2023年には自身が30歳となり、ももいろクローバーZの結成15周年という節目を迎えていた高城れにが、2024年春、単独舞台初主演&初座長を果たす。『最高の家出』は、近年最注目の劇作家・演出家である劇団ロロ主宰の三浦直之による最新作。高城は、結婚生活に疑問を感じて家出をする<立花 箒(たちばな ほうき)>を演じる。
家出をした箒が無一文でたどりついたのは、“劇場”。そこで彼女に与えられたのは、舞台上に作り込まれた“模造街”で上演される演劇に参加する仕事だった……。
共演陣は、祷(いのり)キララ、東島京、重岡漠、尾上寛之という個性派たちに加え、板橋駿谷、亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子というロロメンバーも参加する。三浦が紡ぎ出す瑞々しい台詞や意外性のある物語の展開に、期待は高まる。
本格的な稽古開始はまだ先となる11月末、高城と三浦に作品への想いを語ってもらった。
――高城さんは、劇団ロロの公演を既にご覧になったそうですね。
高城 三浦さんに直接お会いする前に、舞台を観させていただいたんです。率直な感想としては、ファンタジーなのにリアルでもあり、とても不思議な気持ちになりました。面白い部分もあれば考えさせられる部分もいろいろあって。私はこう感じたけれど他の人はどう思うんだろうとか、ひとつの物語として楽しみながらも自分の価値観についても考えさせられるような舞台でした。一回だけではなく何回か重ねて観るとたくさん発見がありそうだし、自分の中で眠っていた感情や人を思いやる心が出てきそうにも思いました。そして実際に三浦さんにお会いしてみたら、いい意味でギャップがあったというか(笑)。演劇の演出家の方って、ちょっと怖いイメージがあったんですけれど、三浦さんはラフに接してくださって、初めて会ったのに初めてじゃないような話しやすさがあったんです。私の話もじっくり聞いてくれましたし、三浦さんご自身のお仕事の話やプライベートな話までしてくださって、何を気負うことも気取ることもなく素のままでお話しできたというのが第一印象でした。
――三浦さんは、高城さんにはこれまでの活動のことも含めてどんな印象をお持ちですか。
三浦 僕は大学時代に東京で一人暮らしをしていたんですが、その部屋で友達と集まって『Chai Maxx』の振付を動画を見ながら練習したというのが、ももいろクローバーZに関する最初の記憶です(笑)。高城さんには、いつも笑ってとても楽しそうにされていて、その姿を見ている周りの人たちも幸福感に包まれていくような印象があって。今回の物語は、自分のそれまでの生活に疑問を持って家出をする主人公が最終的にどんなふうに笑えるかということを想像しながら書いたんですね。きっと高城さんならこのお話の最後にふさわしい、めちゃめちゃハッピーな笑顔を舞台上からくれるんじゃないかと思うので、僕もすごく楽しみにしています。
――今回の物語のモチーフは家出ということですが、台本を読むとそこには演劇愛も深く絡んでいるように思えました。
三浦 主人公の箒が家出した先に劇場があって、そこで演劇をやることになるという流れなんですよね。今回は、いくつもの家出の物語になるといいなと思いながら書いていまして、この箒という女性が家出した先でどんなものと出会うといいだろうと考えた時、最初に浮かんだのが現実から虚構、フィクションに家出する物語にしたいということだったんです。現実の生活に疲れて逃げ出した先で物語に出会い、そのことで箒が変化をし、またどこかに帰っていく……という話がいいなと。加えて、僕としては今回初めてPARCOプロデュースとしてオリジナル作品をやらせていただけるわけなので、これまで10年以上自分が作ってきた演劇への思いも一緒に、この作品にのせられたらという気持ちもあってこういうお話になったといういきさつです。
――高城さんは、台本を読まれてどんな感想を抱かれましたか。
高城 すごく面白かったです。台本をいただいてから、最初に母と読み合わせをしたんですがその時点でとても面白くて。箒ちゃんは私自身と真逆な面もありながら、反面で同じようなところもあって。三浦さんには、まだそこまで自分のことを詳しくは話していなかったのに、なんで私の幼少期、抱いていた気持ちが物語に盛り込まれているんだろう、なんで知っていたんだろうと思ったくらい、リンクしている部分があったんです。より、箒ちゃんのことが好きになりました。登場人物たち一人一人の個性も、すごく濃いですしね。内容的にはファンタジーになると自分の生活とはかけ離れてしまうところもあって、演劇の世界だと特に共感できる時もあれば、こんなことありえないでしょと思ってしまう時もあるじゃないですか。だけど今回の場合はファンタジーだからもちろんありえない出来事も起きるんですが、それが現実世界であってもおかしくない、違和感がないくらいにスッと入り込めるお話になっているように思えたんです。一つ一つのワードが生活に近しい言葉ばかりなので、きっと私だけではなく観ているお客様にとってもこの作品はご自分に近い世界線の物語に感じていただけるのではないかなと、今からすごくワクワクしています。
――ちなみに最初に読み合わせをした時、高城さんはもちろん箒役を演じるとして、お母さんがその他の全部の役を?
