知られざる歴史の追体験に挑む、TEAM NACS最新作
今やすっかり全国区の人気役者集団となった演劇ユニットTEAM NACS。メンバーの森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真は各自の個性を生かし、八面六臂の活躍を見せている。そんな彼らの根っこ、芯の部分とも言えるのがTEAM NACSの本公演だ。その待望の最新作、第16回公演『PARAMUSHIR ~信じ続けた士魂の旗を掲げて』が、いよいよ始動! リーダーの森崎によると、メンバーの故郷である北海道が二分されていたかもしれない、という歴史上の出来事をベースにした物語になるという。
森崎「終戦は8月15日だとみんな認識していますが、実はその後も北の果ての島でいろいろなことが起きていたなんて、北海道に住んでいる僕らもまったく知らなくて。僕らは北海道の劇団ですし、もう年も年なので、ちゃんとこういう話を語り継いでいくことをやってもいいんじゃないかと思ったんです。かなり骨太で、かつセンシティブなものになりそうだとも思いましたが、でもこれはやっぱり僕らが育ててもらった北海道への想いが一番出る作品になるとも思いました。今回はこのアイデアでいこうと、もう1年以上も前に決めたんです。そうしたら最近、北海道に住んでいると朝から警報が鳴るような時代になってしまって。このタイミングで良かったんだろうかと思いつつ、でも今だからこそ考えたいことでもあるなと思ったんです」
この気になるタイトル『PARAMUSHIR』だが、これは森崎の“演出意図”として、あえて読み仮名を入れずにいるのだとか。
森崎「お客さんには、読み方がわからないまま劇場に来てほしいんです。舞台となる〝幌筵島〟は『なんて読むんだろう?』くらいの思いでいてもらえれば。だって、チラシにも書いてありますが『私たちはまだその島の名前すら知らない』んですから(笑)。芝居のセリフには出てくるので、そこでわかるんですけどね。そんな、タイトルが読めなく、本番を見てようやくわかる芝居なんて、あまり聞いたことがなくて斬新じゃないですか(笑)」
北の果ての“幌筵島”で、ようやく家に帰れる、家族に会えると思っていた兵隊たちを、終戦したはずなのに謎の軍隊が攻撃してくる。
森崎「戦争に負けて思い切り気持ちが下がったところで、でもやっと故郷に帰れるんだと思い直して、戦車をバラしたり、飛行機から爆弾を下ろしたりしていたら、いきなり謎の軍に攻められ、撃ってくるからこっちも撃ち返さなきゃいけない。その状況で下がった気持ちをグっと上げるなんて、どれだけのことだったんだろう。現代の僕らには絶対わからないだろうけど、だからこそこの作品で追体験してみたいと思ったんです」
しかし、戦争をモチーフにしているとはいえ、そこはTEAM NACSのこと。メンバー5人に、アンサンブル15人を加え、あくまでも“エンタテインメント”にこだわったステージングを目指すとのこと。
森崎「やっぱり戦争を描けばどうしても悲劇になり、戦いで人が死んでいくわけで、かなり暗い話にはなっていくと思うんです。もしこれがテレビのドキュメンタリー映像だったら、それは見る人を選ぶことになってしまうかもしれない。でも僕らがやる意義はそこではなく、あくまでエンタテインメントとして大勢に見ていただくことにあります。今回はキャパが大きい劇場が多いので、そういう場所でナマで僕らは何をどう見せるのか。こぢんまりとしたものではなく、広大なスケールで、ド派手にしっかりと、観た人の心に太いものが刺さるようなものを作りたい。これは昔から言っていることですが、とにかく舞台を見てくれたお客さんにはとてつもなく大きいおみやげを持って帰っていただきたいたいと思っているんです」
やはり長年取り組みたかったテーマだということもあり、森崎の想いは深くてアツい。
森崎「タイトルの読み方が不明ということでも難易度が高そうですし(笑)、毎回チケットの入手が困難だとも言われていますが、今回はこれまで歴史に残らなかった戦いのことを描くことで、ある意味大変なタブーに向き合うことになるかもしれない。作品としても結構な困難が待っているかもしれません。お互いに困難に打ち勝った者同士があいまみえる観劇体験となりそうですよね。そのとてつもなく宝物のような時間を、たくさんの方と劇場で共有できたら、とてもうれしく思います!」
インタビュー・文/田中里津子
Photo/山本倫子
ヘアメイク/白石義人
スタイリスト/村留
※構成/月刊ローチケHMV編集部 2017年10月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります
【プロフィール】
森崎博之
■モリサキ ヒロユキ ‘71年生まれ。北海道出身。’96年にTEAM NACSを結成、以降リーダーを務める。