劇団た組。第十七回目公演『貴方なら生き残れるわ』稽古場レポート! 真剣で、純粋な危うさとは?

2018.11.09

10月31日(水)神奈川の体育館にて行われた、劇団た組。第十七回目公演『貴方なら生き残れるわ』の稽古模様が公開となったので、その様子をレポートしたい。

本作は、11月21日(水)から彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて上演となる劇団た組。の新作公演。作品ごとにタイプが異なる劇団た組。であるが、今回は松坂という人物を中心としたバスケットボール部の物語が展開されるようだ。少ない事前情報を手がかりに稽古場に向かうと、そこには驚きの光景が広がっていた。

稽古場として利用されている体育館からはバッシュ(バスケットシューズ)が床と擦れるキュッ、キュッという音と「ナイシュー(ナイスシュート)」「ナイパー(ナイスパス)」という掛け声が漏れ聞こえる。中に入ると、20数人の男子たちがパス&シュート(パスを走りながら受けてシュートを入れる練習)をしていた。

「ローチケ演劇宣言!」にて公開された劇団た組。主宰の加藤拓也と本作の主演を務める藤原季節の対談(≫詳細はこちら)で、加藤は「バスケのゲームをそのままステージでやることになる」と明かしていたが、まさかこれほどまで真剣に、そして純粋にバスケが行われているとは思わなかった。あっけにとられていると、練習はパス&シュートからスクエアーパス(四角に別れて走りながらパスを回す練習)、ハーフコートの5対5と展開。加藤は部活の顧問の様相で作戦ボードを手に「3対3の構図を作るんだよ」とゲキを飛ばす。また、加藤の声に藤原をはじめとした出演陣も「ハイ」と汗を拭きながら走りこむ。この様子をたまたま見た人は彼らが演劇のために集まっている集団とは思いもしないだろう。

しかし、その練習風景をよく観察していると、加藤が描こうとする演劇世界が少しずつ見えてくるのであった。

演劇でよく使用される表現方法に“見立て”というものがある。バスケットボールを持っているように俳優は見立て、パスを繰り出しシュートを打つ。当然、ボールはそこにないのだが、俳優の見立ての巧みさによって観客はイメージのボールが浮かんでくる。演劇では予測不可能なアイテムを排除する傾向にあるため、ボールといった偶発的な要素の強いアイテムは大抵、この見立ての手法で描かれるのだ。

では、『貴方なら生き残れるわ』はどうだろう? 端的にいうと、加藤は見立ての表現を選ばず、リアルなバスケプレイを舞台上に持ち込んだ。
聞いたところ、藤原をはじめ出演者の多くは未経験者であるらしい。その場合、付け焼き刃のバスケ技術ではボールは四方に飛び跳ね、観客は無軌道なボールを追いかける素人の遊戯を見ることになりかねない。

ところが練習風景を見ていると、“素人”なんて言葉は思いもつかないような高レベルなプレイが繰り広げられていた。筆者は中学・高校とバスケ部に所属していたので多少目は肥えている。バスケットはシュートフォームやドリブルの様子を少し見るだけで、経験者かそうでないかはわかるものだ。
そんな筆者から見ても、彼らのバスケプレイは本物であった。聞くところによると出演者一同、この公演のために8月からバスケの猛練習をしたそうだ。なんと、彼らは短い期間で圧倒的なバスケスキルを手に入れたのだ。

練習の様子にもどろう。ハーフコートの5対5はなんと1時間30分、ほぼ休みなく高い緊張感で行われた。その間、オフェンスもディフェンスも純粋にバスケをしている。果たしてこの練習がどう舞台に昇華されるのだろう。そう考えて見ていたら、彼らの動きには法則性があることがだんだんとわかってきた。とあるフォーメーションが繰り返し展開されているのだ。

「もしかしたら、このフォーメーションはシナリオの一部なのかもしれない」そう考えると、あながちこのバスケ練習が演劇ではないとは言えなくなってきた。シナリオの流れに沿うように、俳優が場面を繰り返し練習して自然な流れを極めようとするのは、演劇稽古の基本である。目の前で真剣にバスケに明け暮れる一同は大まかな筋に対して即興を繰り返しながら、役を、場面を作り込んでいるようであった。
ハーフコートと言えど、休みなく機敏に動きまわり、肉体をぶつけあえば、とてつもない運動量になる。途中言葉少なくなってきたプレイヤーに対して、ベンチから、「体力勝負だよ、この舞台は!」なんて鼓舞する場面も見ることができた。

ハーフコートの5対5の後は、谷川正憲(UNCHAIN)がセンターラインにギターを広げ、舞台稽古となった。場面は高校の体育館で、男子バスケ部の部活模様が描かれる。休憩時間になるとベンチで高校生らしい下品な他愛のない会話が繰り出され、ニヤニヤしてしまうような既視感を楽しんでいると、不意に次の瞬間、松坂役を演じる藤原のトラウマを回想する場面がすり替わっていたりする。

 その見事な場面転換が他愛のない会話に不意に差し込まれることで、部活に明け暮れる高校生の何気ないやりとりの裏には常に、静かで冷たい不条理ななにかがうごめいていることがわかる。さらに、谷川正憲の演奏が場面の臨場感をシリアスにもサスペンスフルにもセンチメンタルにも増幅させる。

また、演出の加藤が台詞を中心に展開する場面でも細かいバスケの実技に厳しくダメ出しを入れていたのが印象的であった。確かに、バスケの実際的なプレイが段取り的だと、興ざめしてしまう。さらに深みのあるリアルを舞台場に起こすため、加藤は俳優のバスケ技術に一切の妥協がないようであった。

今回の公開稽古では舞台の全貌を見ることはできなかったが、シナリオ上にはシュートを決めないと物語が進行しない場面などもあるそうだ。とはいえ、この練習の様子からもわかるように、本作のバスケシーンには段取りのための妥協が一切ない。オフェンスもディフェンスも真剣勝負なのだ。

つまり本作では「何が起きるかわからない」という高い緊張感と危うさがカーテンコールまで保たれ続けるのだろう。また、その高い臨場感は多感な高校生活描く上で強力な武器となる。見立てではない予測不可能なバスケプレイは、一歩踏み外すと学校というステージから弾かれてしまう多感な時期を表現するのにぴったりである。

本番では、さらに想像を超える緊張感とそれに勝る感動が用意されているのだろう。出演者の圧倒的なバスケ練を通して積み上げた高校生の危うくも心揺さぶる物語、考えるだけで見ものである。ぜひ彼らの青春を劇場で体験してほしい!

 

文/大宮ガスト