写真左から)田鶴翔吾、奥谷知弘、永利優妃
アナログスイッチ21stsituation『寝不足の高杉晋作』が11月13日(水)に開幕する。
『寝不足の高杉晋作』は、2023年に19thsituation『信長の野暮』が好評を博し、今年3月に上演された20th situation『幸せを運ぶ男たち』はチケット発売間もなく完売となるなど、いま注目を集める“ゆるくて笑えてほっこりする”ワンシチュエーションコメディ劇団「アナログスイッチ」の2年半ぶりの新作。
幕末を舞台に、幕長戦争の最中に妾おうのと宿でごろごろする高杉晋作と、戦争に戻るように説得を試みる「焦る同志たち」、詰め寄る「置いてけぼりにされた妻」、そして巻き込まれる「欲深い宿の人々」の宿場町珍妙コメディとなる。作・演出はアナログスイッチの佐藤慎哉。
客演として参加し高杉晋作を演じる奥谷知弘、坂本龍馬を演じる田鶴翔吾、おうのを演じる永利優妃に話を聞いた。
読み合わせでもうくすくす笑っていた
――お稽古が始まっていかがですか?
奥谷 (田鶴に)どうですか?
田鶴 なんで俺にふるのよ(笑)。僕が演じる坂本龍馬が登場するシーンの稽古はこれからなんですよ。ただ読み合わせの段階でもう笑っちゃうような作品なので、早く参加したいです。
奥谷 僕はアナログスイッチ作品は3作目なのですが、新作は2年半ぶりということで、顔合わせの空気感がこれまで2回とはちょっと違いました。ただ翔吾くん(田鶴)も言ったように読み合わせでクスクス笑って、立ち稽古でも僕が演じる高杉晋作はそんなに笑わない役なのに思わず笑ってしまって。おもしろい芝居とおもしろい台詞がたくさんある作品だなと感じています。
――顔合わせの空気感が違ったのはどうしてだったのですか?
奥谷 なんかちょっと硬かったんですけど理由はわからない……。緊張かなと思ってたんですけどね。稽古は和やかです。
永利 和やかですよね。私はスケジュールの都合で昨日が久しぶりの参加になってしまい緊張マックスだったんですけど、最初に楽しいウォーミングアップをしてくださって、そのおかげで緊張が解けました。作品的には爆笑が起きるというよりは、誰かがずっとくすくす笑っているような感じで、それもすごく楽しいです。
田鶴 え、緊張してたの? 普段から緊張しい?
永利 そういうわけでもないんですけど。
田鶴 そうだよね。肝座ってる感じするもん。
永利 なんでそう思ったんですか!(笑)まだお会いして3回目くらいなのに。
田鶴 僕は人間観察が好きなんです。(永利は)緊張してもやる時はやるしかないっすよね!ってタイプ……だと予想をしている。これが違ったらカーテンコールで謝る。「あの記事は間違いでした」って。
永利 (笑)
奥谷 そこまで引っ張るの!?(笑)
――奥谷さんのことも観察されましたか?
田鶴 体育会系の熱血部長とかじゃなくて、「これやるんですか?」って言いながらちゃんとついてくるタイプだと思う!
奥谷 どうでしょう。
田鶴 これも違ったらカーテンコールで謝ろう。
永利 あはは! でも私もそんな感じがしてます。「よっしゃやるぞ!」とか「よろしくね!」って感じよりは、おっとりしてる。
――逆に田鶴さんはどんな印象ですか?
奥谷 翔吾くんは顔合わせがはじめましてだったんですけど、その日は雨も降っていたし、夕方で外は暗かったし、体格も大きいし、全身真っ黒のお洋服だし、
田鶴 犯罪の香りが……
一同 (笑)
奥谷 だから第一印象はちょっと怖い人なのかと思ったんですけど、実際は今もそうですけど、会話を楽しくしてくれる方でした。なにをしてもツッコミを入れてくれる安心感があります。これも違ってたらカーテンコールで謝罪します!
田鶴 みんな謝罪しようとする(笑)。
永利 私は最初にお会いしたのが撮影スタジオで、扉を開けた瞬間に笑顔で喋り倒していらっしゃったのでほっこりしました。
奥谷 ははは!
永利 そのあとご挨拶に行ったら、身長がめっちゃ高いし、その時も黒い服で柄シャツを合わせていらっしゃって、けっこうな眼力で……。
田鶴 俺やべえ奴だな!
