石井光三オフィスプロデュース「ポルターガイスト」永田崇人インタビュー

2.5次元を中心に活躍する俳優の永田崇人が1人10役のソロパフォーマンスに挑戦する舞台「ポルターガイスト」。英国ロンドン出身の作家フィリップ・リドリーの作品で、画家としての輝かしい未来を描きながら何者にもなれなかった主人公が、少女から近所のおじさんまでさまざまな人物に触れ、自らの人生に惑う物語で、演出は村井雄が務める。永田はどのような覚悟で本作に臨むのか、話を聞いた。


――今回、お1人で10役も演じ分けるソロパフォーマンスに挑戦されますが、今の率直なお気持ちはいかがですか

1人でやるんだな…と(笑)。大きすぎる壁ですね。こんなにたくさんの俳優さんがいる中で、この作品が僕に巡り合ってくれたことは、本当に今後無いことだと思ったので、この機会を逃したくないと思いました。自分がどこまでやれるのかを試したい気持ちもありましたし、年齢も30歳になって、いろいろとすごくいいタイミングなんです。これからも芝居をやっていきたいし、今チャレンジできることを嬉しく思っています。


――昨年12月に事務所のサポーターズクラブC.I.A.をご卒業されて、まさに若手から次のステップに進む節目を実感されているタイミングですよね

本当になんとなく感じているだけなんですけどね。30歳っていう年齢になって、やっぱり20代とは訳が違う感じがしているというか。年齢はただの数、とも言いますし、関係ないかもしれないんですけど、自分の中では刷り込みのように30歳って大人になるタイミングかなと、感じています。ずっとお世話になっていたマネージャーさんも変わって「独り立ちするんだぞ」って言われた後の1発目のお仕事のお話がこの作品だったので、運命的なものも感じました。それにお芝居を始めてからも10年目になるんですよ。「プロになるには10年かかる」ってよく聞いていて、もちろん今までも一生懸命にやってきたし、プロだと思ってお芝居してきたんですけど、10年目に入って、その言葉がリアルになってきた感じもしているんです。いろいろなことにチャレンジさせてもらいましたし、アイドルっぽいこともやらせていただいてきたんですけど、やっぱり僕がずっと続けていきたいのはお芝居。そう思っているときに、お芝居にしっかりとアプローチできる作品に巡り合えたことは、本当に喜びでしかないです。


――10役の演じ分けについては、今はどのように考えていますか?

まだ何も考えてません(笑)。でも、演じ分けること自体は楽しいんじゃないかな。今は、大変そうってことよりも、楽しそうの方が勝っています。まだ本番までにはちょっと時間があるのでそう思えているんですけど、稽古が始まったら”最悪だ!”って思うかもしれません(笑)。この作品をお引き受けするときに、台本も読ませていただいたし、そこも頭に入れてはいたんですけど、それよりも「一人芝居をやる」ことに意味があると感じていたんです。一人芝居に憧れる気持ちはやっぱりあるんですよね。俳優だったら、きっとみんなあると思う。事務所の先輩だと入江雅人さんが一人芝居をやられていて、すごく大好きでよく観に行っていました。そのチャンスが巡ってこないまま人生を終える人もいる中で、自分にはチャンスがやってきてくれた。そこは奇跡のように感じます。


――一人芝居のどんなところに魅力を感じましたか?

例えば、入江さんの『帰郷』っていう一人芝居があるんですが、僕も入江さんも福岡出身なので、そのお話が大好きで。お話の中で車に乗る場面があるんですが、ハンドルも無ければパイプ椅子くらいしか舞台上に無くて、そこにいるのは入江さんだけなのに、そこに車が見えてくるし、山道も見えてくる。一緒に居る相手がどんな顔をしているかも伝わってくるんです。もう、究極的ですよね。それが演劇の力だと思いますし、入江さん自身が詳細まで想像できているから、それがこっちにも伝わってくる。俳優という仕事、演劇という仕事をしていて、見えないものを見ようとする力ってすごく大事だと思っていて、一人芝居ってそういう力が抜群に上がるんじゃないかって思うんですよね。だから、ものすごく興味がありました。


――自分の限界に挑戦するには、一人芝居がすごくいい素材になるんじゃないかという予感があったんですね

もう言い訳もききませんからね。自分しかいないから、誰かのせいにもできない(笑)。


――普段のお芝居では、どんな感じで役作りしていくんですか?

具体的に何か意識することもないんですよね。基本的には稽古の中で少しずつ得られるようなものだし、役によってちょっと姿勢を良くするとか、トレーニングしたりとかはありますけど。でも無意識に、例えば家から駅までの道のりの中で役になって歩いてみるとか、そういうことはちょこちょこやっている気がします。人とお話しているときに、今自分だとこう話しているけど、役だったらどう答えただろう、とか。そういう感じで、常に役のことを考えている感じにはなりますね。


――今回、それが10役あるわけですが…

そうですね(笑)。でも一番大変だろうと思っているのが、場所を想像することじゃないかと思っていますね。どこで誰がしゃべっていて、誰がどこにいるのかを把握しないといけない。普通に10人で芝居するなら、そこに人がいるけど、自分の頭の中で把握していないといけないから、そこが大変なんじゃないかな。


