unrato#12 「Silent Sky」|大河内直子&朝海ひかるインタビュー

演劇ユニット「unrato」が、2024年10月18日(金)より、アメリカの劇作家ローレン・ガンダーソンの『Silent Sky』日本初演を行う。本作は、女性に研究者としての地位がなかった19世紀初頭にハーバード大学天文台で研究を続け、天文学史に残る発見をしたヘンリエッタ・スワン・レヴィットと家族や同僚たちを描いた物語だ。

演出の大河内直子と、ヘンリエッタを演じる朝海ひかるに、作品の魅力や楽しみなことを伺った。

――まずは大河内さんに、この物語を選んだ理由をお伺いしたいです。

大河内 コロナの自粛期間中に、タイトルが気になって読みました。ちょうどその時期の気持ちにフィットしていたというか、閉塞感を世界中が感じていた時期だったので、冒頭に書かれていたアニー・ジャンプ・キャノンの言葉に共感し、読み進める中でヘンリエッタの生命力、突き進む力に惹かれて、今上演したいと思いました。

――日本初演に対する意気込みを教えてください。

朝海 「やった!」って思いました(笑)。日本初演として私たちのカンパニーの『Silent Sky』が歴史に残っていくと思うと嬉しいし、やりがいがありますよね。もちろん、日本の皆さんに受け入れられるかは私たち次第なので責任もありますが。

大河内 日本のお客様に初めて紹介するというときめきもありますし、襟を正す思いもあります。話が回り道になりますが、ROYAL ACADEMY OR DRAMATIC ART (英国王立演劇学校)に留学中に、劇場模型を自分で作って演出と美術をプレゼンする機会があったんです。アジア人は私一人で、日本のテイストは入れなかったけど「日本人っぽいね」と言われたのが印象に残っています。この作品はアメリカで初演が行われ、色々な場所で演じられていますが、自分では意識しない、でも日本で育った私たちにしか出せない匂いが出るかもしれない。日本風にするということではなく、今の私たちじゃないと汲み取れない何か、今上演する意味のようなものが見つかるんじゃないかと思っています。

――物語全体から受けた印象はいかがでしたか?

朝海 人間ドラマの中に天文学の発見がある物語。一人の女性の物語で、成し遂げたことがすごかったという。“ザ・偉人伝”としては作っていないのがかえって魅力だなと感じました。題名から何を汲み取るかは人によって違うだろうし、見終えた時に考えることも違うかもしれない。不思議な戯曲ですよね。

大河内 ヘンリエッタが周りを巻き込んでいくけど、そこからそれぞれの物語が展開していく。

朝海 女性の参政権に関する活動も盛んになった時代で、そこに没頭する人もいるし、ヘンリエッタは星の研究に邁進するし、妹のマーガレットには音楽があるし。一人ひとりにやるべきことがあるのが魅力ですよね。ストレートのお芝居ですが、高橋由美子さんの歌も聞けるという。

大河内 音楽の阿部海太郎さんにも注目してほしいです。彼は非常に透明感と深みのある美しい音楽を作ります。作品のイメージにとても合うと思います。

――広田さんの翻訳についてもお聞きしたいです。

大河内 翻訳の既成のルールにとらわれずに、リズム感のある瑞々しいやり取りにしてくださいます。翻訳を読んで「こうきたか」と思うことが多い。何より広田さんは作家の核を見つけるのがすごく上手い。

朝海 本読みをした時に広田さんもいらっしゃったんですが、原作者の他の作品もちゃんと汲み取って、「この作品ではこう」と判断してくださっている。すごく信頼がおける方だと感じました。

――大河内さんからキャストの皆さんに期待したいことはありますか?

大河内 期待ばっかり(笑)。じっくり話をして、イメージを共有しながら進めていけるチームだと思っているので、お互いの妄想をぶつけ合って、お互いの想像力を超える作品になればいいなと。言いながら自分の首も絞めてる?(笑)。

――お二人には、天体や宇宙にまつわる思い出、エピソードはありますか?

