東京にこにこちゃん『ネバーエンディング・コミックス』|萩田頌豊与 インタビュー

2月28日(水)より東京にこにこちゃんの『ネバーエンディング・コミックス』(下北沢演劇祭参加作品)が下北沢・駅前劇場で開幕する。
怒涛のボケ数と俳優のパンチ力が巻き起こす大爆笑、愛すべき登場人物たちが織りなす純度200%の物語。そして、そんな“喜劇”へのポリシーが随所に入魂された作品群の最大の特徴はなんといっても“ハッピーエンド”だ。昨年の本公演『シュガシュガ・YAYA』やテアトロコントとオルギア視聴覚室で上演された『クライマックス・イズ・ベリーグッド』でも多くの観客が“にこにこ”の表情で劇場を後にした。
最新作『ネバーエンディング・コミックス』は、自他ともに認める漫画ラバーである主宰の萩田頌豊与が漫画への偏愛と人生と物語における普遍的宿命を描く意欲作。心強いお馴染みキャストはもちろん、粒立った個性を誇る初参加キャストとの新反応にも期待が高まる。最近は演劇のみならず、NHKFMドラマの脚本や爆笑問題YouTubeチャンネルでコントの作・演出を手がけるなどますますの活躍を見せる萩田に新作の着想や見どころ、キャストの魅力について聞いた。

 

――新作は タイトル通り「漫画」についての物語とのことですが、この構想はかねてより心に決めて温めていたものなのだとか……。

萩田 僕は昔から大の漫画好きで、これまでも様々な作品に感銘を受けてきました。最近の作品だと、『BLUE GIANT』や『ダイヤモンドの功罪』などが大好きで度々読み返していますし、尾田栄一郎先生の『ONEPIECE』は小学生の頃に読み始めて、今も続きを追っています。
でも、そんな20年強の連載期間にはそのラストを見届けられないまま死んでしまった人もいるわけで……。それはいわば人と物語における宿命のようなもので、「自分の人生においてもそういう作品が出てくるのだろうな」とすごく考えるんですよね。そんな思いから本作の構想が立ち上がって、今まさに“終わり”の視点から物語を紡いでいるところです。タイトルは『ネバーエンディング・ストーリー』から採って『ネバーエンディング・コミックス』。シンプルですが、気に入っています。

 

――“終わらない漫画”ですね。たしかに、同じ「物語」でも連載形式の多い漫画には「続きを待つ時間」がセットになっていますよね。例外もありますが、そこは演劇や映画や小説とは違った点かもしれません。

萩田 最近は物語における「考察」を楽しむ読者も増えていますよね。SNSには「考察班」なる人たちも存在していますが、その現象を興味深く感じると同時に、いち作家としては他人事として見ていられない気持ちもあるんです。というのも、完結していない漫画の結末が公の場で考察されることって、作家側からしたら「何年も結末を温めてきた物語のラストを突然読者に言い当てられてしまうかもしれない」ってことでもあるじゃないですか。それって、たまったもんじゃねえな!…とも思うわけですよ(笑)。

 

――ネタが出ていない内からのネタバレ……。そう考えたら、たしかに「たまったもんじゃねえ」現象ですね(笑)。

萩田 考察する側も最初はその物語がただ純粋に好きだっただけかもしれない。その愛着が加速して、どんどん夢中になるあまり、やがて作者に勝とうとしてしまう現象が起きていく……。もしかしたら、そんな考察を受けて予め用意していた結末を変えた作家も中にはいたかもしれないとか、自分だったらどうするだろう?とか、色々想像するんですよね。そして、想像しながら「物語ってこんな風にいろんな側面があるからこそやっぱり面白いんだ」って改めて思ったりもして……。本作では、そんな様々な角度からの想像を元に、『終わらない物語』を巡る読者と作家の関係を描いていけたら。作者が作者の物語を主軸に書いちゃうとメタに寄りすぎてしまうので、そこを上手に避けつつ、あくまで登場人物を主軸に考えていきたいと思います。もちろん、劇団の持ち味である “ハッピーエンド”を活かして。

 

―― “ハッピーエンド”という持ち味にも磨きがかかって、新作の度に新たなハッピーの形を更新されているように感じますが、そのあたりはいかがでしょう?

萩田 カンパニーの特徴を「ハッピーエンド」と触れ回ることで、「ハッピーエンドにしなくてはいけないという強迫概念が生まれるかも」と思った時期もあったのですが、案外その感情は生まれなくて……。むしろ幸せな結末があるからこそ筆が進みやすくなっていると感じますし、この個性は強みとして揺るがないと感じています。あと、僕のハッピーエンドへのこだわりや哲学って、やっぱりものすごく漫画に影響を受けているんですよ。それは今まさに執筆を通じて改めて痛感しているところだし、「笑い」に対しても同じことが言えます。僕は狂気と薄皮1枚隔てた「笑い」が好きなんですけど、そういった笑いの好みが形成されたのもどこかで漫画が影響していると思うんですよね。

 

