TAAC「静かにしないで」|タカイアキフミ・永嶋柊吾・小林リュージュ・高畑裕太 インタビュー

タカイアキフミが主宰を務めるTAACの新作公演『静かにしないで』が、2024年5月24日(金)~6月2日(日)まで、シアター711で上演される。作・演出のタカイアキフミ、今回出演する永嶋柊吾、小林リュージュ、高畑裕太にインタビューを行った。

――今回の物語、題材について教えてください

タカイ TAACは今まで「その後」に目を向けてきました。今回は、コロナ禍で流行したフードデリバリーサービスの人々の「その後」。演劇は時代を切り取るものだと思うので、ゴーストレストランはコロナが落ち着いた今、書くべき場所だと思いました。
そして、限られた人しか足を運ばなくて実態が見えにくいゴーストレストランの店員として、同じようにあまり認知されていないトゥレット症の登場人物がいる。実体のなさ、僕らが目を向けられていない日常に目を向ける物語にしたいと思って劇作を行いました。
今はSNSなどで目に見えない言葉がたくさん飛び交っていて、僕らはコロナ禍も今も惑わされている。本当に言いたいことじゃない言葉も発してしまうトゥレット症の人が、ネットやSNSのうるさい言葉たちの中でどんな言葉を吐くのかというところでこの題材を選んでいます。

――皆さんが演じる役について教えてください

永嶋 僕の役はトゥレット症を抱える弟。生活をする上で思い通りにならないことが多々ありつつ、健気に一生懸命生きようとしている人。まだ一場までしか読めていませんが、今はそう思っています。

小林 僕が演じるのは、母が経営していたレストランをコロナ禍でゴーストレストランにした兄。普通の兄弟間でも「なんで弟ばっかり」ってことがあるじゃないですか。今作でも、母と兄は障がいを抱える弟の人生に寄り添って生きてきた。それに対して無意識にストレスを溜めてしまっていて、でも外に出さないように必死な兄の役です。

高畑 フードデリバリーサービスの配達員です。注文されていないはずの商品をお店に取りに来て、兄弟の問題に巻き込まれていく人。彼自身に障がいや家庭的な問題はないけど、人生において実体をつかめていない。兄弟のレストランにたまたま入り、特別な何かを獲得するわけではないけど変化する役です。

――書く上でのこだわり、大事にしたことはなんですか?

タカイ 障がいを持った人を書くうえで、演劇のための道具として扱いたくないと思っていたし、そうなるなら題材として取り上げないほうがいいよねという話をしました。僕は当事者じゃないので気持ちを全て理解することはできないけど、誠意を持って書こうと意識しました。

――小林さんと高畑さんはTAAC初参加。参加してみていかがでしょう

高畑 今回は特殊だから。

永嶋 初参加なのに(笑)。

一同 (笑)。

高畑 過去作を見てても特殊だなって。キャスト3人は10年くらいの付き合いがある。他の団体とは違う感覚があって楽しいです。

タカイ 初めてだけど、ある種の懐かしさがあるってこと?

高畑 そうです。役者の技量が試される、難しいけどやりがいがある作品を10年来の友達とできるのは特別な体験だと思います。

小林 タカイさんが描く世界が好きなんです。それに、タカイさんのお芝居に出演している柊吾くんが素敵だったので、ご一緒できるのが嬉しい。世代が近いメンバーでディスカッションしながら作るのはすごくフレッシュですし、大変さも含めて楽しみです。

――見どころ、注目ポイントはどこでしょう

タカイ 今の世の中、どうしたって生きづらい人の方が多い気がしています。今回の登場人物3人もどちらかというとそういう人々。それでも生きていくということをそれぞれの形で噛み砕き、一旦前を向いてみるみたいな作品です。見てくれる人にとっても、ちょうどいい希望や祈りの物語になっていると思います。崩れそうになっている人をそっと支えるような作品になったんじゃないかという感覚があります。

――書き終えたばかりとのことですが、すでにセットを組んで稽古をされているんですね

タカイ 今回はシアター711というかなり狭い空間。ものを敷き詰めたいというか、かなり具象でやりたいと思っています。視覚と聴覚だけじゃなく嗅覚など、五感をフルに使ってもらえるような劇空間にしたいということで、美術も具体的だったり、実際に食べ物も出てきたり。稽古でも物を配置しながらやれるようにしています。

――役や作品を深めるためにしようと思っていることはありますか?

