©磯部昭子
世田谷パブリックシアターが新たにスタートする夏のアートフェスティバル「せたがやアートファーム 2024」のメインプログラムである音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が8月6日(火)に開幕する。
本作は、劇作家・童話作家として名作を生みだしてきた別役実の傑作童話「空中ブランコのりのキキ」、童話集「山猫理髪店」より「愛のサーカス」など、サーカスをテーマとした作品数本、「丘の上の人殺しの家」を原作に、劇団「快快」の俳優・振付家・演出家である野上絹代が構成・演出し一本の音楽劇として再構築。同じく「快快」の脚本家・演出家の北川陽子が脚本を、多くのアーティストやメディアに音楽・リミックスを提供し活躍するオオルタイチが音楽を手がける新作音楽劇。出演者は、咲妃みゆ、松岡広大、玉置孝匡、永島敬三、田中美希恵、谷本充弘、馬場亮成、山下麗奈そして瀬奈じゅん、また日本サーカス界を牽引するサーカスアーティスト5名が揃う。
稽古場にて、松岡広大に話を聞いた。
アイデアを言い合える環境が楽しい
――稽古はいかがですか?
クリエイションの時間です。突飛なことも多い戯曲ですし、それを人間がどうやるか、みんなで考えています。まず演出の野上さんが『こういうふうにやりたい』ということを提示されて、そこにみんなでアイデアを言い合っています。それぞれの可能性を否定せず、議論と対話がしっかりできる環境なので非常に楽しいです。
――別役実さんの複数の童話作品が合わさった脚本にはどう思われましたか?
別役実さんの作品はつながっていないようでどこかつながっていたりすると思うのですが、それがいい割合で混ぜ合わさっているなと思います。こんなふうにつくりあげた野上さんも北川さんもすごいなと感じました。
――その中で松岡さんが演じるピエロの少年ロロはどんな役ですか?脚本からは、妹を亡くした過去を持ちながらも明るい存在になるかなと想像しました
明るさを作ると影ができるから、今はどちらかというとその影の部分を考えています。影の部分が劇中で描かれるわけではないのですが、それが明るい理由をつくることにもなると思うので。
――妹さんを亡くしたということ以外の影、ということですね
ロロは遠い国からやってきた存在なので、移民のストレス、例えば『母国語はなんなの』とか、日常の中で言われてきたんだろうなと。それでもサーカスにいる理由を考えてみたりしています。
――咲妃みゆさん演じるキキとの関わりも大きい役ですね
ロロのポリシーが『生きてりゃなんでもいい』ってことなんです。肩書がなくても生きていればいい。咲妃さん演じるキキは、肩書を守るために自分は空中ブランコで飛ばなくてはいけないという使命感と義務感を持っているんです。これは資本主義と消費社会のお話だなと思いました。あなたは肩書を捨てられますか?という。キキとロロの間で、その思いが拮抗するところは、素敵だなと思います。キキとロロはお互いの言い分もわかるので、演じていて楽しいです。
――キキにとっては空中ブランコが大きなアイデンティティなんだと思うのですが、ロロにとってのそれはなんだと思われますか?
自分が生きることと、自分の大切な人が生きているということだと思います。役に立つとかそういうことではなくて、現実でも『ただあなただから好き』とは言いづらい風潮がある気がしていて。
――それは自分自身に対してもそうですよね。なぜ自分がここにいるか、というところで役割にすがるというか
そうですね。そういうものをできる限りなくしていきたいのがロロかなと思います。決して強要するわけではないのですが、そんなことを考えなくてもあなたという存在はひとつしかないんだから、そこだけを見てほしいなと。
――もう一役演じる「象」は、おとぎばなしの登場人物ですね
象はパペットを使って表現するのですが、とってもおもしろいです。命のないものに命を与えるというのはとんでもなく難しいですが、これまでに人形劇を観たことや、ノンバーバルな公演を観たこと、そういう経験が生きて、少しはイメージをできるようになっているかなと思います。
言われずとも好奇心でやり始める、その雰囲気が好き
――サーカスアーティストも参加して、サーカスも観られるんですよね
そうなんです。みなさんのサーカスを観ていると、人間の身体は言葉より雄弁だと思う瞬間がたくさんあります。鍛えられた肉体には説得力もありますし。
――キャストのみなさんもサーカスに参加されるのですか?
どのくらい参加するのかはまだ未定なのですが、みんな自然とジャグリングなどをやり始めています。でもこれは指示されたわけではなくて、言ってしまえば勝手にというか、『やってみたい』という感じで練習し始めたんです。
――へえ!
やりなさいと言われるのではなくて、好奇心でやり始めた。その雰囲気が僕はとても好きです。
――松岡さんといえば身体能力の高さですが、なにかやられるのですか?
今は野上さんに、どういう踊りがこのシーンにふさわしいと思いますか?という質問をされたりするので、それに応えられるように色々な事を試している途中です。
――音楽劇でもあります。オオルタイチさんの楽曲はいかがですか?
オオルタイチさんって『トラックメーカーの鬼才』って言われているそうで、その独特な、形容しがたい音楽が、作品に合っているなと思いました。音の多さというか、使い方が特殊なのかなと感じます。
――松岡さんも歌うんですよね
なかなか難しい歌を歌います。難しいというのは、メロディラインというよりは、『その状態で歌うの?』というような意味で(笑)。
――いま稽古をしてて楽しいのはどんなことですか?
この環境で芝居ができるのが幸せです。咲妃さんのことは一方的に尊敬しているので、そんな方と刺激し合うような役がやれているのも幸せですし、瀬奈じゅんさんや玉置(孝匡)さん、永島(敬三)さん、田中(美希恵)さんなど皆さんとお芝居でご一緒できることがすごくうれしくて。自分にないものを毎回発見します。それで自分に落胆したりもしますけど、それ以上に受け取るものが多いので、ここでもっと成長していきたいなと思います。
――咲妃さんを尊敬しているのはどうしてですか?
稽古場でも舞台上でも、とにかく真っ直ぐな方なんです。演劇で色々なことに挑戦されている方なので、ご一緒しておもしろい景色が見られるだろうなと思っています。今回本当に、スタッフのみなさん含め素敵なカンパニーというか、いい家族のようだなと。公演を楽しみにしていてください。
――この公演は「18歳以下 無料」や「ペアチケット」(一般1名+18歳以下1名の2名分で4,000円)も素晴らしいなと思います
それをぜひ知っていただきたいです。新しい世代の人たちにも劇場に来てほしいので、ぜひ大人と子供のペアで観に来ていただけたら嬉しいです。もちろん、大人だけでも楽しめる作品なので、大人の方だけでもぜひ来てください!
取材・文/中川實穗