©舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』 2023
新海誠監督による劇場アニメーション・小説『言の葉の庭』が舞台化。英日連携企画として上演される今作は、アレクサンドラ・ラターの演出によるロンドン公演を経て、2023年11月10日(金)~11月19日(日)に、日本キャストによる東京公演が東京・品川プリンスホテル ステラボールにて上演される。日本公演で秋月孝雄役を務める岡宮来夢と雪野百香里役の谷村美月による取材会が行われた。
――新海監督による劇場アニメーションと小説の両方を原作とした物語になっています。脚本のどんな部分に魅力を感じましたか?
岡宮 元々アニメーションを見ていて、演じるにあたって小説も読みました。小説は登場人物たちのバックボーンも鮮明に書かれていてちょっと辛くもあり、その中で懸命に生きるタカオやユキノさんの人間臭さ、支えのようなものがあることに魅力を感じました。
谷村 アニメーションを見た時は謎めいた人だと感じていました。色々なことを抱え、学校であまりうまく行っていない背景を知って、この役を演じるのは非常に重いと感じました。
――小説ではアニメーションに描かれていない登場人物についても描かれています
岡宮 (相澤)祥子や伊藤先生についても詳しく書かれていて、読み進めると「なるほど」と思えました。僕自身は長野の田舎でのほほんと楽しく育ってきたのであまり当てはまりませんが、自分を重ねる人も多いと思うし、そういう方にとって「自分だけじゃない」と救いになる作品だと思いますね。
谷村 ユキノさんの過去に深く関わっている相澤さんのこともそうだし、教師を目指すきっかけも小説では書かれています。そこはぜひ舞台でも描いてほしいなと思いながら稽古に参加しています。
――アレクサンドラさんの演出や稽古で印象深いことを教えてください
岡宮 僕らが感じたこと、こうした方が面白いというアイデアを教えてほしい、一緒に作りたいと言ってくれてすごく嬉しかったです。カンパニーもあたたかくて穏やかで、憩いの場のようになっています。
谷村 私が出演した舞台は「ザ・お芝居」が多かったので、慣れている皆さんに聞きながらやっています。この作品で新たなスタートを切りそうな感じがしていますね。言葉ではなく身体を使ったパフォーマンスがあったり、場面転換も一つのパフォーマンスになっていたり。ワークショップの経験も少なかったので、いまだに慣れませんが楽しんでいます。
――ロンドン公演を見て、どんなことを感じましたか?
岡宮 劇場に入った瞬間「わ、新宿だ!」と思うような空気作りがされていました。新宿の街並みが映っていたり、1幕と2幕の間にJ-POPが流れたり。嬉しかったのは、「こんにちは」などの挨拶を日本語でやっていたこと。海外で生まれた作品が日本に来て日本人が演じることは多いけど、日本の作品が海外に行き、それを現地のキャストさんが演じているのを初めて見たので、すごく嬉しく感じました。今後も日本オリジナルの舞台が世界に羽ばたいていったらいいなと思います。
谷村 映像でロンドン公演のユキノさんを見て、すごく日本的なお芝居だと感じました。日本っぽくしているんじゃなく、湧き出る感情が日本人らしいなと。そこは引き継ぎたいと思っています。
――舞台作品としての魅力、見どころはどこでしょう
岡宮 OHPを使ってリアルタイムで映像を作っていくシーンがあります。毎回違う景色になっていくだろうし、それによってお客さんの感情も変わると思います。あと、ダイナミックというよりは繊細な演出がすごく多いです。息を呑んだり呼吸を忘れたりするシーンも多い。僕はそういった静寂がすごく好きなんですが、この作品ではそんな神秘的な感じがずっとあると思いますね。
谷村 まだ全体が見えていないんですが、想像以上にパフォーマンスへの参加が多いです。今までお客さんの前でそういった表現をしたことがないのでドキドキしますね。身体表現においてソロのような部分も作っていただいていて、申し訳ないなと思いながら挑んでいます。
――役作りのためにしたことは何かありますか?
