師走の博多座は世界に誇る日本の宝 “文楽”を上演☆「博多座文楽公演」│人間国宝・桐竹勘十郎インタビュー

12月22日(木)・23(金)に福岡・博多座で上演が決定している、博多座文楽公演。毎年12月上演が博多座では恒例となている文楽公演だが、今年この公演に出演する人形遣(つか)いで人間国宝の桐竹勘十郎に、公演について話を聞いた。

――博多座のお客様の印象を教えてください

私だけでなく出演者のみんなが「博多座のお客様は熱い」といつも楽屋で話しています。以前『三番叟』をやらせていただいた時に手拍子が起こったことがありました。本当に客席から熱を感じるという印象です。

――今回は新作浄瑠璃『端模様夢路門松』が上演されます。どのような作品ですか?

私が30代の頃に作った作品で「つめ人形」が主人公です。「つめ人形」とは、端役で遣う一人遣いの素朴な人形のこと。普段は若い人が足遣いで修行しながら端役のつめ人形を遣います。私も若い頃によく遣いました。非常に愛着があるんです。

普通の人形は、人形遣いが拵えると、その人形遣いしか扱えないんですね。つめ人形は端役なので誰でも扱えるんですけど、そういった端役の人形たちだけで、お芝居ができないかなぁと若い頃にふと思いまして、恥ずかしながら自分で脚本を書いて、鶴澤清介さんに作曲していただきました。随分長いこと上演されてなかったんですが、最近また復活することができました。

――文楽の人形は三人で扱うものだと思っていました

三人遣いが基本ではありますが、全て三人遣いだと人形遣いがたくさん必要ですし、舞台上が人でいっぱいになるので、「つめ人形」といういわば便利な一人遣いのものがあるわけです。いろんなお芝居で活躍しますよ。

――文楽の新作が上演されることが新鮮です

古典の演目は私たちの宝物であり財産ですが、新作も何年かに一度は作っているんですよ。子ども向けにも3つほど作っていまして、幼稚園や保育園のような場所でも上演させてもらってます。

――今回の作品のみどころを教えてください

普段あまり目立たないつめ人形の一人が、「つめ人形はいやや、三人遣いの人形になってみたい」と夢を見る物語です。ほとんどつめ人形しか出てこないんですよ。動物が出てくるシーンもあったりしますので、ぜひ大人の方から子どもさんまでご覧いただきたいです。

――つめ人形は三人遣いの人形とは違いはありますか?

小さく簡単な構造でできていますが、素朴な方が返って難しい場合があります。三人遣いは主遣いのほかに左遣いと足遣いが助けてくれますけども、つめ人形は誰も助けてくれませんから。頭と右手と―、右手といっても人形に手はありませんから、人形の着物の袖に手を入れて、手があるようにお芝居を見せています。

若い頃に師匠方から「つめ人形でも三人遣いをやっているつもりで遣いなさい」「お芝居は主役も端役も同じ」とよく言われました。つめ人形であっても、作者が必要だからそこに登場する、主役と同じ立場ですよと。工夫次第で悪い役も良くなると言われて、若い頃はつめ人形を頑張って遣っていました。

――そんなつめ人形への思いがこの作品を生んだと?

そうですね(笑)。つめ人形だけでも充分お芝居が作れるんじゃないかと。作品など書いたことなかったのに割とすぐに書けましたね。

――もうひとつの演目が『曲輪文章(※1) 吉田屋の段』ですね

近松門左衛門の『夕霧阿波鳴渡』を原作に改作したものです。夕霧という大坂の有名な花魁と、大店の若旦那で二枚目ですが紙衣(紙で作った着物)を着ないといけないくらい落ちぶれている伊左衛門の二人の物語。この夕霧と伊左衛門のくどきがみどころです。全盛の花魁と、紙衣で落ちぶれている伊左衛門の対比がおもしろいですね。今回は私が夕霧をやらせていただいて、吉田玉男さんが伊左衛門を遣いますが、どちらも難しい役ですね。

――男性と女性の人形を遣う難しさはありますか?

立役と女形は人形の持ち方が全然違いますから、使う筋肉も変わってきます。両方遣うのは難しいと言えば難しいですね。大きな人形ですと構えも変わってきますから。立役ばかりやっていると構えが固まってしまって、女形の構えができなくなるんです。まんべんなくやらないと体が固まってしまうというのはあります。

――女形の役の中でも難しさに違いはありますか?

今回の夕霧は女形の中でも特に一番大きな人形で、打掛を着て衣裳も重たいですし、かしらも立兵庫(たてひょうご)という、かんざしをたくさん挿して豪華です。とても重たいですが、だからと言って力を入れると柔らかで優しい動きがなくなります。その辺のペース配分や力の入れ加減が難しいですね。

――生きているように見せる表現力の秘訣は?

足遣いから左遣い、主遣いへと充分に修行をしていけば自然に人形は動くようになりますが、難しいのが、主遣いが左遣いと足遣いに合図を送って動かしているということ。振りを三人が練習して覚えるのではなく、主遣いが合図を送るので、初日と二日目は動きが違ったりするんですよ。その合図を左遣いも足遣いも覚えるんです。その三人で成り立つ微妙な関係がいろんな役に影響するんですよね。

――文楽を初めて見る方へ面白さを伝えるとしたら

浄瑠璃と聞くと難しそうに聞こえると思うのですが、300年前の大坂の言葉。ミュージカルやオペラのような音楽劇で、義太夫節にのって人形が芝居をしていきますので気楽に観ていただけたら馴染めるのではないかなと思うんですね。あまり難しいことを考えずに、太夫の語りや三味線の音色、人形の動きなど、自分自身が感じる魅力を見つけていただきたいと思います。

――最後に意気込みをお願いします

みなさんに喜んでいただけるような舞台になるよう精一杯頑張ります。博多座でお待ちしております。

(※1)曲輪文章の「文章」は、「文」辺と「章」のつくりで一文字が正式表記