――小さい女の子とか、自分自身とはかけ離れた役もありますね。

そうですね。でも、顔は僕の顔じゃないですか? リアリティは求められていても、リアルは求められていないと思うんです。そういうリアルさよりも、もっと大事なことがこの本の中にはたくさんあると思うので、そこをちゃんと演じていきたいですね。1人芝居で10役、となるとそういう部分が気になると思うし、演じ分けって重要なことだと思いますけど、本の大切な部分を表現していくこともしっかりとやっていきたいと思います。


――物語の印象はいかがですか

主人公はずっと葛藤があって、情緒の起伏が激しいんですよね。3秒前には絶好調だったのに、3秒後には絶望になっている人の話です。でも、そこまで極端じゃなくても、そういう繊細な部分は自分にもあって、共感できるところはあるんです。基本的に心配性で、最悪のシナリオを常に持っているんですよね。「きっとこんなふうに思われてしまっているんじゃないか」っていうことを、常に考えながら生きてしまうタイプなので、そういう意味では僕自身がこの本に救われるのかもしれない、救われたいな、と思っています。あと、放送では難しいような強い言葉がいっぱい出てくるのは、すごく演劇っぽいですよね(笑)。かなり突っ込んだところまでセリフでしゃべっちゃうところは、翻訳劇っぽいというか、演劇っぽい気がします。


――今回は1人芝居なので、演出の村井雄さんとはかなり密にやりとりをすることになりそうですね

まだお会いできていないんですが、海外公演もされているので、そういう海外ならではの感性があるのかなと想像しています。基本的に、僕は演出を受けるときは「はい」しか言わないんです。分からなかったら聞き返したり、理解できるまで話をしたりしたいですけど、「違うと思います」はナシですね。もし分からなくても、それをまずはやってみるようにしています。それは今回も変わらないかな。稽古も役者は1人なので、普段どおりが通用するかどうかわからないですけど。多分、ずっと落ち着かないんでしょうね(笑)


――作品に入ると、オンオフをしっかり切り分けるタイプですか?

少しずつ、オフを作れるようになってきた気もしますけど、オフできなくてずっと考えちゃうタイプですね。今回はオフにできないだろうな。シンプルに量が多いし、誰も頼れませんから、ずっと台本を持っているんだろうな。板に立ったら1人ですけど、それまではスタッフさんにたくさん助けていただこうと思います。


――今回の物語には「こうだったかもしれない」人生に想いを馳せるようなところがありますが、永田さんご自身の人生で、大きな転換点になった出来事はどんなことでしょうか

いっぱいありますよね。そんなことばっかりですけど、後悔もしていないんですよ。強いて言うなら、高校とか大学でもっと勉強以外のこともたくさんやればよかったかな。メチャクチャ、スポーツに打ち込んだりもしてみたかったですね。サッカーをやっていたので、高校サッカーとかを見ているとものすごく思います。中学の頃のサッカーは楽しかったですね。サッカーの強豪校とかに行って、揉まれながらやってみてもよかったんじゃないかな。


――そっちを選んでいても、今の仕事をしていた?

どうでしょう? わからないですけど、やっぱりお芝居が好きだから行きついてたかもしれないですね。そもそもを言えば、目立ちたがりだったし、芸能人だったら何でもよかったんです。少なからず、今でもそういうところはあると思います。でも、優先順位が変わったというか、いろんなことが中途半端だった人生の中で、何か1本に絞ってみたいと思ったのがお芝居だったんですよね。これだけは、心から好きで居られるようになりたいと思うようになりました。


――そう思えるようになったきっかけは?

それこそナルシストじゃないけど、それなりに自分では男前だと思って上京したわけですよ。そしたら初めての仕事の時に、周囲は180㎝超えで顔も小さくて男前な人がズラリといて、自分じゃ戦えないんだって現実に直面したんです。でも、芝居だったら負けない、っていうハングリー精神みたいなものはありました。それは、今もある気持ちです。


――俳優というお仕事は夢を手繰り寄せる力のようなものも必要じゃないかと思いますが、その力は何が原動力だと思いますか?

やっぱり熱量じゃないかな。この仕事をしていて、まっすぐに好きな気持ちが繋がったような思い出はたくさんあるんです。その熱がじんわりと伝染して、もしかしたら夢を手繰り寄せられているのかもしれない。うまくできているかどうかは、分からないですけど(笑)。


――今後、目指していきたい俳優像はどのようなものでしょうか

舞台は大好きなのでずっと続けていきたいですし、テレビでも第一線で活躍できるようにもなりたい。ミュージカルも、小劇場も、大きな商業演劇も、時代劇も、何でもやりたいんですよ。何にでもなれる人になりたいです。ギリギリまで何者か分からない人の方が魅力的だと思うんですよね。未来の”いつか”の自分を考えると、たくさん寄り道した方がいい。きっと見ている人も、その方が面白く観てくれると思うんです。


――今後、どんなお姿を見せてくれるのか、楽しみにしています。最後に今回の公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします!

本当に、一世一代の大勝負に出ていると自分でも思います。そんなに大げさな気持ちじゃなくても、ちょっと1歩進みたいと思っている方がいらっしゃったら、僕は今のこのタイミングで大きな挑戦をしますので、その姿を見ていただいて、勇気を与えられたらと思います。作品自体も、僕は共感できることが多くて、むしろ日本人には合っているんじゃないかと思うんですよ。自分の意思と会話できていない感じとか、なんとなくそんな予感がします。自分も含めて、今、何かにもがいているような人もたくさんいらっしゃると思うので、そういう方々の心がすこし温かくなればと思います。ぜひご覧ください!

インタビュー・文/宮崎新之