ドラマ・リーディング『庭の木と四つの物語』 初日レポート

2023.11.13

ドラマ・リーディング『庭の木と四つの物語』夏〜『ベティ・ド・ラ・ポンシュ』〜 そして…秋〜『トレアドール』〜が、六本木トリコロールシアターにて上演中だ。ウォルター・マッソーとイングリッド・バーグマン主演でハリウッド映画にもなった『サボテンの花』の原作としてもよく知られるバリエetグレディによる作品で、パリの庭付き瀟洒な館を舞台に、四季の移り変わりの中、季節ごとにこの館に生きる住人が変わる、大人の男女恋物語を描く。今回上演されるのは「夏」と「秋」だ。

キャストは、綾凰華、富本惣昭、上田結心、大高洋夫の4人。演出は、2019年に野坂実演出の本作品で渡辺裕之とともに主演を務めた白樹栞。台本を手にセリフを読むリーディングではありながら、椅子に座って読むスタイルではなく、動きを付けながら会話を交わし、物語が進んでいく。舞台には様々なスタイルの美しい椅子が並んでいて、ピアノの音が観客を出迎えてくれる。カフェで流れているような、ゆったりと癒される音色だ。カラフルな洋服がかかったラックや、曲線の足が美しいテーブル、テーブルの上の古い電話などに、優雅な印象を抱きながら開幕までの時を過ごした。

物語冒頭は、長い時をこの家で過ごしてきた夫婦(綾、大高)が別れる場面からはじまる。離婚することになり、この家の旅立つようだ。二人の後ろにはランプが置いてある。以前上演された同作品「春」のタイトルは「春〜ガレのランプ〜」なので、春に描かれた夫婦なのだろうと想像させる。つづいてストーリーテラー(富本)が語り出し、この物語は「家」が主役なのだと明かした。筆者自身も感じることがあるが、自身の様々な感情を隠すことなくさらけだしてきた家は、全幅の信頼を寄せる場所でもあり、自分を一番知ってくれている存在のようでもある。そこに住む人々が入れ替わっていっても、変わることなく存在する「家」が主役の物語で、どんなドラマが繰り広げられるのか興味深く観入った。

「夏」は、これから結婚するカップルが、新居を見にやってくるところからはじまる。登場人物は、若い女性ジェシカ(上田)と父親くらいの年齢の婚約者ボブ(大高)、女性の母親ベティ(綾)、家の販売を担当している不動産屋(富本)の4人。新しい家を気に入って、未来を楽しみにするふたり。ジェシカはこの日初めて母親をボブに紹介するという。ジェシカと同じワンピースで溌剌と登場したベティ。姉妹のようといわれる仲の良い母娘だとわかる。ジェシカは、犬を迎えに行くと場を外し、ベティとボブはふたりになって話をはじめる。次第にふたりが若い時に出会っていたことがわかる。ここの会話が進んでいくと、ふたりの関係性、力関係が変化していくのが面白い。夏のタイトルは「ベティ・ド・ラ・ポンシュ」だか、毎年やってくる夏に、ベティはどんな経験を重ねていったのか。ひとりで娘を育て上げた母親の強さが光る。

「秋」は、あまり乗り気でなはい若い男性と、彼に強く愛情を注いでいるであろう女性が家に入ってくるところからはじまる。登場人物は、パトロンの女性(綾)、ジゴロ(富本)、家の壁を塗り直しているペンキ屋(大高)の3人。女性はこの家で、彼に愛を捧げたいと思っているが、彼は積極的ではないようだ。この家をさらに自分好みにするために、ペンキ屋に壁を塗ってもらっている。若い彼が立ち去った後、女性とペンキ屋が様々に話を重ねていく。秋の物語でキーポイントとなるのは、タイトルの「トレアドール」。ビゼー作『カルメン』第1組曲の「トレアドール」のことだが、この音楽ををかけることでさらにドラマが動く。「夏」では溌剌とした強い女性を演じていた綾が、「秋」ではコンプレックスを抱え、不安そうなマダムを演じていて、対照的な役柄を魅力的に演じている。ふたりの女性に対峙する男性を演じる大高は、コミカルさを交えながら人物を巧みに見せ、彼の生きてきた年月を浮かび上がらせる。

「冬」にはどんな物語が紡がれるのだろうと余韻が残る、夏と秋の物語。具体的なセットがない分、この家はどんな姿なのだろうと想像するのも楽しい。観客それぞれが思い描く家で、次に巡り合う人々を想像しながら舞台を後にできるだろう。

文/岩村美佳