ニッポン放送開局70周年記念公演『鴨川ホルモー、ワンスモア』|中川大輔インタビュー

ニッポン放送とヨーロッパ企画・上田誠がタッグを組んでお届けするエンタメ舞台シリーズの第4弾「鴨川ホルモー、ワンスモア」が東京・サンシャイン劇場と大阪・サンケイホールブリーゼにて上演される。直木賞作家、万城目学のデビュー小説「鴨川ホルモー」と外伝的続編「ホルモー六景」を基に舞台化。2浪して京大に入った青年が誘われるままに入ったサークルで、千年続くという謎の競技「ホルモー」に身を投じていくという物語で、主人公の安倍をモデルや俳優として活躍する中川大輔が務める。舞台初主演となる中川は本作にどのような心境で挑むのか。話を聞いた。

――まずは作品への出演が決まってどのようなお気持ちになられましたか。

最初にヨーロッパ企画さんの作品だと聞いて、次に「鴨川ホルモー」の舞台化だと聞いたんですが、もうその時点で、相性抜群でめちゃくちゃ面白そう!って思いました。その舞台に出演できることが嬉しかったです。その後から主演と聞かされて、マネージャーさんが3段階を踏んで伝えてくれて、もうトリプルショックでした(笑)

――ヨーロッパ企画のことは以前からご存じだったとのことですが、どういう印象をお持ちですか?

純粋に笑っちゃう舞台を作っていらっしゃる劇団だと思っています。1人で観に行っても、周りも笑っているから周囲を気にせずに笑っちゃうんですよね。クスッとくるものから声を上げて笑えるものまで、本当に心から笑える舞台だと思います。でも、その流れがすごく自然で、以前からどうやって作っているんだろう?って思っていたんです。稽古が始まってから、エチュードの中で生まれた自然な笑いを組み込んでいるからなんだな、とスッキリしました。だからこそ、ナチュラルな舞台になるんだと思いました。上田さんの脚本構成のすごさを感じました。

――上田誠さんの印象はいかがですか?

初めてお会いしたのは「切り裂かないけど攫いはするジャック」を拝見させていただいた後、ご挨拶させていただいた時でした。その時に「たぶん僕は世界で一番優しい演出家です」みたいなことをおっしゃられていたんですけど、実際にご一緒してみると本当にその言葉通りだったんです。コメディ作品なので、ある程度リラックスした状態で稽古できていないと難しいとは思うんですけど、上田さんの人柄が稽古場に滲み出ていますし、上田さんをはじめみなさんがたくさん笑ってくれるので、すごくフラットな状態で稽古に入れるんです。

――上田さんからのお言葉で印象に残っているものは?

最初にお話ししたときに「別に何か面白いことをしようとしなくてもいいよ」って言ってくださったんです。真剣にその役を演じた結果、その真剣さや真面目さ具合が面白くて笑える。それは今も心のよりどころというか、毎回そこに立ち返るような言葉になっています。やっているとブレちゃうところがあるんです。きっと本番でも、笑いの大きさが違ったりとか、笑いが聞こえたり聞こえなかったりすると、気持ちがブレてしまうかもしれない。そういう時、初心に立ち返って、ただ安倍という役を真面目に演じることを大切にしていきたいと思います。一番大事な部分を最初に貰った気がします。

――「鴨川ホルモー」という作品についてはどんなイメージをお持ちでしたか?

映画を観ていましたし、万城目先生のことも知っていました。そのあたりは、きっと皆さんと同じくらいの印象じゃないかなと思います。ファンがたくさんいる作品ですし、僕もその一人でした。映画を観て、覚えているのはやっぱりオニ語とすごく変なポーズ(笑)。舞台でもまた違ったオニ語とポーズになると思うので、ぜひ楽しみにしていただきたいところ。さらに原作寄りのオニ語やポーズになるんじゃないかと思っています。

――今日は稽古場でお話をお聞きしているんですが、壁にオニ語の変換表が貼りだされていて、すごく大変そうです。

そうなんですよ! みんな、英単語を覚えるような感じで頑張って覚えています(笑)

――万城目学さんは、記者会見や稽古の初日にも現場にいらっしゃっていましたが、お会いしたりお話したりした印象は?

万城目さんが稽古初日の時に話していたことが印象に残っています。「自分はこの作品を大真面目に書きました。それを友人に見せたらすごく笑われました。それがこの舞台のヒントになれば」と。そんな大切なことをさらっと伝えてくれる人でした。初めて全通しした日も稽古場に来てくださり、終わった後感想を聞いたら「安倍が気持ち悪かったです」と一言もらって。褒め言葉として(笑)。安倍はかっこよくないところが魅力だと思っていたので、その言葉はすごく自信になりました。鋭い視点やユーモアに溢れた人柄は万城目さんが書かれた小説から受ける印象と全く一緒でした。掴めないところも。どうやったら『鴨川ホルモー』のような小説を書けるのか…本当に掴めないです(笑)。頭の中を覗いてみたいです。

――演じられる安倍という青年は、どういう人物だと捉えられていますか。

ひねくれていると思いますね。京大に入るのも2浪していて、台本上ではすごくねじ曲がっています。恋愛経験もそんなに多くないですし、頭が切れるがゆえに見下しているようなところもあります。上田さんも言っていたことなんですけど、主人公らしくない主人公なんですよ。そういうどうしようもなさ、人間としての器の小ささや弱さが、むしろ面白いお話だと思います。でも、例えば恋愛とかでちょっと勘違いして、自分だけ思いあがって恥ずかしい気持ちになったりすることは、割と誰しも感じたことがあると思うんです。そういうところを手掛かりに掴んでいけたらと考えています。