大河内 1980年から90年の間に、カール・セーガンという天文学者が流行って、「コスモス」というテレビシリーズが放送されました。その時に一瞬だけ天文学にハマりました(笑)。だからといって詳しいわけじゃないので真髄には出会えないままですが、ロマンは共有できます。

朝海 私も疎くて、今回の戯曲を読んで初めて聞く言葉ばかりでした。宇宙にまつわるエピソードでパッと閃いたのが、チャレンジャー号爆発事故。テレビで見た時に「宇宙=怖い」と感じてトラウマになっています。もちろん星を見て綺麗だとは思いますが……。

大河内 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』とか、憧れなかった?

朝海 『銀河鉄道999』が大好きだったので、あの感じで宇宙に行けるのかと思っていたところで事故を知って「鉄郎のようには行けないんだ」って(笑)。

――お二人が考える「生の舞台の面白さ」はなんでしょうか。

大河内 映像みたいに編集がない。劇場という空間の中で、始まったら最後までノンストップで俳優とお客さんが一緒に旅するのが一番の魅力だと思います。

朝海 自分と同じ生身の人間が演じているエネルギーを直で味わえるのが一番の魅力だと思います。物語やキャラクターなど、共感できるものが一つでもあると、そこからのめり込むようにして舞台の面白さがわかってくると思う。今回の作品は「何も共通点がない」と思っている方にこそ見にきてほしいと思います。生身の人間が発するエネルギー、共通点を見出した時の自分の変化をぜひ味わっていただきたいです。

大河内 空間と時間を共有する旅。映像で物語に共感するのとはまた少し違う。そこが醍醐味だと思います。

――お付き合いの長いお二人ですが、改めてお互いの印象はいかがですか?

朝海 このままの印象です。初めて会ったのは蜷川幸雄さんが演出を務めていた現場で、ピリッとしている中のオアシス。心が苦しくなると直子さんにお話を聞きに行ったり、そこで適切なアドバイスをいただいたり。当時から頼り切っています。

大河内 初めてお会いした時から、いつかご一緒したいと片思いしていました。青空のような雰囲気は当時から変わらないです。

――戯曲に「苦難の日々には、何か地球の外側にあるもの、何か卓越した遠くにあるものを慰みとするのがよい。」 というアニー・ジャンプ・キャノンの言葉が添えてあります。お二人にとって、大変な時に心を慰めてくれる存在や心の支えはなんですか?

大河内 厳密にいうと、この戯曲における「大いなるもの、遠くのもの」はキリスト教の神様の概念でもある。日本で上演する上でキリスト教に力点を置くつもりはありませんが、私自身、母がカトリックで折々「お祈りしなさい」と言われて育った。ちょっとした時に母親の「お祈りした?」という声を思い出します。キリスト教的な神様である必要はないんだけど、畏怖すべきものに対して頭を垂れるということは大事な気がしています。いつも祈るわけじゃないけど、ふっとよぎりますね。

朝海 周りの人の笑顔などを思い出します。綺麗な答えを言っているわけじゃなく、具合が悪い時とか困った時に、周りの顔がすごく浮かぶほうです。「あの人がすごく頑張っているからこんなことで挫けちゃいけない」という感じ。周りの人に助けてもらっています。

――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

大河内 天空への憧れ、人が生きることに対する憧れやロマン、生きる上での信念、そういう力をもらえる作品です。あとはやっぱり音楽。劇場で一緒に旅していただけると嬉しいです。

朝海 ストレートプレイで難しそうだと思っている方には、そんなことないと伝えたいです。音楽もあり、高橋さんが素敵な曲を歌ってくれる。コメディな部分もあって、ちょっと踊りもある。堅苦しい作品ではないので、お時間があったら劇場に足をお運びいただき、一緒に旅をしてください。

取材・文:吉田沙奈