舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』│大貫勇輔×宮尾俊太郎 インタビュー

写真左から)大貫勇輔(ハリー・ポッター役)、宮尾俊太郎(ドラコ・マルフォイ役)

東京・TBS赤坂ACTシアターにてロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説の最終巻から19年後が描かれ、父になったハリーとその息子の関係を中心に、壮大な冒険を繰り広げるファンタジー大作となっている。本作にハリー・ポッター役で出演中の大貫勇輔と、2024年2月にカムバックしたばかりのドラコ・マルフォイ役・宮尾俊太郎。それぞれにダンサーとしてのキャリアを持ち、普段も仲がいいという2人に、作品の魅力など話を聞いた。

――お2人は、以前に共演をされてからすごく仲がいいとお聞きしました。どんな出会いだったんでしょうか

宮尾 『ロミオ&ジュリエット』で共演が決まってから、動画サイトで見てみたんですけど、こんなに動ける、すごいダンサーがいるのかと思ったんですよ。そしたら体のサイズが全く一緒で、そのサイズ感であんなに動けるのか、とさらにすごいと思って。いろいろ教えてもらったりしてましたね。あの時は、週4で家にいました(笑)。

宮尾俊太郎

大貫 ほんとに『ロミオ&ジュリエット』の公演中、週4日は一緒に居た(笑)。もちろん、僕も名前は知っていたし、Kバレエカンパニーでプリンシパルとしてトップを張っていることも知っていたんです。なのに、こんなにも謙虚で貪欲なのかと思いましたね。もう、めちゃくちゃ聞いてくるんですよ。本気で聞いてきて、それを吸収しようとしている感じ、そのエネルギーがすごいんです。僕も学ぶことが多かったですね。とはいえ、お互いにいろいろ忙しくなったりして、会ってない時期はありますけど、連絡は取り続けていますし、毎年お互いの誕生日プレゼントは贈り合っています…あれ?眼鏡を買ってもらうって言いながら買ってもらってないかも?

宮尾 いや、どれがいいのかな、って。

大貫 じゃ、選ばなきゃ(笑)。でも2月は宮尾さんの誕生日だもんね。

宮尾 でも俺、もう今欲しいものが無いんだよなぁ。

――すごく仲がいいことが伝わってきます(笑)。いろいろな共演を経て、改めてお互いの魅力的なところはどういう部分だと思っていらっしゃいますか

大貫 宮尾さんは本当に貪欲で、常に考えているんですよね。似ているところは、自分に対して常に否定的であり、肯定的でもあること。できた、と思ってしまうと進化が止まっちゃうから、ずっとこれで合ってるのかな?と思い続けてるんですね。それは僕も思っているけど、僕よりも宮尾さんの方がそう思ってるかもしれない。すごく勉強熱心だし、僕が知らないこともいっぱい知っているんですよ。それは僕にとってもすごく学びになるし、お芝居の中でも滲み出てくると思うんですよね。そこは出会ったときから変わっていないですね。

大貫勇輔

宮尾 そのあたりは同じことを思ってる(笑)。研究家で、貪欲で、それをやりきる度量も試せる度胸も持っている俳優ですよ。やっぱり、俳優だけをずっとやってきた役者とは違うところがたくさんあるじゃないですか。そういう中で、こうやって出来てしまうのは、相応の努力ができる人だからだと思います。

大貫 多分、好きなものは結構違うと思うな。求めるものの形とかも違うし、物事を決めるときの優先順位も結構違う気がしますね。ちゃんと全部に理由があって、やる理由もあるけど、やらない理由もあるんです。でも、そういう違うところがあるからこそ、新しい気付きが生まれると思いますね。

――お互いに気付きと刺激があるいい関係なんですね。本作へは、大貫さんが2023年8月からハリー役を、宮尾さんは2022年の開幕から約1年ドラコ役を演じ、2024年2月にカムバックされました。「ハリー・ポッター」シリーズそのものについては、それぞれどのような想いをお持ちなのでしょうか

宮尾 僕はこの作品に携わるまで、シリーズについての知識は、ほぼゼロの状態だったんですよ。でもこの舞台1つでもいろいろな角度で人間の愚かさと美しさを描いていて、社会に呼びかけるメッセージが詰まっているんです。すごく人間ドラマ、人間社会が詰まった作品だと思いました。愚かでも、不幸でも、きっと美しい救いがある、という道しるべを示してあるんですよね。