高畑 毎日何か一つでも発見できたらいいなと思っています。「届ける劇」だけど、劇なので面白くないと意味がない。あと、タカイさんが「TAACはもしかしたら最後かも」とおっしゃっているので、タカイさんのやりたいことを実現できる作品にしたい。特別な公演になって、盛り上がったらいいなと思っています。

永嶋 まだ一場以降を読んでいませんが、噂ではみんな大変なことになるらしくて楽しみです。一生懸命生きた結果の大変だと思うので、役を愛して可愛がりたいと思います。

小林 兄弟や家族って、近いからこそ気を遣ったり、本当は向き合うべきなのにしなかったり。僕は特に、家族に対する照れ臭さもある。今回の公演をやる上でそういう気持ちと向き合って深掘りしていかないと、お客さんが見て面白いものにならないと思う。ここから皆さんと一緒にやっていけたらと思っています。

タカイ 演劇を初めて7、8年ですが、やればやるほど書くのも主催するのも大変になっています。疲弊する中で描いたものが、一歩踏み出して結果に関係なく何かしらの決意をする作品になったのは、自分の人生においても良かったと思っています。自分の中に実感がある台本になっている気がしていますし、それは3人の役者やサポートしてくれるスタッフの力あってのこと。この作品が間違いなく僕にとってひとつのエポックになると思います。

――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします

高畑 TAACという団体にとっても、キャスト・スタッフにとっても特別な公演になると思います。『静かにしないで』を観にきてくれたお客様も特別な感覚を味わえる公演になったらいいなと思います。

小林 僕自身、生きていて何度も立ち止まったことがありますし、本人にとってのターニングポイントで悩んでいる人が常に周りにいます。皆さんも少なからずそういう経験があると思いますが、そんな人たちが見て何か感じ取ってくれる公演になると思います。ぜひ劇場で見ていただけたら幸いです。

永嶋 ちょっと早く稽古が終わって街をふらついた時に、みんなすごくちゃんと働いているなと思って。好きなことをしてお金をもらっているんだから、誠実にやらなきゃと改めて思いました。それは当たり前の話として、僕らですらあるから、定時に仕事に行く生活はストレスが溜まるだろうなと。そんな気持ちを少しでもほぐせたら。普段は意識しないことにこのタイミングで気づいたので、いつも以上に「届ける」意識を持ちたいです。

タカイ 昨今チケット代も高いし、届けるべき人たちに演劇を届けられているか自信がなくなる時もあります。でも、演劇にしかできない心の浄化、劇場という空間ならではの力があると信じています。様々な面でハードルが高い人もいると思うし、TAACはそんな人たちにも厳しい刃を突きつける作品も多い。でも、最後にはあなたたちの生き様をも肯定したいと思って演劇を作っています。できるだけ様々な環境の人に見てほしいと思っています。

撮影・文/吉田 沙奈

《リラックス・パフォーマンス公演》決定!
TAAC『静かにしないで』では、5月30日(木)14時公演にて《リラックス・パフォーマンス公演》が実施される。劇場空間での観劇に不安がある方や観劇が初めての方にも安心してお楽しみいただけるよう、通常と少し異なる環境で上演される。様々なご事情によりなかなか劇場に足を運ぶことが難しい方や、目や耳が不自由な方、小さなお子さまがいらっしゃる親御さんなど、幅広い方に観ていただきやすい公演。
詳しくは公式HPへ。