ナイロン100℃ 49th SESSION『江戸時代の思い出』│ケラリーノ・サンドロヴィッチ インタビュー

KERAが謎多き新作のヒントを語る!
初の“時代劇”かつ、他で観られない“ナンセンス劇”が誕生!!

今年も精力的に新作舞台の上演が続いている、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)。作品ごとにガラリとテイストが変わるKERA作品だが、主宰する劇団ナイロン100℃の次回作『江戸時代の思い出』は、なんと初めての“時代劇”で、それも“ナンセンスコメディ”になるという。結成30周年記念公演でもあるこの新作、ここに来て予想不可能な新路線の作品が目撃できそうだ。現在、稽古を進行させながら台本を執筆中のKERAに、果たしてどんな新作になりそうなのか、ヒントを語ってもらった。

――今回はナイロン100℃初めての時代劇とのことなので、まずはなぜ今、時代劇なのか、そして『イモンドの勝負』(47th SESSION・2021年)みたいな作品になりそうだというヒントをいただきましたが、あのナンセンス感がどう時代劇に繋がるのか、というあたりからお伺いしたいのですが

『イモンドの勝負』みたいと言ったのは、つまり路線としてはナンセンスですよという意味ですね。それだけです。その前にまず、時代劇をやろうというのは、口をついて出たことだったんです。見た目で、明らかにいつもと違う作品をやってみたかった。これまでの作品では洋モノも和モノもやっているし、昭和を背景にした作品も散々やっているし。西部劇だって、一応女性だけでやっていますしね。

――未来モノも、既にやられています

そうなると、残っているのは時代劇かなと思ったんです(笑)。だけど僕自身は、時代劇ってまったく見ていないんですよ。『水戸黄門』とか『銭形平次』とか『遠山の金さん』とか、子供時代にテレビでやっていた時代劇も一切見ていない。たまたまその時間テレビをつけていたことはあったけど、特に興味を持って見ることがなかったんです。だから何も知らないし、正直興味が無い。時代劇を知らない人間が時代劇を書くことになった場合、果たしてどんなものになるのかな、ということに興味があるんです。

――一体どういうものが書けるか、自分が自分に興味を抱いている?

そうです。でも当初は単に時代劇でいく、ということしか決めていなくて。人間ドラマっぽいコメディとか、ちょっと猟奇的な世界に踏み込んでみるというのはアリかな、なんてことは思っていたんですけど。結果的にはナンセンスになりました。

――その方向性で台本を書き始められて、今日の取材の時点では冒頭の50ページ分くらいを読ませていただきましたが、ただただ面白い会話のやりとりが延々と続いている印象でした(笑)。あれがこの先どういう風に展開していくかというのは、少しヒントがもらえたりしますか?

いや、何にもわからないです。僕が知りたいぐらいです、どうなっていくんでしょうね(笑)。

――書くと同時に、物語が進んでいくのでしょうか?

そもそも物語を書こうと思ってない。その時、その時で面白がることを書いていく、という感覚なんです。翌朝起きてみて「あれっ、昨夜は面白かったのになぁ?」と思いながら全部消したり。

――そんなことも?

あります。今回みたいなナンセンス作品は、別にどう転がっていってもいいんです。こうならないと、次の展開に話が繋がらないということがないので。

――ただ面白いか面白くないかで判断して、面白ければ残していく?

そうなんです。これはこれで大変なんですよ、決して適当に書いているわけではなくて。

――もちろんです(笑)

自分が面白がれるラインのレベルが高いというか、これがまた高さだけの問題ではないんですけどね。ある限定された領域なので、難しいんです。自分で難しくしてる、ということもあるけど。ある意味、あえて笑いにくくしているところも多々あると思います。「笑わせ方」が重要なんですよ、自分にとっては。

――ナンセンス作品と、ストーリーがある作品で、ナンセンスがより難しいということもありますか?

いや、どっちも難しいです。そもそも、演劇は難しいですよ(笑)。ストーリーがある時は、まず冒頭はとても悩みます。どんな方向にでも行けるから。その後しばらくは悩まずに書き進んでいって、そこで風呂敷を大きく広げてしまうと今度は後半でまたものすごく悩む、というパターンが多いです。でもナンセンスの場合はそういうパターンとは違って、常に悩んでいる感覚ですね。あとお客さんってナンセンスの場合、必ずどこかで笑わなくなるんです。ある意味、麻痺してしまうんですね。

――笑いの感覚が、麻痺するんですか?

デタラメな出来事が続くと何が起きても当然に思えてきて、驚きがなくなっていくんです。それは、これまでにもう幾度となく経験してきているので。だから観客を飽きさせないということだけで考えれば、ナンセンスな笑いの連打のあと、ちょっとしたストーリーを入れて面白がらせるというやり方のほうがいいのかもしれないんですが。

――とはいえナンセンスの笑いを重視するとしたら、お客さんのことだけを考えてもいられない、と?