大貫 僕はもともと本当に大ファンで、学生の時に1巻から全部を読んでました。活字は苦手だったんですけど、「ハリー・ポッター」シリーズだけは、本当に想像が膨らむし、自分が自由にコントロールできる夢を見ているような感覚になれましたね。その世界に浸っている時間が本当に幸せで、映画になった時も、自分が想像していた世界が広がっていくような、喜びという言葉だけでは表現できないような、何とも言えない気持ちになりました。好きすぎて、学生の時に「ハリー・ポッター」クイズを作って友達に出したりもしていたんですよ。まさか、自分がハリーになれる日が来るなんて思ってもいませんでしたね。ハリーのことについて、自分が作品に触れて過ごしてきた時間と、映像で見た時間、そして今自分が演じている時間の境目が曖昧になっていく感覚は、すごく心地いいです。だから、毎回幸せですね。

Ⓒ渡部孝弘

――本作ならではの特徴的なところは、どのような部分に感じていますか

宮尾 すごく細かい技術的なところになってしまうんですけど、この作品で演じる上で、客席から見たときにこうしてしまうと結構ストレスになるんじゃないかとかがあるんですよ。セリフの速さとか間の部分は、すごく意識しますし、観ている方にとってそういう部分が気にならないような演者でありたいと思いますね。

©宮川舞子

大貫 そこは、やればやるほどそう思う。お客さんに感動してもらうことが一番大事なことですから、お客さんにどう寄り添えるかは、すごく意識するところですね。

宮尾 1年目の人と2年目の人だと稽古期間も違うし、演出で言われていることもまったく同じじゃないんですよ。そういう中で、何かズレのようなものが生じたときは、やっぱり主役に合わせていかないといけないんです。お客さんから見て、1本のまとまった作品として見えるために、それぞれが受けた演出があるんですけど、そこから大きくは外さずに、ちょっとずつ剝がしていくような感覚ですね。その場面の主軸を演じている方に寄っていく、というのは、この作品ではよくあることのような気がしています。

大貫 1年目と2年目で演出もだいぶ違うんですよね。すごく細かくなるんですけど、立ち位置が違うとか、出てくるタイミングが違うとか、セリフのエネルギー量が違うとか。でもそれぞれに理由はちゃんとあって、そこを俳優同士で擦り合わせる時間はすごく重要ですね。ワンウェイじゃなく、本当にいろんなやり方があって、どれも正しいんです。自分がどう思っているかじゃなく、今そこにいる人とどうするのか。柔軟でいなければいけないと思いますね。

宮尾 そういうことが起こるのは、「ハリー・ポッター」だけだと思う。

大貫 ロンが4人、ドラコが3人でジニーも3人…なかなかこんなにいないですから。しかも、すごく長く一緒に稽古しているわけじゃない。

宮尾 1回しか稽古せずに次は本番で会いましょう、っていう役の人もいますから。それでも、ちゃんと成立するように作られているんですよね。

大貫 宮尾さんは、どのドラコよりも机に登るスピードと降りるスピードの美しさがすごい。後はデュエルのスピード感もありますね。すごく危険なシーンなので、決まり事がいっぱいあるので、最初にやった時は本当にドキドキハラハラしていました。きっとそこはお客さんにも伝わっているんじゃないかと思いました。

宮尾 なんかどんどん早くなっていって、セーフティの決まりがある中でそのギリギリを狙っていくんです。何かあったら止まれる。止まれるけど、ギリギリを狙っていくよ、と。“魔法”ができる肉体を持って見せているからね。

©渡部孝弘

大貫 僕らはね、肉体の魔法使いだからね(笑)。でも肉体の大変さというより、気遣いの方が大変です。3時間40分という時間の中で、いかにお客さんを飽きさせずに魅せるかということがすごく大事。どんなに早口で言ってもちゃんと全部のセリフが聞こえるな、っていうすごさも見せなきゃいけないし、ちゃんと人間としての実感を持ってすべてのシーンでしゃべるとなると、そっちの方が大変です。どちらかというと肉体よりも、声の使い方とかそっちの方に意識が行きますね。

宮尾 なんかお互いに成長したな、って思ったりするんです。出会ったときは歌のことをすごく話したし、今回は芝居のことを話しているし。お互いにそういう気付きの情報交換をしてきましたから。

大貫 1年目での苦しみを宮尾さんからさんざん聞いてきたので、そこを意識しながら稽古をすることができましたし、すごくありがたい情報でした。こういうロングラン公演っていうのは、やっぱり先の見えないトンネルを歩いているような感覚だと。いざやってみて、自分もそう思いましたし、それをわかっていることがすごく大事だと思ったので、そのアドバイスはすごく助けられました。ちょうど入れ替わるくらいで僕がハリーをやることになったので「被らなかったね」とか話していたんですけどね(笑)。

