【連載】第8回「ボクには下校のチャイムが聞こえない」

2018.09.05

「ゴジゲン」の目次立樹(メツギリッキ)です。本名です。
昨年、第14回公演『くれなずめ』で連載させていただいた「ボクには下校のチャイムが聞こえない」!!
今回も第15回公演『君が君で君で君を君を君を』に合わせて連載させていただけることになりました。
ローチケさん、ありがとうございます!!
なかなか下校できない大人たちに贈る、甘酸っぱくない、むしろ饐(す)えたテイストのコラム、スタートです!!

 

わたくし目次といえば稽古場一番乗りである。
開闢以来そうと決まっている。
しかしその日は違った。
8月28日稽古初日、私はいつものように一番を決め込んで稽古場に到着した。
しかし、そこには私より先に到着した松居がプカプカとうまそうにタバコをくゆらせているではないか!

何かの見間違えかと思ったが、見まごうことなき立派な天然パーマがそこにはあった。
松居といえばいつも稽古ギリギリに来る男である。
開闢以来そうと決まっている。
わたくし目次の乳首がTシャツの上からでも24時間常に形が浮き出るのと同じくらい歴然とした事実なのだ。

「一体この男に何が起きたんだ…。」

いつもの私なら見なかったフリをしてスーッとUターンしていたことだろう。
そのぐらい二人の距離感はデリケートなのだ。
スイーツに例えるならスフレぐらい。

しかし、今日は違った。
私は自転車置き場にチャリを止め、堂々と彼のすぐ隣に腰を下ろした。
そう、私には覚悟があった。

思えば、今回の作品は、我々にとって因縁の作品であるのだ。
時は2011年。
神をも恐れぬ勢いで演劇界を驀進中だった我々は、名だたる劇団さんから客演を呼び、駅前劇場を3週間抑えるという勝負に出た。
作品の内容も、愛し方を間違えてしまったストーカーたちの共同生活を描いた怪作であった。
結果、見事2000人を動員。
大博打に勝ったと思われた。
しかし、まさかの大赤字。
今までの傷を隠すように走り続けた我々は内部からも崩壊。
活動休止という決断を余儀なくされた。

その後、3年の月日を経て復活を果たす。
それもこれも休止中もゴジゲンを支えてくれたたくさんの人々のおかげだ。
ありがたいことだ。
さらにこの夏、『君が君で君だ』で映画化も果たした。
とてもソウルのこもった作品だ。
そして、今一度、同じ駅前劇場の舞台上で、眠りにつけないあの頃の感情たちを永遠に成仏させる時が来たのだ。
その覚悟が私に松居と改めて向き合う勇気を与えてくれた。

そう、今回の作品テーマは「愛」だ。

おまえもはやる気持ちが抑えきれずにこんなに早く来ちゃったんだろう、松居?
こうしてゴジゲンの旗揚げの二人だけが、初日に早く来て顔を突き合わすのも何かあると思うんだ。
そうは思わないか?
おれはもう、隠さないぜ。
今まで照れたりして、おまえとの距離感を見誤ってきた。
だが、やっぱりおれはおまえの作る作品に胸が躍るんだ。
そして今回、この作品に、おまえにまっすぐ向き合うんだ。

「なぁ、松居、おれさ、最近さ、ワークショップでさ、舞台上でのフェイクキスのやり方を習ったんだ」
「へ~、どうやるの?」
「ちょっと、顔かしてみ」

私は彼のあごを持ち上げて、おもむろに顔を近づけた。
そして、彼の頬に触れた自分の親指に口づけをした。

「こうやってやんのよ」

「……お、おぉ」

その後、何事もなかったかのように二人のとりとめのない会話は続いた。

果たしてこれで向き合ったことになったのだろうか?
読者のみなさんは疑問に思われるかもしれない。
でもこれでいい。
これでいいんだ。
間違ってると言われてもいい。
嫌われたっていい。
それで傷ついてもいいんだ。
だってそれが愛だろう?

その後、二人の違和感をかき消すように最強が現れ、僕らはもう一本たばこに火をつけた。

 

つづく(もしくはつづかない)

 

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