KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース音楽劇『愛と正義』山本卓卓×益山貴司の初タッグで上演決定!

2024.09.12

2024年度メインシーズンの最後を飾るのは、山本卓卓と益山貴司初タッグで贈る音楽劇!

長塚圭史芸術監督のもと、4年目となる2024年度メインシーズンのシーズンタイトルは「某(なにがし)」。私でありあなたであるかもしれない某、意思を持ってあるいは意思をなくし正体を無くした某、大きな思想や金儲けのために生み出される某、今日も一日働いて誰にも褒められることもなく社会を支えている某。「某(なにがし)」のレンズを通すと、果たして何が見えてくるのか。今年度は、この「某(なにがし)」をシーズンタイトルに多様なプログラムを上演している。
メインシーズン「某(なにがし)」の締めくくりとして上演するのは、『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した、今、最も注目されている劇作家であり劇団・範宙遊泳主宰の山本卓卓による書き下ろし戯曲。山本はこれまでもKAAT 神奈川芸術劇場で、KAAT キッズ・プログラム 2019『二分間の冒険』や、KAAT EXHIBITION2022 関連企画『オブジェクト・ストーリー』と、想像力豊かで物語性に富んだ作品を創り出してきた。そんな山本が今回、“愛と正義”をテーマに新作戯曲を書き下ろす。
演出は、元・劇団子供鉅人で作・演出・代表を務めた益山貴司。静かな会話劇から生バンドを交えた音楽劇、また、広大な空間を生かした野外劇まで幅広い作品創作で演劇の可能性を追求し、2024年には新たに「焚きびび」を立ち上げるなど、精力的に活動の場を広げている。
音楽は、これまでも益山作品を多数手がけ、「情景が視える音楽」をモットーに舞台や映像作品、CMなど様々なジャンルに楽曲提供をしている音楽家のイガキアキコが担当。振付には、日本のコンテンポラリーダンス界を代表する振付家の黒田育世が参加し、黒田が主宰するダンスカンパニーBATIKより、2名のダンサーも出演する。
今回が初顔合わせの山本、益山二人の共同創作で贈る音楽劇に乞うご期待!

物語と詩で紡ぎだされる、人を助けるヒーロー達の世界。
語りと対話に、音楽と歌を散りばめながら表現される野心作

本作は、人を助けることを生業とするヒーローたちの世界を舞台とした音楽劇。人を助けることを諦めそうになるヒーロー。人を愛することをやめようとする人間。もうすでにそれをやめている怪物。戦うことは傷つけることとわかっているのに戦わなければならない立場。戦うことを放棄する者。死ぬ者。生き残る者。「愛と正義」が両立しない時、人はどうするか。深い愛の正体は、闇深い狂気なのかもしれないという疑心暗鬼。打ち勝って立つのはなにか。あるいは勝たないことが愛なのか。現代の「争い」に言葉と物語と暗喩と愛で応答する。
山本はこの物語を三部作として構成する予定であり、本作は第二部にあたる。主人公となるコチを演じるのは、KAAT キッズ・プログラム 2023『くるみ割り人形外伝』や『鋼の錬金術師』など幅広い役柄で魅了する一色洋平。コチの妻ソチ役にE-girlsで活躍後ミュージカル『SPY×FAMILY』などで活躍が目覚ましい山口乃々華。コチの相棒カレ役に福原冠、カレのパートナー、カノ役に入手杏奈。さらにコチのいとこであり、後にコチと敵対することになるウチ/アク役に木ノ下歌舞伎や映像作品などで圧倒的な存在感を放つ坂口涼太郎が出演。
コチは「私」ソチは「あなた」カレは「彼」カノは「彼女」アクは「悪」という、人間の関係のあり方を抽象化した物語を、神話性を持った壮大な戯曲をイメージしながら描き、語り(歌)と対話で展開する。

コメント

作:山本卓卓(やまもと・すぐる)

この世界で起きているさまざまなこと、そして私の身の回りで起きているさまざまなこと、難解でありながらも活き活きとしたもの、単純でありながら邪悪であるもの、投げ出したくなるねじれた諸問題、解明したい謎の苦しみの根幹、シンプルに幸福を感じる瞬間、けれど幸福であってはならないと己の中に巣食う悪魔、人への疑い、人からの疑い、経年、嘲笑、若い人々の台頭、ないがしろにされる老い、ひるがえってなにもかも美しいと思える心、しかしさらにそれをひるがえし美しくなくしてしまう醜い心、これらすべてが無であると、空であるという認識、生きることに意味などないという拡大解釈、生きることに意味を見出しすぎる誇大妄想、いろいろあれど、この文章を読んでいる人はみな生きている。生きていなければ出会えない。そういう演劇です。

演出:益山貴司(ますやま・たかし)

「愛と正義」について考えてみると、胸がかき乱される。
なぜなら、そう短くない自分自身の人生を振り返ったとき、これまで本物の「愛と正義」を持てたのか、それほどまでに切実な感情を抱けたのか、時には巨大な暴力を巻き起こすこの二つの絶対感情(という言葉があるかどうか知らないが)に身を焦がしたことはあるのか、と。山本卓卓氏は、もうタイトルだけで私の心を抉る。稽古に入れば、そのセリフと物語にキャストとスタッフも抉られ、本番では観客の心を抉るのだろう。ああ、なんともワクワクするようなこの戦慄……!そんな山本戯曲に、「愛嬌と誠実」で立ち向かっていきたいと思います。