宮尾 僕がドラコを最初にやった時には、大貫くんがハリーをやるとは思ってなかったしね(笑)。最初はこの公演回数ってもう鍛錬だな、って思っていて。けど最後の方は消耗だと思いました。物理的に、あったものが削れていくような感覚があったんです。なぜなら、ウィッグや衣装も同じところが擦れていくから。そういう感じで、一部分がどんどん摩耗しているような感覚がやってくるんです。でも、大丈夫なんですよ。大丈夫なようにできているのが不思議なんですよね。折れたんじゃなく、摩耗して、また強くなる。そういう鍛錬だった。

大貫 筋肉と一緒だね。筋肉も破壊して強くなっていくから。この作品は筋肉です!

――「ハリー・ポッターは筋肉」、名言としていいのかちょっと迷うところです(笑)。そんな筋肉を鍛えるような公演に臨む際に、大切にしていることはなんでしょうか

大貫 命を燃やすような感覚ですね。命を扱う作品なので、その重さと、重さに対する責任はすごく大事にしたいところです。その重さに心は擦り減るけれど、それ以外のところで癒すことってとても大切。笑えるシーンでそこをいかに軽くしてあげるかなんですよ。それはお客さんのためにも、自分たちのためにも、大切にしていることですね。

宮尾 お客さんには声を出して笑ってほしい。

大貫 その方が、僕らも楽になりますからね。

宮尾 無理して笑わなくていいんですけど、笑うことを我慢しないでほしいですね。以前、学生さんが貸し切り公演で観に来てくれた時に、ものすごく笑い声が大きくて盛り上がったんですよ。

大貫 そう!学生さんの団体、感じたことの無い笑い声だったな。

宮尾 小さい子がケタケタと笑っちゃうのを「シーッ!」ってやらなくていい舞台なんです。そのまま笑っていてほしい。

大貫 その笑い声に、僕らも裏で助けられてますから。

――最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします!

大貫 何度もご覧いただいている方は、役者同士がどんなキャッチボールをしているのか、どんなリズムでやっているのかというのが楽しめるポイントになると思います。次にどういうセリフが来るのかもわかっていますから、その上で、組み合わせによってキャッチボールの変化を楽しんでいただきたいです。それに、2階席とかで表情が見えにくくても、それが伝わるように意識しているつもりなので、そこを感じ取ってもらえたら。自分がしゃべっていない時も、その時の自分がどんなことを思っているかを体の在り方で表現していますし、それをどこまで感じ取ってもらえるかは分からないですけど、観ていただけると嬉しいです。

©渡部孝弘

宮尾 …今から良いこと言いますよ?やっぱり人間って一人じゃ生きていけないじゃないですか。だから集団生活をする生物だと思っているんですけど、そこで比較をしてしまうんです。他の人と比較して、残念な気持ちになってしまうことも多いですよね。それで不幸になってしまったり、憎しみを持ってしまったりすることが多い中で、どうやったら幸せに生きていけますか、ということをこの作品では描いているんですよ。人が人と生きていく上で、比較してしまうことの苦しみからは逃れられない。ハウ・トゥ・ハッピーですよ。とはいえすぐに出来るワケじゃないけど、寄り添うような気持ちってとっても美しい。そう思うと、明日への一歩が幸せに踏み込めるじゃないですか。自分のことと照らし合わせながら、自分の感情を掘り下げて、その感情の理由を探しながら楽しんでいただければと思います。

大貫 「良いこと言う」って言いながら、絶対笑いに持っていくと思ったのに、本当にちゃんと良いこと言った(笑)。この作品は、原作を見てもらった方が楽しめるのはもちろんなんですけど、知らなくても楽しめる作品だと思うんですよね。それに、赤坂の街全体が「ハリー・ポッター」の世界になっていることも素晴らしいと思っていて、僕も大好きなんです。そういう部分も含めて、五感全部でこの世界を楽しんでもらいたいです。

宮尾 今、この作品は世界の数か所で上演されていますが、この規模の舞台が日本で上演されていて、こんなファンタジーな世界をリアルに目の前で観られることの凄まじさは、本当にあると思うんですよ。上演している間にご覧になっていただきたいですし、一生のうちに1回は見た方がいいと自負しています。こんな規模の作品、次は無いかもしれないですから。一生の思い出になる作品だと思っています!

取材・文/宮崎新之