11年の時を経て進化する、父娘の愛の物語
タクフェス第6弾『あいあい傘』は、07年に前身の劇団「東京セレソンDX」で上演された、生き別れとなった父と娘の感動のドラマ。初演以来、観客の記憶に眠り続けていた「幻の名作」がついに目を覚ます。その想いを宅間孝行に聞くと、意外な言葉が返ってきた。
宅間「実はこの作品は自分の中で納得いっていない部分があるんです。この作品を一番に愛してくださる方もたくさんいるのですが、自分の中でどこか消化不良な部分というものをどうしても認めざるをえなくて」
だが、時を経て再び向き合ったことで、あの頃には見えなかった本質が浮かび上がってきた。
宅間「他の作品がストーリーのギミックや構成で見せるお芝居なら、この『あいあい傘』はもっとストレート。役者がどう演じるかによって、いかようでも味わいが変わる、非常に芝居らしい芝居です。11年前の初演の際に不足を感じたのも、それが原因だったのではないかと思います。逆に言うと、役者次第で一気に本塁打になる爆発力を秘めた作品とも言えます。今回は、そんな本塁打にできる役者の方々が揃ったと思っています」
そんな自信のキャストのひとりが、麻衣子役の前島亜美だ。
前島「宅間さんの『くちづけ』という作品に衝撃を受けて、以来ずっとタクフェスに出たいって言い続けていました。だから今回、夢が叶って本当に嬉しいです」
演劇への想い溢れる前島にとって、本作は念願のストレートプレイだ。
前島「宅間さんの作品は綺麗事だけじゃない部分に踏み込んでいて、厳しい現実の中で生きる人々の人生がはっきり描かれているところが好きです。その分、役者の人間力が問われるし、私にとって大きな挑戦となる舞台。宅間さんのもとで、多くのことを学んでいきたいです」
宅間「ありがとう。僕は役者に大事なのは、技術の巧拙よりも本気の熱量だと思っていて。人の心を動かすスピリットこそが、プロのエンターテイナーの証。そういうメンタルの部分もしっかり伝えていければと思うので、これからよろしくね」
10月26日より映画版も公開。この秋は『あいあい傘』が日本中に優しい涙雨を降らせることだろう。
インタビュー・文/横川良明
※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載
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【プロフィール】
宅間孝行
■タクマ タカユキ ’70年生まれ。東京都出身。タクフェス全作品の脚本・演出・出演。舞台作品の映像化に、ドラマ「歌姫」「間違われちゃった男」、映画「くちづけ」など。
前島亜美
■マエシマ アミ ’97年生まれ。埼玉県出身。主な出演作に舞台『クジラの子らは砂上に歌う』『煉獄に笑う』など。