高城 はい、全部の役を読んでもらいました(笑)。
――お母さん、大忙しでしたね(笑)。
高城 あ、でもト書きは私が読みました。
――三浦さん、今回の台本はやはり高城さんに合わせてあて書きをされたのでしょうか。
三浦 企画が動き出した段階ではキャスティングが正式決定する前で、その後で高城さんに演じていただけることになり、そこからリライトを重ねる段階で、高城さんだったらこの台詞をどういう風に言うのがいいかなとあて書きをしながら直していったという感じです。
――では高城さんの幼少時の気持ちを知っていたわけではなく?
三浦 知らないです、知らないです(笑)。今、そう聞いて、ああそうなんだ、良かったと嬉しく思いました。リライトをしながら、高城さんならこのシーンをどう演じてくれるだろうとずっと想像はしていましたけど、その一方で誰もがある時期に抱えるモヤモヤしたものも書きたいなと思っていたので、それがうまく届いてくれたのかもしれません。
――この箒という女性を、高城さんに今演じていただくにあたってどんなことを期待していらっしゃいますか。
三浦 箒は、たぶん基本的には内気な女性だと思うんです。どこが自分の居場所なのか、居心地のいい場所はどこにあるかを、ずっと探し続けている。それで演劇をやるようになって役を演じること自体がひとつの場所に感じたり、逃げ出した先にたどりついた劇場が自分の居場所のように思えたりするんですね。ただ、その内気さが気弱な感じに見え過ぎてももったいないなと思っていて。内気なんだけどちゃんと自分の芯は持っていて、強さもある。そのちょうどいいバランスを、高城さんなら両立させてくれるんじゃないでしょうか。強さと優しさと弱さと明るさを、一緒に持ちながら演じてくれるんじゃないかなと期待しています。
高城 今、三浦さんがおっしゃったように、台本を読ませていただいた時も箒ちゃんの芯の強さはすごく感じていました。私はこれまで、ももいろクローバーZとして舞台や映画をやらせていただいていく中では自分に割り当てられる役が弱気な役が多かったんです。こういう、箒ちゃんみたいな弱気ではあってもちゃんと意志があって、家出しちゃうくらいの行動力もあるような、しっかりと自分で行動できる女の子を演じることってあまりなかったので。なおかつ自分の居場所を求めているということなので、自分から変わろうとしている意志の強さもあるんだと思いますから、これからお稽古までの期間で改めて自分とも向き合いながら、箒ちゃんと照らし合わせてどう寄り添っていけばいいかも考えて、この役を作っていきたいなと思っています。
――箒ちゃんには、共感できるところが多かったですか。
高城 多かったです。私もすごく弱気で心配症なんですけど、そのくせ「何でそこを後先考えずにやっちゃったの?」とか「もっと違うところも考えなよ?」ってツッコまれることが多くて(笑)。そういうところは箒ちゃんと似てるように思います。自分の世界があって、それを周りの人から言われたとしてもブレないところも共通部分ですね。私もひとりっこだったからか自分の中の自分と話したり、空想した誰かと会話をしたりすることが幼い頃からあったので、そういうところも自分とすごく重なりました。
――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。
高城 今回の『最高の家出』もやはりいろいろな方々が共感できたり、さまざまな角度から考えさせられるような内容になっているように思います。だけど決しておカタい内容ではなく、クスッと笑えるところも多いですし、自分も日常会話でこういうやりとりをしたことがあるなと思える要素がたっぷり盛り込まれています。私自身も過去に何度も経験あるんですが、きっとみなさんも「自分の居場所ってどこなんだろう」とか「本当の自分って何なんだろう」と思うことってあったと思いますし、きっとこの先も環境の変化や出会う人によっては自分の中に葛藤が生まれることってまだまだあると思うんですね。そうなった時に、この物語の登場人物たちのことをふと思い出してもらえるような、そんな作品になるといいなと思っています。また、何回でも重ねて楽しんでいただけたとしたら新たな発見があったりもするでしょうし、観てくださる方々にとって「まるで遊園地みたいだな」って思ってもらえるような作品になったらいいな……、いえ、きっとなるので!(笑) ぜひ、たくさんの方に観に来ていただきたいです!!
三浦 今、高城さんが言ってくれた「遊園地みたいな」というのは、僕もすごくいい言葉だなと思うので、ぜひともそこを目指したいです(笑)。演劇に限らずエンターテイメントの場に足を運ぶことって、そこは劇場だったり映画館だったりライブ会場だったりするんですけど、僕自身としてはすごく短い家出みたいな気分でいつも出かけるんですね。そこは今、自分がいる場所からちょっと離れた非日常的な場所であって。その場所で非日常の時間を心ゆくまで味わってから、また家に戻って「よし、また明日から頑張ろう」と改めて思う。だからみなさんも「ちょっと家出してこよう!」という気分で、劇場まで来ていただけたら嬉しいです。
インタビュー&文/田中里津子
Photo(高城れに)/植田真紗美
Photo(三浦直之)/三上ナツコ