――なるほど。「漫画」は萩田さんの作家性を形成する要素として非常に大きなカルチャーなのですね。

萩田 登場人物の造形においても、そういった「紙一重さ」を意識していますし、演劇を観ていなくても、漫画やアニメを見ている人にはにこにこちゃんの演劇は親しみやすいかも、なんて思ったりもします。これまでも「ギャグ漫画っぽいね」ってよく言われてきたのですが、僕にとってその感想はすごく嬉しいものなんですよね。そういった意味でも、本作にはにこにこちゃんの本質が色濃く反映される気がします。あと、少年期の思い出や体験を入れ込むのもこだわりの一つ。今回も幼少期に遡りながら劇作を進めています。いつかは大河や朝ドラを手がける気満々なので、そういう意味でも少年期は欠かせない!(笑)。

 

――東京にこにこちゃんの朝ドラ的演出やその中で駆け回る子どもたち、とってもチャーミングで愛らしいですよね。

萩田 最近の作品も8割が小学校から高校までの学生時代から入っているんですけど、「教室の風景」を描かずにはいられない性があるんだと思います。なんでしょう、自分の学生時代があんまうまくいかなかったんでしょうね。そこを書き直したいという気持ちを作品に込めているというか……。暗くは絶対描きたくないからめちゃくちゃ軽く書くんですけど、人が変化したり成長する過程でルーツを描くということが自分にとっては重要なのだと思います。あと、「ハッピーエンド」に関してもう一つ言うならば、僕は馬鹿なので、「ハッピーエンドじゃない=死」と極端に捉えている節があるんです。「人が死ぬ悲しさ以上の悲しみはない」と思っていて、それをクライマックスとして描くと、物語はその悲しみで終始してしまう。だからこそ、“ハッピーエンド”という結末に、それこそ「物語が続いていく」=「終わらない物語の可能性」を感じているんです。

 

――「終わらない漫画/終わらない物語」という本作の題材と、「ハッピーエンドにおける物語が続いていく可能性」は何か重要な繋がりがありそうで、改めて本作の“結末”が楽しみになりました。キャストの方々も今回も魅力たっぷりの8名が集結されましたね。

萩田 髙畑遊さん、立川がじらさん、てっぺい右利きくん、四柳智惟くんの4名は昨年の公演に引き続き参加していただくのですが、「この人がいてくれてよかった」という気持ちが公演の度に更新され続けていきます。「いつものメンバー」と呼べる俳優さんたちがいることは本当に有難いことです。そして、初参加で出演して下さる俳優さんもまたそれぞれ個性の光る方ばかり。辻凪子さんは映像作品にも多数出演されている俳優さんで、舞台は1年に1本ほどの頻度なので、「そんな大事な1本をにこにこちゃんに使って下さるのか!」と一瞬不安になったのですが、「絶対出ます」と即決して下さって……。嬉しくもあり、引き締まる思いもあります。

 

――シリアスからコメディまでその都度全く違う表情で魅了する辻さんの配役、とても楽しみです。土本燈子さんや海上学彦さんはコント公演でのご活躍も記憶に新しいですね。

萩田 土本さんは神谷圭介さんのユニット・画餅のテアトロコント公演を観に行った時の存在感が忘れられず、オファーをさせていただきました。感度が鋭く、コメディで発揮される演技体が素晴らしい方なのですごく楽しみ! 海上学彦さんはしなやかで美しい存在感のある俳優さんですが、ちょっと間の外れたことを言ったり、懸命さの中でこそ光るおとぼけ感が見事なので「こんなセリフを言わせたい」というイマジネーションがすごく湧いてくる方です。佐藤一馬くんとはかねてより親交があるのですが、彼のメンタルの強さとプロ意識を僕はすごく尊敬していて、信頼を寄せているんです。どんな役でも、細やかなセリフでも、一瞬一瞬を主役だと思って発して居てくれる。これは四柳くんと共通する魅力でもあるのですが、今回は二人が一緒の舞台に立ってくれるので、どんな磁場が生まれるかが僕自身もまだ未知でドキドキしています。そんなこんな最強のオールスターメンバーに集まっていただいた自負がありますし、とても心強いです!

 

――8名のキャラクターそれぞれがどんな「笑い」と「ハッピー」を巻き起こしていくのか、とても楽しみです。最後にこれからの稽古で本作をどうブラッシュアップしていくか、展望と見どころをお聞かせ下さい。

萩田 誰しも、その人生にとって重要な「物語」というものが必ずあると思うんです。本作は「漫画」が題材ではあるけれど、映画でも小説でも、それこそ演劇でも。対象はなんでも良くて、長く追い続けている物語や人生において特別な物語がある人にはきっと共感してもらえる作品になると確信をしています。そこを基盤としつつ、あとは限りある時間でどこまでふざけ倒せるか。ボケ倒せるのか。“ハッピーエンド”を武器に、東京にこにこちゃんらしい「笑い」に満ちた代表作の一つに向かっていけたらと思っています。“日本一チケットの取れる劇団”って謳って来たんですけど、このキャッチコピーもそろそろ返上しなければ。爆笑問題さんのコントも書かせてもらったし、いつかは朝ドラや大河を書くので!もうこれ言っちゃったからには、チケット爆売れというハッピーエンドも目指したいと思います(笑)。

 

取材・文/丘田ミイ子