが、美しさや品を演出家としてしっかり表現していきたいですね。

――今回は客席が二面。複数回観る方もいらっしゃると思うので、何回か観る方に向けた注目ポイントがあれば教えてください

三上 単純に2回目では印象も変わってくると思いますし、見る角度が90°変わるので違う作品を見ているような感覚を味わえると思います。まずは1回来てほしいので、タイトルや雰囲気などで二の足を踏まずに足を運んでもらえたらうれしいですね。

千葉 口に出しているセリフと裏腹な思いが渦巻いているシーンが多いので、見る場所や焦点によって印象が変わると思います。「お父さんがこうだったら娘はどうだろう?」という見方をしてもらうとより楽しめるのかなと思います。

永嶋 僕が以前TAACさんでやった二面舞台は日常的なお話しだったので、二面だからどうということは考えずに演じました。でも、何回か見たお客さんは、僕らが気付かないようなことまで気付いていましたね。

タカイ 作り手も意図していないくらいの発見があるんですよね。

福永 客席がすごく近くて目の奥まで見えそうな距離を楽しんでほしいです。今回、嘘と本当が混在していて、急に目の奥に現れると感じる瞬間が多くて。お客さんも角度を変えてみたらドキッとする部分があるんじゃないかと思います。

タカイ どちらの面からも楽しめる作り方をしていますが、「どちらかというとこっちの方が美味しい見え方だな」というシーンは各サイドにあります。三上さんもおっしゃっていましたが、違う景色に見える可能性がたくさんあると思いますね。あとは以前二面でやった『世界が消えないように』での印象ですが、Aサイドは客観的にお芝居を見る感覚。Bサイドは本当に近いので、自分も家族の一員になったような臨場感が味わえると思います。

――公開されたビジュアルを見て、作品から受けるイメージとちょっと違うと感じました。ビジュアルの意図や完成したものを見た感想を教えてください

タカイ 今回宣伝美術をデザインしてくださったのは藤尾勘太郎さん。初めて一緒にお仕事しますが、最初にお会いした時に「清水邦夫っぽくない、この戯曲から遠く離れた、でも細い糸で繋がっているようなビジュアルにしたいね」というところから始まりました。ともすれば熱が有り余ったビジュアルになる可能性もあると思いますが、現代の人たちってそういうものを内に秘めているような気がする。それをビジュアル化できたらいいなと思っていて。崩壊しかけている家族が家族ごっこを通して再生を図るというところで、フィギュアが理想の家族像・円満な家庭の象徴である家族写真を撮るという違和感、せめてもの理想みたいなことを表現できたらという思いでこういったビジュアルになりました。

福永 元々藤尾さんのビジュアルが好きなので、ついに私も藤尾勘太郎ビジュアルの中に! と嬉しくなりました。人に見せたくなるビジュアルってすごく大事だと改めて思いましたね。タカイさんがおっしゃっていた品みたいなものもあるビジュアルになっていますし、写真だと伝わり切らないですが、本当にいい衣装。嬉しい気持ちで撮影できましたね。

――これから稽古を進めていく中で、タカイさんからキャストの皆さんに期待することはありますか?

タカイ クリエイティブの責任を持つのは僕ですが、この座組の1人として皆さんと一緒に悩み、苦しみ、楽しみながら作っていきたいと思いましたね。色々な意見を出してもらい、それを僕が上手くジャッジしていい作品にしたいです。あとは、1960年代に書かれた戯曲ですが、今生きている人間が演じる意味みたいなものを一緒に探っていきたいですね。

――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします

千葉 清水邦夫の比較的初期の戯曲を地下の小劇場で、絶妙なキャスティングで上演する、タカイさん率いる特別で貴重な企画です。これを見逃すともったいないですよと声を大にして言いたいです。

永嶋 それぞれの登場人物が何を信じてどこに向かうのか。そのためにどう生きていきたくて頑張っているのかという話でもあると思います。見た方に何かを思ってもらえるだろうと感じる作品なので、ぜひ来ていただきたいです。

福永 「すごくわかる」と思っても「全くわからない」と思っても、きっと「見て良かった」と思っていただける気がしています。そう思える要素がすごくたくさんあるので、来た方がいいと思いますね。

三上 品のない役者や周りを見られない役者がいない座組です。どんな作品もそうですが、スタッフを含めたチームで作るものなので、抜群のチームワークを見に来て欲しいですね。このカンパニーならもっと上の景色まで持っていけると確信しています。

タカイ 誰にでも当てはまるような普遍的な家族をテーマにしているので、清水邦夫の名前や『狂人なおもて往生をとぐ』というタイトルの難しさで敬遠されたくないです。言葉などは昭和のものも出てきますが、感じるところの多い芝居になっていて、皆さんの心に届くシーンの連続だと思います。美しい瞬間、家族というものの温もりと寂しさのようなものを表現できればと思っていますので、ぜひご来場ください。

インタビュー・撮影/吉田 沙奈