『春暁特別公演2023』 中村勘九郎+中村七之助インタビュー

©福岡諒祠(株式会社GEKKO)

2005年から中村勘九郎と中村七之助を中心にしてほぼ毎年行ってきた、中村屋一門の全国巡業公演。2023年は“春暁特別公演”と銘打ち、全国12カ所を巡る。今回はお馴染みトークコーナーでは勘九郎と七之助に中村鶴松も加わり、賑やかかつ楽しい話が聞けそうだ。上演される演目としては中村屋一門の門弟たちによる『元禄花見踊』、勘九郎による『仲蔵狂乱』、七之助と鶴松による『相生獅子』が予定されている。勘九郎と七之助に、この巡業公演への想い、それぞれの演目の見どころなどを語ってもらった。


――2023年も恒例の巡業公演が行われます。勘九郎さん、七之助さんにとって、全国各地で行うこの巡業公演には特別な想いがありそうですね。

勘九郎 2005年から今回で19年目になるのですが、始まった当初はまさかこんなに長く続くとは思っていませんでした。まさに巡業の芸談コーナーで「継続は力なり」というお話をよくさせていただいておりますが、本当にその通りで。毎年毎年やらせていただくことによって、私たちももちろんですが、中村屋のお弟子さんたちみんなの力になっていると感じています。さらに、この特別公演をきっかけに、歌舞伎座であったり中村座であったり、他の劇場で行われている歌舞伎公演にも足を運んでくださる新しいお客様も増えていますしね。今年もまだまだコロナ禍が続く状況にはなっていますけれども、こうして全国を巡業させていただけることは実にありがたいことだと思っております。

七之助 本当に、こうやって毎年行かせていただいていること、ありがたく思っています。今回はコロナ禍も少しは落ち着き始めているとはいえ、全国各地のお客様はまだ東京だったり大阪だったり大都市の劇場には行きづらい方も多くいらっしゃいますので。私たちのほうからいろいろなところをまわらせてもらって、ちょっと足が遠のいていた歌舞伎をみなさまに観ていただく機会を設けられることはとても嬉しく思います。中村屋一丸となって、一生懸命良い舞台をみなさまにお見せ出来たらなと思っております。


――今回上演するそれぞれの演目の解説、見どころなどをご紹介いただけますか。まずはトークコーナーに関しては。

勘九郎 毎年行っているトークコーナーですが、今、残念なのはお客様からの質問が、お手を挙げていただいて直接やりとりをすることがなかなか難しい状況なので。事前にご質問を紙に書いていただいていまして、それをボックスからひいてお答えする形になっております。全国をまわりますので、その土地ならではのお話が出来るところもこのコーナーの面白いところです。どこに行っても歌舞伎にゆかりのある場所や史跡などがありますから、そこでのお話を地元の方たちと出来るというのは和気藹々として楽しいですし。お昼ごはんはどこに食べに行ったら美味しいですかとか、そういうお話も大いに盛り上がります。やはり歌舞伎というとまだどうしても堅苦しく敷居の高いものというイメージがありますので、まずはお客様の心の壁を取っ払ってから、そのあとの演目を観ていただきたいんですよね。トークコーナーではできるだけ素の部分、飾らない僕たちのままで話そうと努めています。

七之助 長年こうやって巡業させていただいて、ようやく2022年に47都道府県を制覇させていただいたことになるんです。その中にはもちろん何度も行かせていただいている土地もありますので、そうするとそこに馴染みのお店だったり必ず行く場所があったりするので、そこに足を運べることも楽しみなんですよね。私事ですけれど、ラジオの仕事をここ1年くらいやらせていただいておりまして。これまで私は、昼の部と夜の部の間の時間は楽屋にいることが多かったのですが、そのラジオのインスタグラムのために最近は劇場の近くの名所や神社、歌舞伎にゆかりのあるスポットを訪れるようにしているんです。ですので今回はさらに、トークコーナーの話題の幅も広がるのではないかと思っています。


――続いて『元禄花見踊』について、解説をお願いいたします。

勘九郎 『元禄花見踊』は、ご覧になっていただけるとすぐわかると思うのですがとても耳馴染みのある音楽が使われていまして、その音に合わせて元禄の男と女が華やかに踊ります。まずは、そのビジュアルですよね。美しさもあり、その当時の髪の結い方や衣裳など、目でも楽しんでいただける演目になると思います。

