★東京公演開幕★『あの夏至の晩 生き残りのホモサピエンスは終わらない夢を見た』ゲネプロレポート

2024.06.07

撮影:細野晋司

昨年旗揚げした、串田和美率いる“フライングシアター自由劇場”の第二回公演は、ウィリアム・シェイクスピアの『夏の夜の夢』を原作に、串田自身が脚色・演出・美術を手がける新作『あの夏至の晩 生き残りのホモサピエンスは終わらない夢を見た』。

その東京公演の初日が6/6(木)、新宿村LIVEにて開幕した。前夜に行われた本番同様のゲネプロを拝見、その模様をここでレポートする。なお、印象深くも大変に長いタイトルだが、串田が『夏至夢(ゲシユメ)』と略してもいいと公言していることもあるので、以降は『夏至夢』と略して表記させていただくことにする。

舞台装置は、とてもシンプル。透ける素材の幕で囲われたステージは照明が美しく映え、キャストの出入りや移動が透けて見えるところも原作の幻想的な世界観を想起しやすい作りになっている。3つの可動式のパーテーションに付けられたドアからキャストたちが姿を現すと、物語が始まる。

 幕開き早々に串田が登場、白く丸い球体を手に佇み、この“色のない球体”のことを独白。そこに川上友里と谷山知宏も加わり、コミカルなやりとりを重ねると串田が妖精パックであることがわかってくる。劇中に何度かバージョンを変えつつ再現されるこの詩的な場面は、作品のオリジナル部分を象徴するシーンでもある。球体は何を表現しているのだろうと考えているうちに、どんどん『夏の夜の夢』の登場人物たちが現れ、『夏至夢』の世界へと没入していく。

串田の脚色および演出は、楽器を演奏したり、顔だけのパペットを使ってみたり、劇中劇では祝祭的なカラフルさで目を奪ったり、映像効果も駆使したりしながら、楽しげに賑やかに時には衝撃的に原作の印象深いシーンを紡ぐ。

とにかく抜群にチャーミングな串田演じる妖精パックを筆頭に、8名のキャストはそれぞれの個性を活かしつつ、何役も何役も見事に演じ分けていく。大空ゆうひはプライドの高そうな女王から素朴な職人まで、ギャップのある様々な表情を見せ、短いながら歌唱シーンもあるためファンには垂涎の舞台になっている。想像以上にシェイクスピアの台詞が似合っていてとても聴きやすく、他の演目でもぜひ観てみたい(聴いてみたい)とも思った。

川上友里のヘレナは妙に現代っぽくリアルな切なさをはらんでいて、とてもキュート。皆本麻帆のハーミアも、アイドル級の可愛らしさで輝きを放っていた。小日向星一のライサンダーはとぼけた味の中にも捻りを感じさせ、串田十二夜は旗揚げ公演に続いてまたも歌声を披露し、そのパフォーマンス力のポテンシャルを見せつける。さらに独特の声色の使い分けと身のこなしが面白く出てくるたびに目が釘付けだった谷山知宏と、身体表現からの説得力はもちろんのこと、串田と二人のシーンでの無茶ぶりに笑わされた島地保武の存在感も圧倒的だった。このバラバラな個性の8人のバランスが絶妙で、ライブ感の強い演技も大きな見どころとなっている。

シンプルかつデタラメで、切なくも可愛らしくて賑やか。独特の緩さのある手作り感までもが魅力的な、他に類のない、束の間の“夢”。『夏の夜の夢』を観るたび沁みる妖精パックの幕切れの台詞には、やはり『夏至夢』でもしっかりと心を掴まれた。 

東京公演は新宿村LIVEにて、6/12(水)まで上演中。公演期間中はチラシビジュアルを担当した画家・平松麻による今回の舞台をイメージした絵画展『9人の夢』も開催、地上入口から劇場へと向かう階段の壁面に作品を展示している(開演間際で慌てて見逃さないよう、余裕ある現地到着をオススメ!)。

その後、まさに“夏至”の6/21(金)と22(土)にはルーマニア公演(シビウ国際演劇祭2024 正式招聘作品)があるほか、7/5(金)~7(日)には松本公演(信毎メディアガーデン)も予定されている。  

取材・文 田中里津子

撮影 細野晋司