一同 (笑)
永利 でも読み合わせの時点で、会話のシーンでは目を見て話してくださったので嬉しかったです。仲良くなります。
心電図のようなイメージで積み重ねていく
――佐藤慎哉さんの脚本の印象をお聞かせください
田鶴 この作品で描かれる時代って日本史でもトップクラスに盛り上がっているところだと思うんですけど、だからといって一人一人に見せ場があるというような作品ではないんです。なんか心電図のようなイメージで、少しずつのぼっていって、ビクッと笑いが起きて、またのぼっていって、ビクッと笑いが起きて、みたいな。それも一人で上げるんじゃなくて、みんなで協力して徐々にあげていくような作品なんだと思っています。ソロプレイをすると崩れそうというか、そのくらい全員で細かく細かく積み上げいく脚本だと感じたので、みんなでどうやってつくっていくのか楽しみにしています。
永利 心電図、いいこと言う。私がこれまで出演してきた作品って、「熱いメッセージを全員で伝えるぞ」とか「みんなの芝居の熱量を回して回してお客様に伝える」みたいなテイストのものが多かったんです。でも今回の脚本はまた違うイメージ。長台詞を喋ることもあまりなくて、「ね!」「あら!」「うん」みたいなやり取りがすごく続くんです。その中で心電図のビクッみたいな、
田鶴 え、奪われてる……。
奥谷 あははは!
永利 (笑)。ビクッとなるところで、おもしろいところとか印象に残るところがつくっていけたらいいなと思います。
奥谷 慎哉さんの書く脚本は悪者が出てこないんです。今回も幕末を描く作品なのに悪者が出てこない。ワンシチュエーションで最初から最後までいくし、「そこをピックアップするんだ」「やっぱおもしろいな」と思わされます。いまから楽しみなのは、いろんな場所にいるいろんな人たちのいろんな会話が入り混じるシーン。現時点ではとりあえずみんな声を発するだけみたいな状態なんですけど、そこをなんて言うんですかね、心電図を合わせるじゃないですけど、
田鶴 スーッ
奥谷 (ひょうひょうとして)早くみんなで合わせてやってみたいです。
一同 (笑)
――会話が入り混じるシーンは、奥谷さんが出演された『信長の野暮』(’23年)でもありました。どんな風につくっていかれるのですか?
奥谷 その時の稽古では、まず動きをつけずに台詞だけを合わせていく、というところから始まりました。なんかスポーツみたいでしたよ。自分がこの台詞を言うことが、全然違う場所にいる人の台詞のきっかけになる、という構造だから、感情うんぬんの前にまずはそのテンポを身体に叩き込んでいく、みたいな。
――そういう一つ一つの積み重ねで物語が動いていくのがおもしろいですよね
奥谷 はい。劇中で切り取っている部分は些細な瞬間で、それがチリツモ(塵も積もれば山となる)になって、物語が進んだり笑いになったりする。その積み上げ方もそうだし、切り取り方もそうだし、笑いへの持っていき方もおもしろい脚本だなと思います。
――みなさん歴史上の人物を演じられますが、実際の人物像は役づくりにどう影響していますか?
田鶴 僕が演じる坂本龍馬は一般的にキャラクターが強い人だと思うのですが、今回は高杉晋作を説得しにいくという役どころで、その説得チームの一人としての動きが大事なのかなと思っています。だからキャラクターを強くするのは今回は違うかなと思っていて、あちこちにアンテナを張って、もらったボールを大きくして返すような作業がメインになるかなと考えています。
永利 私が演じるおうの(高杉晋作の妾)は、資料として残されている人物像とはだいぶ違っているんです。おしとやかで大人しくて静かに晋作に尽くすところが心地よくて晋作は一緒に居た、みたいなことが書かれていたんですけど、この作品では芯をしっかり持った強めの役柄です。だから今回は、世で知られるおうの像をぶっこわしてやろうと思います(笑)。晋作をひたすら愛するところは変わらず、だけどキャラクターとしては新しいおうの像をつくっていきます。
奥谷 この作品は、僕が演じる高杉晋作が軸になって物語が進むのですが、高杉晋作ってカリスマでかっこよくて強いイメージがあると思うんです。でも今作ではそういう高杉の、自分が予想していなかったことが起きた時の様子や、周りの人たちとお互いに与え合う影響、労咳を患う史実も含め描かれるので、シーンによっては繊細なお芝居が必要なりそうだなと思っています。それもひっくるめて笑える要素をつくりたい。だからみんなで息を合わせながらつくっていけたらなと思っています。
インタビュー・文/中川實穂