七之助 トークコーナーのあとにふさわしい、一発目の演目ですよね。難しいことは何も考えずに、ただただ綺麗な踊りを堪能していただいて、自然と歌舞伎の世界観に没入していただければ。一緒にお花見をするような気分で、リラックスして観ていただければ幸いです。

 

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――そのあとは勘九郎さんによる『仲蔵狂乱』です。

勘九郎 この演目を上演すること自体とても久しぶりになりますので、おそらくお客様の中でも観たことのある方はいないんじゃないかな。踊りの会などでなさった方はいらっしゃるかと思いますが、こういう本興行ではなかなかやっていないはずです。そういった珍しい踊りをやれるというのも、この巡業特別公演ならではですよね。これは私事ですけれども、昨年末にNHKのドラマ(『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』)で中村仲蔵を演じさせていただきまして。この仲蔵さんという人は、出世していったサクセスストーリーが落語や講談で有名なんですけれども。志賀山流の養子となり踊りの名手とされていた方で、今でも“仲蔵振り”というのが現代にも残っているという、なかなか他にはいない歌舞伎役者のひとりなんですね。『仲蔵狂乱』というのは、本名題を『狂乱雲井袖(きょうらんくもいのそで)』というのですが、仲蔵という名前を入れて呼ばれるくらいの表現になってしまっているわけです。だから舞台に中村仲蔵が出て来るわけじゃないんですよ。とてもしっとりとした踊りで、私もあまり手がけたことのないような踊りのひとつだと思います。この難しい踊りをどれだけ現代のお客様に楽しんでいただけるか、そこは踊り手の腕の見せどころですし、それに私たちにとりましてもゆかりのある人物が演じた役でもありますしね。ぜひ、楽しんでいただければと思います。

 

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――七之助さんが鶴松さんと共に踊られる『相生獅子』についてはいかがでしょうか。

七之助 今回は『元禄花見踊』があって、その『仲蔵狂乱』という僕も観たことがない踊りがあり、そして締めくくりの踊りとなるのがこの『相生獅子』となります。これは長唄の石橋物としては最古といわれるほど古い曲でして、前半はまずお姫様が二人で品よく華やかに踊るところが見どころでございますね。鶴松と二人でがっつり踊るというのも、なかなかなかったんじゃないかな。最終的には獅子になるわけですが、女方の、お姫様の格好で毛を振るというのもまあまあ珍しい形の踊りだと思います。単に獅子の毛を振ることも難しいのですが、お姫様の格好でとなるとまたふだんの獅子の姿で毛を振るのとも違ってくるんです。裾をひいていますし帯があることで重心が後ろに持っていかれるので、バランスが悪いんですね。それに女方だと歩幅を狭めなければならなかったりして、獅子の精がのりうつっているとしても気をつけなきゃいけない。そこが難しいところです。それと鶴松に関しては、2022年は初の自主公演で『高坏』と『鏡獅子』という、またこれも別次元の難しさがある踊りを選び、見事に一日二回踊り切りましたからね。特に『鏡獅子』に関しては、僕も手放しで喜べるくらいのものを見せてくれたので。これからもどんどんチャンスがめぐってくるでしょうし、とてもいい時期に来ていますので、ぜひご注目いただければと思います。


――では、この公演を楽しみにされているお客様へメッセージをお願いいたします。

勘九郎 コロナという流行り病が出て、はや三年になる年でございますけれども。未来は徐々に明るくなってくるとは思うのですが、やはりまだ日頃から気をつけることを続けなければならない中で、本当に短い時間ではございますけれども、劇場に来てくださって芝居を観ている間だけでもその現実を忘れさせて美しい世界に誘いたいと思っております。一生懸命、私たちも切磋琢磨しようと思っておりますので、お客様も堅苦しいものという気持ちではなく、春爛漫のひとときを楽しむような気持ちでいらしていただければ嬉しく思います。

七之助 毎年恒例の巡業が2023年もできるという喜びを噛みしめながら、全国12カ所24公演をまわらせていただきます。もちろん私たちの体調面も、スタッフサイドとしても、コロナ対策をバッチリしてみなさまに安全安心に観ていただけるように努めます。さらに気を引き締め、ひとつひとつの公演を一生懸命に踊りたいなと思っておりますので、ぜひ足をお運びください。よろしくお願いいたします。

 

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取材・文/田中里津子