岡宮 雨ではなかったけど、物語の舞台になった場所に行きましたね。あと、ワークショップの中でみんなで靴を描いてみる時間があって、すごく真剣に挑戦してヒールの靴を1分で描けるようになりました。でも、役作りについて悩んでいる部分もあって。いつもは漫画やアニメ原作だとリアリティを持ちたいのであんまり見ないようにしているんです。今回は新海さんが書かれた小説があるので、心の内側の描写はできるだけこぼさずに作っていきたい。アニメーションで印象的な絵は舞台でも残せたらいいなと思いながら試行錯誤しているところです。
谷村 オーディション段階で、皆さんにがっつり動いてもらっているという話も聞いていました。私が過去に出演した作品で、私がセリフを言っている後ろで表現をしてくださっている方がいたり、私自身中学時代にジャズダンスをやっていたり、お仕事でクラシックバレエも少しやっていたりと、身体表現に興味があったこともあり、コンテンポラリーダンスを専門の先生のもとに教えてもらいに行きました。
――物語のキーワードである「雨」や「靴」にまつわる思い出があれば教えてください
岡宮 僕、めっちゃ晴れ男なんです。でも今年初めて海外に行って、ニューヨークの景色がすごくきれいだという場所に行ったらものすごい暴風雨で。人生初の海外が全部雨で悲しかったです。あとは学生時代に『ショーシャンクの空に』ごっこをしたとか、変なエピソードばっかりです(笑)。
谷村 学生の頃、雨が降ると体育の授業が室内になるのがすごく嬉しくて、今もその感覚が続いています(笑)。雨の日は気持ちが晴れやかですね。
岡宮 靴のエピソードあるかな……。
谷村 1分で描けるっていうのは靴のエピソードじゃないですか?
岡宮 確かに。それです!
――作中では岡宮さんがその場で靴を描く可能性も……?
岡宮 イギリス版では(タカオ役の)ヒロキさんが描いていたので日本公演でもその演出は残るんじゃないかと思っていますが…まだ模索している段階です。
谷村 靴については考えてなかった。
岡宮 どんな靴が好きですか?
谷村 足の形のせいでいつも苦戦しているんですよね。
岡宮 作らないといけないですね。
谷村 作中みたいな感じで(笑)。よろしくお願いします!
――初共演ですが、稽古を通して見つけた一面などはありますか?
岡宮 カンパニーのみんなが谷村さんを好きで、稽古場で話しかけたがってるんですよ(笑)。そんな中、不思議な動きをされていたりして、5歳なのかなみたいな(笑)。すごくフランクに接してくださって嬉しいです。
谷村 動きについては、場を和ませようと思って。皆さん年下で、気を遣ってくださっているのもわかったんですが、シリアスなシーンも多いのであんまりおしゃべりをするのも……と思った結果、変な動きの印象が残ったんでしょうね(笑)。
岡宮 (笑)。
谷村 岡宮さんは好青年という言葉がぴったり合う方。引っ張ってくれる座長さんですごく助かっています。
――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。
岡宮 アニメーションや小説を知っている方にもそうでない方にも、舞台ならではの表現で舞台ならではの感じ方をしていただけると思います。原作をリスペクトして一生懸命作っています。一緒に苦しくなってほしいし、心に留めながらこれから過ごしてほしい、辛くもありあたたかさもある作品だと思いますので、ぜひ期待して見に来ていただけたらと思います。
谷村 私自身この作品のファンです。舞台化は「こんな表現方法があるんだ」と感じますし、ユキノさんとリンクしますが「人がこれだけできるんだ」と思います。休憩なしで通すのがまだ想像できないですが、みんなの手で作り上げていく過程が眩しいです。胸いっぱいになりそうだと感じています。
インタビュー・撮影/吉田 沙奈