そういう意味ではきっと、自分が面白いと思うことについてきてくれるお客さんもいるはずだと信じているので。正直に言うと、そこで振り落とされてしまうお客さんには「今回はスミマセン!次回またまったく別のタイプの舞台をがんばりますからよろしく!」と言うしかないんですよね。やっぱりどこか、ちょっとやり過ぎる感じがあったほうがナンセンス・コメディの場合は面白い気がしていて。つまり、耐えられない人が出てくるかもしれない、そのくらいくっきりしたものでもあるジャンルなんです。『イモンドの勝負』の時は、あれはあえてだったんですがすごくくだらないシーンと暗いシーン、たとえば首吊り用の縄がぶら下がっているような陰鬱なシーンを並べることで、強いコントラストをつけていたんです。その落差みたいなものが、書いている自分には面白かった。今回も同じテを使っても良かったんですが、最近はもうずっと世の中も暗いし、自分自身としてもあまり楽しいことがないので。だから今回は、比較的ドライな作品にしたいなと。いわゆる痛快で明朗な作品にはならないでしょうけど。そもそもナンセンスってちょっと怖いものでもあるんです、すごく危うい笑いだから。そういう、笑わせた裏側にものすごくジメッとした暗い世界があるとか、足をちょっと踏み外したらグルッと地面が裏返るみたいな感覚は書きやすいですけど、でもそっちを過剰に感じさせ過ぎないものにもしたいんですよね。

――では、ジメッとさせる方向ではなく?

あくまでも乾いたものにしたいので。だけど、そうするとどうやって作品の個性というか、香りみたいなものを出していけるのかが、ちょっとまだわからないんです。匂い立つものが、何か欲しいんですけれども。

――それは書き進めていけば、自然と出てくるものですか?

そうですね。ある地点で「なんとなくこういう匂いだな」と気づけたら、そこからはさらにそれを際立たせようとしながら書いていきます。

――そのきっかけをつかまないと、どんな匂いの作品なのかが

ドライなものの場合は特に、わからなくて。だからといって無味無臭なものに仕上げてしまうと、単に「なんだか、めちゃくちゃで面白かったね」というだけのものになってしまう。

――それだとイヤなんですね

あまり好ましくないですね(笑)。確かに「ああ~、面白かった!だけで何も残さず終わるのもいい」とおっしゃる方もいますし、僕だってそれはそれでいいとも思うんですけど…でもやっぱり自分の作品では古くは『ウチハソバヤジャナイ』(劇団健康・1992年初演)から始まって、それぞれのナンセンスコメディごとに違うイメージをお客さんの中に残せてきたと自負していますので。

――作品ごとに匂いが違うものなんだけれど、今回の新作はそれをまだ探っている最中だということですね

そういうことです。とりあえず今はまだ序盤のシーンまでですが、全体を通してあまり展開しないものにしようと思いながら書いています。「何も無い、でも強烈な香り」というのが目標です。

――そして今回のキャスト、座組の顔ぶれについてもお聞きしておきたいのですが

今回は、三宅弘城が演じる<武士之介>が作品世界の中心です。ただ、思うままに書き進めていると、江戸時代の人たちのところに現代を生きる人々が押し寄せてきて、中心のはずの三宅が傍観者になっている時間が意外に長かったりもする。という感じで、ナンセンスは最初に決めたからといってそうなるとは限らないものなんです。まあ、それはともかく、ついこの間まで女性だけの芝居をやっていたこともあって、今回は三宅、大倉、みのすけという男性陣がメインになると思います。くだらなさは男性の方が強く出るしね。

――ゲストにも山西惇さんと池田成志さんがいますしね

今回のゲストは、あと坂井真紀さんと奥菜恵さんがいて、この四人とも何度もご一緒させてもらっている、勝手知ったる面々ですから安心です。稽古初日の顔合わせの時、劇団員たちも「いい意味で今更って感じの人たち」みたいなことを言っていたくらい(笑)。気を遣わなくていいし、どんな芝居をするんだろう?って心配になることもない。

――とても安心感がある客演陣

安心重視です。そうでないと、稽古での細かい物言いや、自分たちが変化していくことを楽しんでもらえないから。

――そこを楽しんでもらいたい、と?

ナンセンスはフィルターがいっぱいあって、本当に難しいんですよ。

――ナンセンス劇を観る時の、楽しみ方のコツみたいなものってあったりしますか?

観る上では、勝手に観て楽しんでくださいと言うしかないですけど(笑)。でもやはり、ナンセンスは人を選ぶと思います。「私、あんまりメチャメチャなのは嫌い」っていう人もいるでしょう。それは仕方がない。

――好みかどうか、ということですね。でも一度、観てみないと好きかどうかもわからないし。他にもいっぱいナンセンスの演劇が観られるなら、その機会もありますけど

そうなんですよね。だけど自分の年齢を考えると、我ながらすごいかもとは思いますよ。さっきも犬山イヌコと「還暦過ぎてここまでくだらない内容の作品をやるなんてすごいね!」って話になったんだけど(笑)。まあともかく、確かに他ではあまりやっていない種類の演劇です。大雑把に「くだらない演劇」というものはたくさんあるけど、「徹底して緻密な作り方をしているくだらない演劇」というものは、実は数えるほどしかない。今回は、それが観られますから。

――貴重な体験ができるはずですね

そして、数は多くないかもしれないけど僕のナンセンス作品のファンもいるはずですから。その方々には「大変お待たせしました!」という気持ちですし、大いに楽しんでほしいと思っています(笑)。

取材・文/田中里津子
撮影/篠塚 ようこ