――安倍という役を掴んでいく上で芯になるような部分はどんなことでしょうか。

この作品のテーマのひとつでもあるんですけど「恥」の部分です。恥ずかしいシーンが多いんです。その恥ずかしさというのは、大事にしようと思って演じています。きっと誰にでも、お風呂に入っているときに急に思い出して叫びたくなるような恥ずかしい思い出ってあると思うんです。安倍はこの物語の中で、そういう恥をたくさん経験しているんです。お客さんも引いちゃうような恥ずかしいこと、思い違いをしているということは、すごく大事に演じています。ちゃんと舞い上がっちゃおうと思います(笑)。安倍はこの先の人生、多分この作品での経験を頭を洗っているときとかにふと思い出して恥ずかしくなると思ってます。

――そういう恥の経験っていわゆる”黒歴史”みたいなものだと思うんですが、中川さんにもそういう黒歴史はありますか? 

めちゃくちゃありますよ! ぜんぜん笑って振り返るなんてできないです(笑)。例えば…そうですね、僕は美大出身で「プレバト!!」というテレビ番組に出演させていただいたんです。水彩画を描いたんですが、やっぱり順位がついてしまう中で最下位になってしまって…。しかも2回連続で。もう今思い出しても恥ずかしくて叫びだしたいです…。作品を出すことって、自分をさらけ出しているようなもので、それを評価していただけなかったというのは、なかなかに恥ずかしいんですよね。今回のタイトルの「~ワンスモア」じゃないですけど、いつかワンスモアして1位を獲りたいです!

――恥の感情も、そういう次に繋げられるようなエネルギーにできるといいですね。今回の作品は総勢18名と大所帯ですが、稽古場で楽しみにしていることはありますか?

みなさんとお話したんですけど、佐藤寛太くんはすごくエネルギーに溢れています。オニ語も2日目には覚えてきてて、オニの使い手として優秀という役どころなんですけど、まさにそういう感じなんです。もう役に入り切っている気がします。鳥越裕貴さんは、役者として大尊敬できる先輩。舞台での立ち振る舞いというか、ストーンと腹から声が出ている感じとか、基本的なところからすごくカッコよくて尊敬しています。みんなのツッコミ役になって、現場をまとめてくれています。清宮レイさんは、ちょっと人見知りで僕の中ではもう原作通りの楠木です。あと、劇中にダンスシーンがあって、原作では男たちだけで裸になってやるんですけど、今回は女性陣も衣装で踊る場面があるんです。その稽古の時に、やっぱりダンス上手いな、って思いました。さすが乃木坂46でステージに立っているだけあるんだな、と。八木莉可子さんは、安倍が一目ぼれする相手なんですけど、もう役作りなんて必要ないくらいに華があるんですよ。そりゃ一目ぼれするよね、っていう華やかさがあるので、僕も自然と役に入っていけるような感じがしました。

――とても賑やかそうな稽古場になりそうですね。本作には男性ブランコさん、かもめんたるさんと芸人がたくさん出演しているのも面白いところだと思います。

芸人さんがピンで舞台に出ていることはけっこうあると思うんですけど、コンビが2人とも、しかも2組出ているって珍しい感じがします。稽古場でも、掛け合いと言うかしゃべっているときに、芸人の方がボケると一番早くツッコミを入れるのはやっぱり相方さんなんです。そういう場面を目にすると、お笑い好きの僕としては胸熱なんです。そういう空気感って、きっと舞台本番でも出てくると思うんです。きっと、芸人の方が急にボケたりとか。そういう時に、何があっても助けてくれるのが相方さんなんだろうな、っていうのを目の当たりにしています。

――中川さんは今回、舞台初主演で舞台作品としては2作目となります。今後チャレンジしてみたいお仕事や役なんかはありますか?

今回、本当に大コメディを経験させていただいたので、逆にストレートプレイのような骨太な作品も経験してみたいですね。シリアスなお芝居にも挑戦してみたいです。

――映像のお芝居との違いや舞台ならではの楽しさをどのようなところに感じていらっしゃいますか。

映像のお芝居だと、30分以上絶えず役のままでいることってあまりないんです。でも舞台ではそれが当たり前で、ずっと役のままでいることで自分では想像できなかったようなお芝居に繋がったりするんです。そこは舞台ならではの面白さだと感じています。完全に自意識がなくなっているというか、コントロールしていない状態ってとにかく必死になっていて、見ていて面白いんじゃないかなと。他の人が良いお芝居をしていたりすると、ふと自分が戻ってきてしまうことがあるんですけど、安倍というちょっと変な人間のままでずっと走り続けられたらと思います。今ちょっと甘噛みしちゃったな、とか余計な雑念が生まれちゃうときってどうしてもあるんです。そういうことを考えることなく、ずっと役で居続けることが、今回乗り越えるべきハードルだと思っています。

――楽しみにしています! 最後に作品を心待ちにしているみなさんにメッセージをお願いします!

今、稽古をしていても、誰が観ても面白い舞台になっていると確信しています。普段から舞台をご覧になる方にとっても、今までに観たことの無いような舞台になっていると思いますし、舞台をあまりご覧になったことない方でも、ただただ笑って楽しかったと思って帰っていただける舞台になっています。原作が好き、ヨーロッパ企画さんが好きなど、いろんなきっかけでいらっしゃる方がいますが、どんな人でも、すべての人に楽しんでいただけるはずです。舞台って難しそう、って思っている人も、ただ笑いに劇場に来てください! そのために、全身全霊で演じていきます!

取材・文:宮崎新之